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読む『対談Q』吉田尚記さん(アナウンサー)「情報収集の本質は”知らないこと”だ」前編②
HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。
今回のゲストはアナウンサーの吉田尚記さん。
前回はこちら↓
情報収集の本質は「知らないこと」
水野:オカルトに行くんだ(笑)オカルトに行くってどういうことですか?
吉田:要は、根拠なんか何もない話が好きになっちゃう。
水野:科学の先に行くってこと?論理の先に?
吉田:そうそう。科学とか論理ではなく。だからみんな、未確認生物とかに異常に詳しい。ネス湖のネッシーがいるかいないかについての豆知識を膨大に持っていたりする。すごいですよ。ただ、これが役に立たないということは全員100%わかっている。
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吉田尚記
ニッポン放送アナウンサー。
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。
2012年第49回「ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。
「マンガ大賞」発起人。
『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が13.5万部を超えるベストセラーに。ほか、コミュニケーションからメディア論、アドラー心理学、フロー理論などについて10冊以上の著書(共著含む)があり、2022年1月に医師の石川善樹氏とのウェルビーイングについての共著が出版予定。
水野:“ノンポリ”って言い方をされましたけど、たしかに、ある種の価値基軸や、目的意識があると、それに合わないものは情報を取る必要がないって判断になっちゃいますよね。全方位的に情報を集める姿勢にはならない。だから結果的には、何も価値判断がなくて、何も軸がないってほうが、情報収集にとっては良い。
吉田:そうですね。新しいものが入ってきたときに、受け入れられなくなるんじゃないですか。方針が立てられると。情報収集の本質って「知らないこと」ですものね。
水野:ああ、それはそうだ。
吉田:よくSNSで「エコーチェンバー」とかいうじゃないですか。SNS上で、自分と同じ意見ばかりが聞こえてくる状況。自分が心地いいと思う意見ばかり、入ってくる。この10年経ってないと思うんですよ。そうなったのって。
水野:そうですね、最近ですよね。
吉田:そうなってしまったがゆえに、わけのわからないことで頭をボーンッて殴られるみたいな体験って、本当は気持ちいいはずなのに、気持ち悪いって思っちゃうひとが増えているんですよ。THE BLUE HEARTSじゃないですけど、昨日まで知っていたことがすべて嘘だったら最高なのにって、僕は常に思う。
THE BLUE HEARTS /情熱の薔薇
水野:いやぁ、そうはみんな思ってないでしょうね。
吉田:え、痛快じゃない?
水野:いや、不安定にならないですか?
吉田:生きてんじゃん。
水野:急に話が深いなぁ。生きてんじゃんって。そこに恐怖感はないんですか?何かが根底から覆されることに対して、恐怖心よりも好奇心のほうが強い?
吉田:ドリフみたいな気持ち。
水野:ドリフ?
吉田:いろんなことがあって、バーッてなったけど、上のお盆が回ったら、その瞬間にかかってくる曲が、僕は悲壮的な曲じゃなくて、テッテッテッテッテレテッテッていう曲だと思うんですよ。
水野:それは根本的に吉田さんが明るいのかな。明るいのか、虚無主義なのか、ちょっと諦めているのか。
吉田:どっちもでしょう。でも虚無と明るいは近いかもしれないですよ。
水野:近いですね。それは近い。
先なんて読めたことある?
吉田:何のために知識をみんな持っているかというと、多分、先のことを予測するためとかじゃないですか。でも、逆に聞くけど、先なんて読めたことある?
