私が好きな「ドイツ歌曲(ドイツリート)」というジャンルについて
今日は、クラシック音楽の中の歌(声楽)の中のいちジャンルである「ドイツ歌曲(ドイツリート)」というものについ,て書いてみようと思います。
文中のリンクは、曲の動画と歌詞の日本語訳のサイトです。
●そもそもドイツ歌曲(ドイツリート)って何よ
クラシック音楽の中で、人の声で歌われる分野を「声楽」といいます。この中で更に編成によって「独唱」「重唱」「合唱」などに分かれるわけですが、今回お話するドイツ歌曲は独唱用が殆どです。
声楽というとオペラをイメージする方も多いと思いますし、「声楽家=オペラ歌手」と思われていることもわりとあるのですが、実はそれだけではありません。
声楽の中には、オペラ以外にも歌曲や宗教音楽などいろいろなジャンルがあります。これらをざっくり説明すると、
オペラ→長い物語をオーケストラと歌で演奏。演奏に3時間前後かかるものが多い。舞台セットや小道具・衣装がある(演劇的な要素が強い)
歌曲→短い詩(12〜16行くらいが多い)に曲をつけたもので、大体の場合ピアノと歌の2人いれば演奏できる。衣装やセット・小道具は特に使わない
宗教音楽→歌詞の内容がキリスト教の聖書やお祈りの言葉。歌が含まれないものもあるし、人数や楽器構成も色々(オルガンだけ・奏者1人のものからオーケストラと合唱団、歌のソリスト合わせて数百人になるものまで)
大体こんな感じです。
現代においてイメージしやすいものに当てはめると、オペラはミュージカルなどと近く、歌曲はいわゆるJ-POPと近いと思います。
ドイツ歌曲というのは、その歌曲のなかでも「ドイツ語の詩に曲をつけたもの」=ドイツ語で歌うもの、ということになります。一番多く作られたのは19世紀。これを「割と最近」と感じてしまうのは、クラシック音楽関係者の感覚のおかしなところですね(笑)。
「ドイツリート」はドイツ歌曲と同じ意味です。
「リート(LIed)」とはドイツ語で「歌」「歌曲」という意味。
ドイツ歌曲の中で日本でもよく知られているのは、シューベルトの「魔王」あたりでしょうか。
https://youtu.be/PaBNUzVSnj8
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S901.htm
ドイツ歌曲と一言にいっても歌詞の内容はいろいろです。
・恋愛に関するもの
恋愛ものが多いのは、数百年前でも現代のポピュラー音楽でも変わらないなあと思います。やっぱり人間にとって重要なテーマの一つなのでしょう。
https://youtu.be/krfV8sU4PZ4
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S1173.htm
・短い物語を歌にしたもの
色々なアニメやゲームでも題材になりがちなギリシャ神話の物語を歌にしたものも多くあります。
https://youtu.be/xxfpGaaacAQ
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S3469.htm
・ある情景や風景(とそれを見たときの感慨など)を歌にしたもの
このあたりは日本の和歌の文化とも通ずるものを感じます。
https://youtu.be/AJi6kKDAxaI
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S2751.htm
・1人の人物や特定の物事に関するもの
「歌というものについての歌」「芸術についての歌」みたいなものや哲学的なものもあって興味深いです。
https://youtu.be/km5qkqrcxP0
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S101.htm
他いろいろ
●どうしてドイツ歌曲が好きなのか・おすすめなのか
「名曲が多い」というのは大前提として(笑)、いくつかの要素にフォーカスして、私がドイツ歌曲いいなあと思うポイントをまとめてみます。
・1曲聴くのにかかる時間が短い・視覚を必要としない
先ほども書いたように、オペラは1本聴こうと(観ようと)思うと3時間前後かかるものが多く、また動きや表情、舞台セットや衣装も含めた総合芸術なので「がっつり聴く」感じになります。
それもそれでとても素敵な体験ですが、それに比べて歌曲はある意味とてもサクサク楽しむことができます。1曲大体3〜4分くらいのものが多く、これはポップスの1曲の長さとさほど変わりません。また、「見る」必要がないので、耳だけで楽しめます。
・とっつきやすい内容が多い
オペラや宗教音楽を楽しもうと思うと、物語の時代背景だったり、キャラクター設定だったり、キリスト教の考え方や聖書の内容だったりと、必要な前提知識というものがいくらかあります。
ですが歌曲の場合、内容は「あの子が好きだ」とか「やっと春がきた、花が綺麗に咲いている」とかいったものが割と多く、歌詞の和訳を読むと「あーわかるわー」となりやすいのではないかと思います。
ちなみに自分もよく調べ物に使わせていただいているとても便利なWebサイトがあります。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/
こちらは多くのドイツ歌曲の歌詞(ドイツ語)を日本語訳したものを掲載して下さっているので、この曲の歌詞はどういう内容なんだろう?と調べるのにとても楽です。
・比べて楽しめる
現代のポピュラー音楽は概ね「曲先」、つまり先に作曲して、そこに歌詞をつけることが多いと聞いたことがあります。
ですが歌曲のジャンルは、「詩(詞)先」、つまり元々ある言葉に曲をあとからつけたものが殆どです。
作曲家が気に入った詩に曲をつける、という形で生まれるので、作曲された時にはもう歌詞になった詩を書いた詩人は亡くなっている、といったような時代を超えたコラボが多数発生します。
結果としてなにが生まれるかというと、「同じ詩に対して別々の作曲家が曲をつける」という現象です。
ひとつの詩を読んで、それぞれの作曲家がどのような曲をつけたのか聴き比べるのは楽しいです。
https://youtu.be/Msd-ud7AuPw
https://youtu.be/aWa18E3WksU
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S2122.htm
また、オペラの役は「この役はソプラノ」「この役はバス」など決まっていますが、歌曲はそうではなく、同じ曲を女性でも男性でも歌うことができます。ですから、同じ曲に対してそれぞれの歌手がどのような解釈を加えて表現しているのか聴き比べる余地が広いのも、楽しみのひとつです。
・他の地域との関わり
ドイツ歌曲の歌詞は基本的にはドイツ語圏の詩人の作品ですが、なかには他の地域から輸入されドイツ語訳されたものが歌詞になっているものもあります。
例えばフーゴ・ヴォルフという作曲家の作品には、スペイン語の詩をドイツ語訳したものに曲をつけた『スペイン歌曲集』、イタリア語の詩をドイツ語訳したものが歌詞の『イタリア歌曲集』などがあります。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/COMP/Wolf.htm
また、画家のモネが日本の浮世絵をコレクションし、絵の題材にもしていますが、歌曲でも同じような現象が起きていたりもします。
たとえばヨーゼフ・マルクスという作曲家の作品「日本の雨の歌」は、万葉集に収録されている和歌がもとになっています。
https://youtu.be/uENCZtcNqHA
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S8600.htm
他にも、作曲家はドイツ人ではないけれど、ドイツ語の詩に曲をつけたから「ドイツリート」に分類される作品があったり(フィンランドのJ.シベリウスなど)、ドイツ圏の詩人が他の国や地域への憧れを綴った詩が歌詞になっていたり(R.シューマン「蓮」など)と、距離を超えた詩作・音楽上のコラボが色々な形で実現しています。
このように、音楽を通してドイツ圏の人たちは他の国とどんな風に関わっていたのか?を「聴く」のも楽しみ方のひとつです。
いかがでしたでしょうか。私が「ドイツ歌曲」というジャンルを好きな理由の一端を感じ取って頂けましたか? 皆様が少しでも興味を持って、いろいろなものを聴いてみて下さるきっかけになれれば幸いです。
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