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「TOKYO NIGHT PARK」宇野常寛さん対談 ~人間を「見ている」ものをどう世界に増やしていくのか~

水野:宇野さんは評論家としていろんな活動をされていまして『PLANETS』っていう批評誌を出されていますし、著書もたくさん出されています。水野と初めて会ったのはもう7年前ぐらいですか?

宇野:そんなになるんですね……。

水野:共通の知り合いを通じて一度お話をさせていただいて。そのあと宇野さんが音楽を題材にしたイベントをやられたので、音楽評論家の柴さんとかと一緒に登壇させていただき。そこらへんからお茶をしたり、親交を結ばせていただいているんですけど。実は、宇野さんを番組に呼ぶというのは初めてなんですよね。僕のほうから訊きたいなと思って。というのも、こういうご時世になって、「場」を作るということをどうやっていけば良いのか本気で考え始めていて。今、この『HIROBA』というプロジェクトもそうなのですが、それだけではなく宇野さんは「遅いインターネット」というものを提言されて、いろんな活動をされています。

新型コロナウイルスの感染拡大があり、世の中がバラバラになっていて、みんなが直にコミュニケーションを取れないと言われている。一方で、逆にネットでしか繋がれなくて。それはどういうことを意味しているかというと、繋がりすぎてしまう。全部が境界もなく繋がっている世界に全員が行かなきゃいけなくて、とにかくずっと繋がっていなきゃいけない状態に陥っているんじゃないかなと。そのなかでどう建設的に場を作るのか、自分が居やすい場所を作るのかって、すごく難しいことだなと思っていて。そこを宇野さんにいろいろヒントをいただきたいなと、今日お呼びしたんです。まず、この1年でかなり社会状況は変わりましたけど、宇野さんはどのようなことを考えていらっしゃいましたか?

宇野:コロナショックというものがあって、僕がいちばん考えたことは、いよいよ人間が人間の顔しか見なくなってしまったことです。今回のパンデミックの特徴って、インフォデミックがパンデミックを後押ししていることなんですよね。つまりデマとかフェイクニュースというものに、ひとが飛びついてしまって、その結果社会の混乱が増している。もしかしたら感染そのものよりも、感染への不安が引き起こした社会の混乱のダメージのほうが大きいかもしれない。現代を生きる人間は「わからないこと」がいちばん怖いんですよ。インターネットを検索しても「答え」が見つからないものが現れてしまうと、不安でパニックになってしまう。たとえば日本で言うと、10年前の東日本大震災のあとの原子力発電所の事故がそうだったと思います。あのときは政府すらも正確なデータを持っていなくて、非常に情報が錯綜して大混乱に陥りましたよね。今の知識社会のなかでは、やはり「わからないこと」っていうのがいちばん怖い。だから、よくよく調べたらちゃんとしたソースもないし、少し考えたら論理的にも間違っているとわかるはずなの、「わからないことがある」ということに耐えられなくて陰謀論やフェイクニュースに飛びついちゃうわけですね。そのことがSNSの影響もあって止まらなくなってしまっている。

実際、ステイホームになって、みんなずーっとインターネット、特にSNSを見るようになったと思うんですよ。その間ひとりで何を考えているかというと、基本的にはもう、コロナという「わからないもの」に対する不安ですよね。どれぐらい怖いウイルスなのか。私の身の回りのひとが感染したら、自分をどう守ればいいのか。経済はどうなっていくのか。わからないから不安になる。その不安が蓄積するだけだったら良いんだけど、人間は弱い生き物で、不安をごまかすためにそれをむりやり「わかる」ことにした言葉を自分に言い聞かせるように吐き出すわけないじゃないですか。やっぱり人間って発信することによって不安を紛らわそうとするわけですよね。すると、インフォデミックがどんどん広がっていく。インフォでミックが広がっていくことによって、さらにパンデミックも抑えられなくなる。たとえば、まさに今、政治生命を失おうとしているドナルド・トランプというおじさんがいますよね(笑)。彼が「コロナはただの風邪である」と「マスクなんてするな」と「経済を回すためにどんどん街に出ろ」と、それに近いようなことを言っていたわけですが、はっきり言ってあれって選挙対策なわけですよ。

水野:なるほど。

宇野:彼の支持層である「自分は古き良きアメリカの自立の精神を大事にしている」とか思い込んでいるひとたちの、票固めのためのパフォーマンスが必要なんですよね。だからトランプは、実際に起きていることに即した内容ではなく、人々の精神安定剤として機能する物語をどんどんツイートするわけじゃないですか。それを利用して戦っていたんですよね。

なので、いちばん僕がこのコロナショックで変わったなというか、明らかになったと思うことは、人間は今起こっていることに対する不安から逃れる前に、現実ではなくてモニターのなかの情報を見るようになってしまったなということ。現実に何が起こっているかは多分、誰にもわからない。でも、わからないっていうことにしっかりとつきあっていって、少しでもわかる領域を増やしていくことが、本当の科学的な態度なはずなんですよ。ところが人間は弱いからそれに耐えられずに、負のスパイラルに入ってしまっている。そして困ったことに、今はSNSが世界に存在していて「〇〇がこう言っている」ということを眺めている間は、コロナのことを忘れられる。そのせいもあって、止まらないインフォデミックでパンデミックが起こっているのが現状なんじゃないかなと。

水野:そういう情報が溢れていくなかで、たとえば震災のときであれば、画面から離れるということがひとつの手段としてあったと思うんですよ。ネット以外での繋がり。それぞれの生活があったり、違う部分を見ることができたりしたと思うんですね。でも今は、ネットにしか自分たちのコミュニティーがないというひとたちがすごく多くて。とくに一人暮らしの方とか。その状態から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。

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