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【第41話】 路上のカフェテリア🇲🇲

ミャンマーでどうしても撮りたい男が一人だけいた。その男は路上でカフェを営業していた。この国のある日系企業のインターンシップに参加した際、宿への帰り道に偶然立ち寄ったのだ。夕暮れ時の一服。出されたチャイをすすりながら、キビキビと立ち振る舞う彼を眺めた。かっこいいな、と思った。

同じ時刻にふらっと立ち寄ると、彼はまだ同じ場所に店を張っていた。女性に会いに行くわけでもないのになんとなく緊張する。「あなたに会いたくて来ました。ぜひ取材させてくれませんか」と事情を説明した。「わざわざ俺に会いに来たの?」彼は笑いながら喜んでくれた。だが思いがけないことを言う。「路上でカフェを営業するのは違法だし、役人にかなり突かれている。無理そうだよ、ごめんな」

路上営業。このカフェは遠くない未来に失くなる運命なのかもしれない。そうであればここで簡単に引き下がるわけにはいかない。「ちょっと待ってください!」説得を試みた。

整然と並ぶコーヒーカップ
歩道での商いは消える運命か
熱々の紅茶を注ぐ
彼の立ち振る舞いが好きだ
仕事終わりの男たちが集まる
彼らの話相手もする
毎晩食後に通いたくなる
食事をして寛ぐ者もいる

「じゃあ30分だけなら」彼が頷いた。「ありがとう、すぐに機材をセットする」

カメラを回しながらこの機会を与えられたことに感謝していた。感動すらしていた。きっと消えゆく運命の路上カフェ。今、その運命に対峙している一人の男にカメラを向けている。そう思うと鳥肌が立った。できるだけかっこよく撮りたい。だが、彼はこちらの「こうして欲しい」という要望には一切応じなかった。

彼はどんな気持ちで仕事をしているのだろう。用意した簡易のインタビューリストではそこを深掘りできない。本当に良いものを撮ろうと思ったら通訳が必須だと思い知った。今はそこまで自分の創作を深められない。でもいつか必ず良いものを撮る。せっかくのチャンスをもらえたのだから、今はできることをやるしかない。

喫茶店の仕事をしています

店は夕方から出します
夕方の4時から深夜11時までですね

この仕事を選んだのは紅茶が好きだからです
この仕事が好きですよ

大変なことも多いですが紅茶を淹れるのが好きなんです
私の作った紅茶やコーヒーを目当てに来てくれるんですから嬉しいですよ

ただ子どもには勧められません
若い人はこんなことやっちゃいけない

ちゃんと勉強しないとです
英語とか他にも色々とあるでしょう
若い人はたくさん勉強しなきゃいけませんよ

Tea Stall in Rangoon MYANMAR summer 2018
www.monologue365.jp

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