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読む『対談Q』 水野良樹×上田慎一郎 第1回:いちばんうまい白飯を作りたい。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストは映画監督の上田慎一郎さん。


めちゃくちゃエゴサーチします。


水野:さぁ対談Qです。ゲストの方と、ひとつのテーマについて一緒に考え頂くコーナーです。今日のゲストは映画監督の上田慎一郎さんです。よろしくお願いします!

上田:よろしくお願いします!


上田慎一郎(うえだ しんいちろう)
1984年、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。
『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。
2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。
三人共同監督作の『イソップの思うツボ』が2019年8月に公開、そして劇場用長編第二弾となる『スペシャルアクターズ』が同年10月に公開。
2019年1月、映画の企画・制作を行う株式会社PANPOCOPINA(パンポコピーナ)を設立。
2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート“で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。2021年『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』が劇場公開。
2022年『ポプラン』が公開。


水野:いきものがかりでは『100日間生きたワニ』という作品でご一緒させていただきました。そして、この度『ポプラン』という新作が公開中です。僕も試写会に伺いまして、このタイミングで上田監督に対談Qに来てもらおうと。僕は試写会のときって、観終わったあとにうまく喋れないっていうか。

上田:わかります。試写会後のロビー、ムズいですよね(笑)。多分、うまくなることないですよね。

水野:でも、いろんな関係者の方に応えなきゃいけないじゃないですか。

上田:ずっと宙に浮いている、ふわふわした状態で喋っている感じです。

水野:『100日間生きたワニ』のときも、ロビーにいてくださって。試写会はいつもいらっしゃるんですか?

上田:基本的にはいることが多いですね。

水野:温度感とかを確かめたくなるものですか?

上田:そうです、まさに。やっぱりひとから聞いた言葉だと、おっしゃるように温度感みたいなものが掴みづらいので。そこで感想をいただいて、自信をつけていったり、宣伝の仕方を考えたりとかする感じですね。

水野:結構Twitterとかでも感想をRTされていますよね。

上田:しまくっています。

水野:見るものなんですか?

上田:めちゃくちゃエゴサーチしますね。最近は前より控えるようにしていますけど。

水野:その反応を見たいみたいな動機は何なんですか?

上田:え、見たくないですか?

水野:見たいです(笑)。エゴサする動機にいろんなパターンがある気がします。褒め言葉を探すタイプのひと、ネガティブなものを見たいってタイプのひと、両方いると思うんですけど。それで言うと、どちらですか?

上田:褒め言葉を探したい(笑)。ただ、ネガティブな言葉も探していたら見ちゃうじゃないですか。「なるほどな、こう思うひとがいるんだ」って次に活かしたりもします。ただ、カメ止め以降、何本かあったなかで、エゴサしすぎて精神衛生に支障をきたした時期があって。

水野:Twitterを休まれた時期ありましたよね。

上田:他人の意見を受け止めることは大事だと思うんですけど、受け止めすぎて、自分が本当にどう思っていたのかわからなくなる感覚。目の前のことに集中できなくなっちゃって。バランスを考えて感想を受け止めないとな、と思いましたね。


作品は「器」です。


水野:今日のテーマに繋がるんですけど、上田監督と一緒に考えてみたいQは「観客のなかに答えがある?」です。『100日間生きたワニ』でもそうだったんですけど、映画のなかで描いている伝えたいこと、テーマ、答え、そういうものは、観客のひとたちに見つけてほしいという気持ちを、上田監督は持たれているんじゃないかなと思う節があって。

上田:はいはいはい。


水野
:今、公開されている『ポプラン』も、みなさんに是非ご覧いただきたいんですけど、男性の大事なものが飛んでっちゃうっていう。それだけ聞くとすごくユーモラス。でも観終わると、「俺にとってのそういう時期っていつだったんだろう」とか「俺にとっての大事なものってなんだろう」とか、必ず観客が自分のことを考えるような仕組みになっているんですよ。

