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『小説家Z』 水野良樹×宮内悠介 第2回:いつも逆張りをしたがる

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらをテキスト化した、”読む”小説家Zです。

初回のゲストは「OTOGIBANASHI」でご一緒した宮内悠介さんです。

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私はこう思いますけど、みなさんはご自由に。


水野:作品が書かれた年度を見てみると、実際に現実で起きた社会的なテロであったり、人種が絡んだ問題であったりが、かなり反映されていたり、リンクが感じられる箇所が多くて。そこでも批判が起きる可能性があるような気がするんですけど、そういったものについてはどのように考えていらっしゃいますか?

宮内:そういう思想的な、あるいは社会問題について強く訴えることはあまりないです。というより、題材は題材として扱っても、基本的にはどのように読めるものであってもいいと考えているんですよ。問題意識は入れるんですけれども。問題意識のない小説家はあんまりいないと思いますので。

水野:おっしゃるとおりだと思います。

宮内:ただ、私は道徳の授業とかあまり好きではなくて。作品からああしろこうしろと言われるのはあまり好きではありませんので、「私はこう思いますけど、みなさんはご自由に」というスタンスで大体やっています。問題意識を入れはしますけど、押しつけはしない。そもそも私は娯楽小説であるので。仮に差別問題を扱うとしても、そこから飛躍させて、アンドロイド差別というテーマに置き換えて、アンドロイドから借金を取り立てるという。


ついつい逆張りをしたがる。


宮内:「私はSNSばかり見ていて、思考や精神を乗っ取られているぞ」みたいなことを思うこともありまして。これはどうにかしなければならないと。ただ、ダイレクトに書いてもおもしろくないので、架空のSNSを作りまして。新潮という雑誌に「ローパス・フィルター」というタイトルで、新しいSNSを書いたりしています。あとは遊び心で書いている、問題意識0のものもあります。宇宙で野球盤をやってみる『星間野球』とか。

水野:めちゃくちゃおもしろかったです。「トランジスタ技術の圧縮」の話とか。宮内さんの作品は、扱っている問題や物語がすごくシリアスでも、必ずどこか軽さを持っている気がしていて。たとえばユーモアがそのなかに散りばめられていたり。それはご自身で意識されているところなんですか?

宮内:ついつい逆張りをしたがる性格といいますか。今お話にあがった「トランジスタ技術の圧縮」は、まず「トランジスタ技術」という雑誌がございまして。今はそうでもないんですけど、昔は広告ページがものすごく厚くて、バックナンバーを取ろうとするとあまりにも場所を取る。ということで、広告ページを抜き取って圧縮する。それをしている方は実際におられるんですよ。で、その圧縮技術を競う競技をしてみようという話を。バカ話だからこそ、めちゃくちゃシリアスに書いてみようと書いてみた短編が、この「トランジスタ技術の圧縮」でした。



水野:まさに競技者が人生を掛け合うような。

宮内:逆に、たとえば『あとは野となれ大和撫子』では、めちゃくちゃ中央アジアの地政学を調べまして。地政学というのは、地理的条件から国際関係を読むような学問ですよね。このテーマはとてもシリアスになってしまったので、あえて読み口はB級コメディー的にして、というようなことをやっていたりします。とはいえ、いつまでも逆張りしてもいられないので、作風改造中でもあります。



水野:一気に重い感じにいくってことですか? それとも何か軸足を変えるってことでしょうか。

宮内:私の場合、手癖の文体みたいなものがあるんですけど、それはちょっとずつ変えていかないといけないもので。シリアスに振るか、コメディーに振るかもそうですけど、やっぱり多くの方はシリアスな話はシリアスに読みたいと思うでしょうし、それが王道であると思うんですよ。ですから、そういった方面にもちゃんと挑戦しなければならないだろうなと思っています。


「あいつがこういった作品を書いたらきっとおもしろいだろうに」。


水野:読者の反応はどれぐらい反映されるものなんでしょうか。僕らみたいなより芸能に近いような分野って、やはりファンの皆様の反応を非常にビビットに作品に活かしたり、もしくは自分の振る舞いに反映したりする方も結構多くて。作家のみなさんはどれほど読者の期待に沿うとか、そういうことを意識されるのかなと思って。むしろそことは距離を置かれる方もいらっしゃると思うんですけど、宮内さんはいかがですか?

宮内小説は芸能と比べると比較的自由にできる、ある種恵まれた分野だとは思うんですけれども、もちろん読者の期待に応えたいですよ(笑)。ですから、自分のやりたいことと、読者の方が期待してくださっていることは何だろうと思いながら作るわけです。ただ、「あいつがこういった作品を書いたらきっとおもしろいだろうに」みたいなものがありまして。それを作者本人は案外わからないものでして。だからこそ読者の方の反応ですとか、あるいは編集さんのご提案ですとか、そういったものはすごくありがたいです。

水野:結構気づかないものなんですか。

宮内:あんまり自分が見えてないところはあります。

水野:ちょっと話が逸れるかもしれないんですけど、たとえばご自身が数年前に書いた作品を読み返してみて、「あ、自分こんなこと書いてたんだな」みたいなことってあります?

宮内:ええ。私は不真面目なところがありまして。書いてそのまま忘れたり。頭の中の記憶量的には大体、原稿用紙50枚。ですから、直近の書いた短編とかは、今のところ1字1句覚えていられるんですけれども。数年前のものを読み返してみると、「こんなこと考えてたんだ」って自分で驚いたりします。

水野:ご自身が変化されているからこそ、その差を感じたりするものなんですかね。

宮内:そうですね。これがいい変化ならいいんですけどね。

水野:ちょっと失礼な言い方しますけど、昔のほうがこの文は上手く書けてたなみたいなこともあるんですか?

宮内:ええ。初期の作品を読むとやっぱり、今よりある種の勢いのようなものがありますので。これはちょっと取り戻さなければならないなと思ったりもしますね。


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