水野:ないですね。ない。ここ2~3年はそれが証明されちゃいましたね。
吉田:そうでしょ。誰一人として、パンデミックでこうなるなんて掴めなかったし。たとえば、今日の東京の新規感染者数9人なんですよ(収録時)。こんな急に11月になったら収束していくって…。
水野:10人を切ったんですよ、今日。
吉田:読めます?そんなの。
水野:読めない、読めない。
吉田:コンサルティング会社のひとに聞いたことがあって。「業界に入ってまず何をするんですか?」って聞いたら「その業界の情報を収集する」と。昔からの業界の知恵みたいなものってあるじゃないですか。それを集めると。で、それは大体9割嘘だと。
水野:あははは。
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吉田:「え?じゃあ全部嘘とかって、あるんですか?」って聞いたら「うん、全部嘘でも驚かない」って言われて。何なのそれ?って思いません?それが未来を予測することなんて無理だと思ってしまえば、いいじゃんって。そこが崩れても悲しくもなんともないじゃんって。あとね、問題解決や未来予測の文脈でいうと、ことわざって存在も不思議すぎて。
水野:はいはい。
吉田:ことわざって、100%、逆の意味のことわざがあるんですよ。たとえば「急がば回れ」って言うじゃないですか。その一方で「思い立ったら吉日」って言うじゃないですか。完全に矛盾していますよね。
水野:ああ。
吉田:こっちが存在するのに、なんでこっちも存在するのって。
水野:思うに僕は「未来への対応手段」として知識が用意されているのではなくて、究極的には現在しか人間は生きられないわけだから「現在への対応手段」として知識が用意されているんじゃないかなって思うんですよ。
吉田:うんうん。
水野:現在という時間のなかでその都度、起きていく状況と自分自身との関係って刻一刻と変わっていくから。ずーっと無限に変わり続けている。その瞬間ごとに合うように、要は適合できるパズルの1ピースだけを与えられて、それを自由に解釈しながら使えるようにしてあるんじゃないかなって。ことわざで矛盾するものが並立しているのも、どちらの意味が本当かということは問題じゃなくて、どんな状況でも対応できることが大事で。そのために武器が増やされているって考えたら、矛盾なんて、どうでもいい。
吉田:まさにそれで。なんですごいわかるかっていうと、私、司会者なんですよ。司会者って、場を円滑に回すのが仕事なんですよ。今はめちゃくちゃ場を乱していますけど(笑)
水野:場にドライブをかけまくっている(笑)。
吉田:たとえば私、日本のオリンピック招致が決まるか、もしくはイスタンブールになるかっていうイベントのパブリックビューイングの司会をしたことがあって
東京オリンピック開催地決定
水野:わー。どうなるかわからない。
吉田:本当に誰も、事前には情報がわからない。そのときに、観客と出演ゲストたちは「いやー、もう東京になってほしいですよね!」って言っているんですよ。「東京!東京!」ってコールが起きたりして(笑)
水野:もう、盛り上がっちゃってる。
吉田:その真ん中に僕がいるじゃないですか。真ん中で司会をしている。僕だけ「いや、イスタンブールの可能性も五分五分であるぞ」って思って立っているわけですよ。
水野:ははは。
吉田:この圧倒的な空気のなかでイスタンブールになったときに、どうしようって。
水野:想定はしなきゃいけないですよね。
吉田:そう。想定すると、もうそこからイスタンブールに関しての様々な「イスタンブールに決まったことは、あなたがたにとってもマイナスではございません」という論理の組み立てがその瞬間から始まるわけです。
水野:ははは。
吉田:初めて東洋と西洋の間の都市で行われるんですね!親日国のトルコで!みたいな。
水野:うんうん。
吉田:その瞬間、イスタンブールについての知識って、ぜんぶ、そこにいるひとたちを慰撫するためにあるんですね。ことわざが両方用意されているのも、まさにそれと同じで。何かあったときに「今すぐできました!」ってなったら「やっぱり思い立ったが吉日」ですね」って司会者は言うべきだし。逆に「2か月かかるの?」って言われたら「まぁまぁ、落ち着いて。急がば回れって言うじゃないですか」って言うべき。
価値基準に従属した物語ではなく、自分の物語を
水野:情報収集も含めて、知識をどう使うのかとか、知識は何のためにあるのかとかいう話に入ってきた気がするんですけど。
吉田:はいはい。
水野:先ほどのクイズ王の皆さんが意外とイズムを持っていらっしゃらない、ひとつの価値基準に対してこだわりを持っていらっしゃらないということも、すごいヒントになるような気がして。
吉田:うん。
水野:誰かが設定した価値基準を受け取って、それのために生きていこうとすると、自分の物語を設定できないじゃないですか。価値基準に従属する物語は設定できるけど、そこから離れた自由な物語は設定できなくて。それだと知識は、その序列のなかに紐づけられるかどうかという話だけになってくる。全方位的な情報収集はできないし、知識自体の利用価値も、おのずと設定された価値基準の枠内に狭まっていく。
水野:だけどそこから自由になって、どう自分の物語を書き続けていくか、という視点になると、すべての知識をどのような形で使ってもいい。臨機応変に使える。でもSNSの状況を見ていると、みなさんは何らかの価値基準をとにかく欲しがっている。
吉田:そうです、そうです。
水野:自分の知識、自分の生活が、何かの秩序のもとにあるって思わないと、苦しくてやっていけない。だから右だ!左だ!上だ!下だ!って大きな声で言ってくれるひとのところにバーッって集まっちゃう。それがすごく怖いんですよ。もっと自由になれって言いたい。
吉田:それのいちばんすごいのは、フォロワー数ですよ。いちばんわかりやすい価値基準。今、Twitterの地獄検索ワードが「フォロワー増やしたい」。
水野:ははは。
吉田:一度「フォロワー増やしたい」で検索してみてください。そこに、ひとの品性、とってもつまらない精神の形が並んでいます。本当に。
後編①につづく…
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