上田:はいはい。

水野:で、ここなんですけど、「観客のなかに答えがある」のか、それともご自身のなかでテーマがあるのか。そこらへんをちょっと話してみたいなと思いまして。

上田:これは結構、永遠の問いというか。このQに対しての答えは、これからも変わりそうですし。でも今は、観客のなかにあると思います。そもそも僕、答えを持って作るタイプではないので。

水野:そうなんですか。

上田:水野さんもちょっと経験あるかもしれませんが、困る質問が、「この映画にどんな想いを込めたんですか?」とか「どんなメッセージを込めたんですか?」とか、取材で訊かれるじゃないですか。

水野:あれ暴力的な質問ですよね(笑)。わかります。

上田:いやいやいや、それを映画で観てくれよって。あれなんて答えています? 「この曲にどんな想いを込めたんですか?」みたいな。

水野:僕はずるいんですけど、ちゃんと大人として、「僕らが想いを込めたのではなく、みなさんにどう解釈していただいても」って答えるようにしています。結局何も言ってないじゃないかってなるんですけど、でも実際そうだから。

上田:僕もそんな感じではあります。たとえば『ポプラン』だったらちょっとだけ、「今、人生の迷子になっているひとが観たら、何か感じてくれるものがあるかもしれません」みたいなことは言いますけど。

水野:曲を書くとき、よく僕も「器です」って言い方をするんですね。作品は器で、みなさんが感情を入れてくださいと。

水野:ただ、『ポプラン』って『カメラを止めるな!』の前からずっと持ってらっしゃった企画で。試写会のときに「作ったのが今でよかった」とおっしゃっていましたよね。その真意は、この数年間で作品に対しての上田監督の思いがいろいろ増えていったということじゃないかなって。要は、ただの器ではないというか。

上田:そうですね。さっき僕、「答えを持って作るタイプじゃない」と言ったじゃないですか。これは多分、ミュージシャンでも一緒だと思うんですけど、“音楽が先か、詞が先か”みたいなことというか。僕はまずおもしろい物語があって、第一稿を書いているうちに、「あ、俺こういうことが言いたいのかな」と発見するんです。そして、第二稿でそれを輪郭づけしていって、第三稿以降でその輪郭をぼかしていくみたいな。

水野:結構、書き直すんですね。


魚沼産コシヒカリやゆめぴりかはすごい。


上田:たとえば、“家族にはいろんな形がある”みたいなことを言いたいとき、「家族っていろんな形があるね」ってセリフを書いたら、直接的すぎるじゃないですか。だからそれをちょっとぼかすというか。

水野:なるほど。

上田:受け止め方を広げていくように仕上げていく工程ですね。で、さっきおっしゃっていた「器」の話は、僕も前に友達とよく喋っていて。究極は、いちばんうまい白飯を作りたい。

水野:わかります。

上田:そのまま食べてもうまいし、カレー食べてもうまい。みそ汁かけてもいける。観たひとそれぞれが自分でトッピングして、それぞれ違う味を楽しめるものが作れればいいなと。

水野:よくわかる。魚沼産コシヒカリとかゆめぴりかとか、すごいなって思っていて。白米ってそんな変わらないはずじゃないですか。別に味に大きな個性があるわけじゃない。でも食べたら、「これはちょっとモノが違うな」ってわかる。無色透明のように思えてそうじゃない。そういう作品を作りたいと思う。「器」も同じで、何でも乗せられるけど、唯一性も持っているみたいな。

上田:そうなんですよね。僕、一層目は誰が見てもわかるような筋が多いんですよ。たとえば、「朝起きたら自分のアレがなくなって、それを6日以内につかまえないといけない」っていう大筋。その筋は誰が観ても見失うことはない。でも二層目は観たひとの受け止め方がそれぞれ違うようにしておきたいところがあります。

水野:だって、アレが飛んでいって、ああいう表情がたくさん出てくる映画だと思わないですもん。役者さんのいろんな複雑な表情が出てくる。

上田:一層目の白飯をそのまま食べて、それで美味しかったでもいい。だけど、カレーをかけて、「自分が見失ったものを取り戻す話なのかな」とか、「男性性とかジェンダーのことを言いたい話なのかな」とか、観るひとによって捉え方が変わるようにはしていますね。


つづきはこちら。



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