少年ギター外伝/マキシ_2
僕は全部話した、この大人の香りがする女の人の言うままに。
自分のこと、ここまで来た時のこと、黒いギターさんにあってジャンボリーに侵入するために必要な『心の叫び』で門番の心を外してここにいることとか。
このギターケースに声をかけた女の人は黒尽くめの服を着て大きな帽子をかぶって長い金属のパイプでタバコを吸っていた、
彼女のそばにゆくと甘い香りがした。
ささやく話し声に乗った彼女の息も甘い香りとタバコの香りがした。
ギターケースのフリップをひとつひとつ大事そうに外しケースをそっと開ける、
オレンジ色の毛足の長い毛糸のモールの中から艶のある黒いギターがあらわれる、
弦をそっと触ると
ツアン
と深い響きの擦過音が響く。
納屋の中のわらの上に敷き詰められた毛布が僕らの居場所だった。
夏の虫の音と3種類の蝉の声がこだましている、
本州日本の夏の音がする。
そう、とマキシは呟いた。
少年は寝泊りするもの持ってないね、僕は首を振った。
そんなこと考えてもいなかった、
まだ始まるまでに7日はある、今日はここで私と一緒に過ごそうね。
いいよね?
僕はうなずいた。お腹も空いていた。
歩き始めた朝から、いや、昨夜から、
ザックの中のレーズンロールしかかじっていなかった。
それが僕の食料の全てだった。
よく見ると納屋の奥にテントのようなもので屋根がかかり何枚もの毛布が王女さまのベッドのようにしつらえられている。
椅子とテーブル木製の箱の中には氷が入っているサイダーとビールと僕の知らないお酒のような瓶と食料がはいっているようだ.。
水は水筒の中に入っている。そして納屋の先に流れる小川に冷やされている。
何か食べようね、そういってテーブルの上にザックから取り出した袋から小麦粉を山盛りにして、
氷の入っている木製の箱から卵とミルクを使って掌を上手に動かして練り始めた。
少年!焚火は起こせるかい?とライターを投げた。
納屋の外に小さな石積みの焚火の跡がある。
燃えそうな乾いた小枝と藁を集めて火をつけた、藁が勢いよく燃えるが小枝に火が移るまえに燃え尽きる、
何度か繰り返すうちにやっと小枝に火がついた。
もっと太い枝を探しておいで、
マキシは二本の長い木の棒のようなものに蛇のように巻つけた小麦粉の粘土のようなものを焚火の外側に刺して止めた。
いくつか太い枝を探して来た、マキシは乾いた枝を火の中に、
生乾きの枝を火の周りに並べた。
太い枝に火がついて落ち着いた頃、小麦粉の蛇が少し焼けて来た。
小さなフライパンに太いソーセージ、琺瑯の薬缶に水を入れて焚火の淵に置くと、そのうち湯気を吹き始める。
ウイスキーの小瓶から口飲みでちょっと嬉しそうに飲んでいる、目が合うと少年ものむ?
と笑ってボトルを差し出すが、僕は首を横にふる。そんなことをしながら僕はマキシに抱かれて王女さまのベットで眠る、そんなことは今までなかったし考えても見なかった。きっと物心ついて一番幸せな夜だったと思います。
(つづく)20220402
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