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OKI DUB AINU BANDライブレポ(SUKIYAKI MEETS 2021)

2021年10月23日と24日の2日間、急遽、富山県南砺市で開催される音楽フェス、SUKIYAKI MEETS THE WORLDを見に行くこととなった。事の発端は元フィッシュマンズの鍵盤奏者、ハカセ氏(HAKASE_SUN)のソロライブを見に行き久しぶりのハカセの演奏に心打たれ、彼が現在参加しているバンドが2つ〜OKI DUB AINU BAND、KODAMA AND THE DUB STATION BAND〜が出るなら見に行こうと突如思い立ったもの。片道5時間近くの鉄道の旅は思いの外楽しかったのと地方自治体だけで30年間も運営されているSUKIYAKI MEETS THE WORLD フェスも非常に興味深い発見があり、結果として大変充実した2日間になったが仕事ややるべきことのしわ寄せで今日まで中々noteに書けなかった。まずは初日のOKI DUB AINU BANDのライブについて書こうと思う。

SUKIYAKI MEETS THE WORLDのメインステージは福野文化創造センターヘリオスというとても立派な円形劇場型のホールでやっていてOKI DUB AINU BANDは初日の23日のトリに登場した。


バンドメンバーは次の通り。
OKI (Vocal/Tonkori)
居壁 太 (Vocal/Tonkori)
沼澤 尚(Drums)
中條 卓 (Bass)
HAKASE-SUN (Keyboards)
内田直之 (Recording&Mixing)

沼澤さんは世界的なドラマーとしていろんな現場で活躍されているがちょいちょいフリーインプロ系のパフォーマンスを繰り広げておりコロナ禍直前にKB奏者の森俊之さんや勝井さんを追いかけていたら沼澤さんとのジョイントライブだったのでそれを見に行ったり個人的にはなにかと演奏に触れることが多かった。そのライブも内田直之さんがライブミックスを手掛けていたと思う。中條さんは初めてだったが調べてみると元KING BEESということなのでやはり89年〜90年の頃のラママ周辺にいらしたはずだ。何よりも、現在はシアターブルックで沼澤さんとレギュラー組んでいるベーシストなのでバッチリのコンビネーションだろう。フロントマンのトンコリ奏者、OKIさんとサイドにもう一人のトンコリ奏者、居壁さんがいる。2台のトンコリのパート分けはどの様になっているのか全く不明だったがまずは場位置にメンバーが着いてライブが始まった。

1曲めは「TOPATTUMI(トパットゥミ)」、2006年にリリースされたOKI DUB AINU BANDの1stアルバムに収録された楽曲。今はアイリッシュ・ミクスチャー・トラッド・バンド“キーラ”とコラボしたアルバムでのバージョンが聴ける。印象的なトンコリのアルペジオ?から始まるミニマル・シークエンスな曲だが途中からこのシークエンスにドラムとベースがダダーンとカットインしてくる。沼澤さんのドラムがめちゃ重いのとぴったりとあったベースとのヘヴィなコンビネーションが最高にかっこいい。そこにOKIさんと居壁さんのアイヌ語ヴォーカルが乗っかってくる。キーラとの音源はアコースティックなアイリッシュ・トラッド風味だったが完全にヘヴィなロックアンサンブルで途中もリズムが三連系にチェンジしたりトンコリアルペジオのダブパートがあったりめぐるましく変わっていく。そしてそのまま2曲めの「Toya」に突入する。


またまた重めのレゲエビートに乗ってOKIさんのトンコリとヴォーカルが自由に舞う感じで内田さんのダブもガンガン攻めてくる。中條さんのベースもマジで重い。途中で唐突にビートチェンジあってOKI DUB AINU BANDの2ndアルバム「Sakhalin Rock」から「Flower And Bone」に繋がれる。これまで抑えめなトーンでタイトなバッキングをしていたHAKASE_SUNがオルガンの音色を変えてジワジワとリズムを挟み込んでくるグルーヴの変化している。それにしてもOKIさんと居壁さんのトンコリは変化に富んでいて様々な表情を見せる。もしかしたらどこかでトンコリの持ち替えもあったのかも知れないがそんなことも気にならないぐらい2台のトンコリのコンビーネーションはスムーズだ。


