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平然と通り抜けていく人々

 なぜ、写真のような掲示をわざわざ家のフェンスにつけているのだろうか。きっと、このお宅では、ご近所に“お願い”をせざるをえないほどのひどい目にたびたびあってきたのだろう。いや、いまも……?

 世のなかには、他人の敷地を承知で平然と通り抜けていく人々がいる。いまだに開拓時代の伝統が残る野蛮な国だったら射殺されても文句がいえない。しかし、日本ではこの珍風景も一般的で、わるいとは思わない人がたくさんいるらしい。

 窓を開け、「やめてください」と、その家のお嬢さんが注意したとき、目の前の相手は不思議そうな顔をしていたという。ひとりがやっと通れるほどの幅しかないのに、窓のすぐわきを通り抜けようとしていたそうだ。

 外からは死角になっているはずの場所なので、女性の下着などもひっそりと干している。なおさら、知らない他人にずかずかと入りこんでほしくない場所である。しかも、闖入者はそこを通路にするため垣根の一部をこわしていた。それだけでもりっぱな犯罪である。

 だが、彼らは自分の非常識さがわかっていない。きっと、生まれ育った土地では、他人の家の敷地を横切っていくのは当然であり、いまも正しいと信じている。垣根で閉じてしまうほうがおかしい。ジャマなのでこわしたに過ぎない。そのため、不思議そうな顔になったのではないだろうか。

 ぼくが住むマンションの前にクルマのディラーがある。隣接する家の敷地を買い取り、広げたとたん敷地を堂々と横切っていく人がふえた。たしかに、そこを通り抜ければわずかながらも時間の節約になる。しかし、やはり非常識な行為である。

 非常識なのはひと握りの人々ではない。かなりの人が通り抜けていく。ディラーが休みの日や営業時間外だとたちまちふえる。ディラーのほうでも「通り抜けないでください」との掲示を出した。だが、お客さんがあっての商売のせいか、いまやあきらめ気味でいる。

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