間髪入れずに「ASIPE PARUN(アシペパルン)」に突入、これも1stアルバムからの曲だがよりシャッフルビート的なニュアンスが強くなっている。OKIさんと居壁さんの掛け合いツインヴォーカルにトンコリのフィルインが入る様子がまるでブルース・ロック・ナンバーのようだ。HAKASE_SUNのバッキングもまるでブルースオルガンの大御所のような腹の座ったプレイだった。


OKIさんが一言だけMCを挟んで取り出したのアイヌの口琴、ムックリ。竹の薄い板を口に挟んでびよーんびよーんとするアレだ。OKIさんと居壁さん二人でムックリを演奏しながら始まったのが「Kon Kon Dub」。OKIさんが「コンコンココンコンコン」とテーマリフを歌いながら客席にクラッピングを煽るがこれがイタリアのプログレバンド、アレアばりの変拍子リフ、何拍子なんだろうと考えてしまったがなんと福野町の人たちはちゃんとついて行くからものすごくビビった。これにはSUKIYAKI MEETS THE WORLD30年の歴史があるということがあとで分かるのだが個人的にはものすごく衝撃を受けながらめちゃめちゃ盛り上がった場面だった。


機嫌をよくしたOKIさんがしゃべる「次はスキーの歌で高い山を低く滑る、低い山を高く滑るとかそんな歌です」と紹介された曲は3枚目のアルバム「UTARHTHM」から「ANKISMA KAA KA」。ダンサブルな4つ打ちビートにトンコリのシークエンス、そしてHAKASE_SUNの暗めのオルガンのリフが大活躍する。グリッサンドを多用しドローバーやパーカッションを駆使してオルガンだけで変化に富んだ演奏を魅せるHAKASE_SUNの演奏は70年代のピンク・フロイドのリック・ライトを彷彿させる。客席の拍手も凄い。OKIさんが「感染に気をつけて。ありがとうございました」と一言話すとトンコリの印象的なアルペジオシーケンスが始まる。マーチングのようなドラミングと超重低音ベースが「SAKHALIN ROCK」をスタートさせる。OKIさんの「サハリン・ロック!カラフト・ロック!」のスクリーミングが響き渡りバンドとダブミックスが一体となって大きなウネリとなって押し寄せホールの熱はピークに達する。

圧倒的な「サハリン・ロック」のダブサウンドの余韻とともにバンドは残響たっぷりのトンコリがラストの「EAST OF KUNASHIRI(国後)」のイントロを奏でる。そのままドラムとベースが地を這うようなリズムを叩き出し2台のトンコリとキーボードと一緒になって前曲を上回るこの日最高潮のダブ空間に突入する。本当にすごい曲だ。ネットで見れるものとぜんぜん違う。そして10分以上の長尺な演奏に圧倒されながらOKI DUB AINU BANDと一体化するヘリオスホールのオーディエンスもすごかった。

大きな拍手でアンコールが起こり再びバンドが登場、「アンコールに相応しいとは言いにくいですが、格差社会を歌った曲をやります。川下の民、聞けという曲です」と言うOKさんの紹介で演奏されたのは目下の最新作「UTARHTHM」から「SUMA MUKAR」。歌に込められたメッセージに反してとても親しみやすいメロディをOKIさんと居壁さんが歌い上げる。最後は小さい子供とお母さん、お年寄りも含んだ客席のほとんどが立ち上がってノリノリで演奏を受け止めている。地方ローカルの文化的な催し物とは思えないほどのリアクションが印象的だった。この素晴らしいオーディエンスとともにSUKIYAKI MEETS THE WORLDの秘密については翌日に開催された「スキヤキミーツザワールドの歴史」シンポジウムで知ることになる。

それにしてもハカセ氏(HAKASE_SUN)がその前の代々木上原ソロライブで聴かせてくれた明るくてハッピーな演奏とは打って変わってダークで鬼気迫るような演奏がとても印象的だった。遠目だったので確実ではないがこの日のハカセ氏はNordのキーボード1台で様々な音色を出していたはず。全体的にくぐもったようなトーンはダブエフェクトかけたトンコリの音色ととても良く馴染んでおり正に前期フィッシュマンズの後半、1994-1995年辺り彼の陰のある演奏を思い起こさせるものだった。翌日のKODAMA AND THE DUB STATION BANDについてはまた後日に!

この日のライブのセットリスト・プレイリストも発見したので貼っておきます。

《追記》

HAKASE_SUN氏のライブでOKI DUB AINU BANDでの使用キーボードを本人に確認したところやはりNordということでした。KODAMA AND THE DUB STATION BANDではまた別のようなのでその時の記事で!


最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!