【初心者向け】クラシック音楽って何が楽しいの?という話

 こんにちは、廣瀬です。定期的に書くとか言っておいてまた大分間が空きました。ごめんなさい。


 今回は、クラシック音楽の演奏家として活動する自分が、「クラシック音楽ってよくわからない」「何が楽しいの?」「そもそもクラシック音楽って結局何よ?」という感じの方に向けて、自分なりのアンサーを書いてみたいと思います。

(専門家の皆さんはそれぞれにご意見・ご指摘等あるかと存じますが、ひとつの認識・意見ということでよほど明らかに間違っているところ以外は大目に見て頂ければと思います)


・そもそもクラシック音楽ってなんだ

「クラシック音楽」という言葉やジャンルを知らない方はおそらく殆どいないと思いますが、ではいざ説明しろといわれると難しいのではないでしょうか。私も難しいです。なので辞書で引いてみました。

「西洋芸術音楽の総称。ポピュラー音楽や民謡などに対する。(後略)」(音楽之友社『音楽中辞典』より)

 わかるような、わからんような。まあとりあえずは音楽のジャンルの一つ、というのは間違っていないと思います。とても古くからあって、ヨーロッパから始まって世界へ広がり、独特の楽器構成や作曲様式があります。

 そもそもクラシック音楽の直接の源流は、「お経」のようなものです。お経といっても仏教のそれではなくてキリスト教の、ですが・・・

 お経というのは仏教の教典(経典)を声に出して読むものだと思います。クラシック音楽の源流になったのも、キリスト教の教典であるところの聖書に書いてある言葉を、声に出して読む行為でした。

(このあたりはお世話になっている先生の受け売りになりますが)最初はずっと同じ音程(例えば♪レ レ レ レ レ~、のように)で歌って(唱えて)いたけれど、そこに変化を加えたくなり、1箇所だけ音を変えてみた(♪レ レ レ ミ レ~ のように)。そうすると音を変えたところの言葉がより印象に残るのではないでしょうか。

 そうしたらもっと音を変えてみたくなった(例えば♪レ ミ ファ ミ レ~)。そうやって同じ音で読むだけではない「メロディ」ができました。

 最初の頃はまだ「ハモり」はなく、複数人で読むときも同じメロディを全員が歌っていたようです。ですが段々と「違う音でハモってみよう」「別のメロディを同時に歌ってみよう」「楽器もつけよう」となり、やがてそれは教会の外でも使われるやり方になりました。

 最初はキリスト教の聖書の言葉が歌詞になっていたのが、やがて「愛」だとか「人生」だとか「死」だとか、色々な内容の歌詞やテーマがつけられるようになりました。

 そうやって生まれたのが「クラシック音楽」です。そこからは楽器も、歌い方も、曲の書き方も、聴く人たちも、それを取り巻く金銭状況や制度もどんどん変わっていって現代に至ります。


 余談ですが、日本にもお経が発展して音楽ジャンルとして成立した「声明(しょうみょう、と読みます)」があります。


・他のジャンルと何が違うの?

 次はクラシック音楽の特徴は何か、他のジャンルとの違いは?ということについて書いてみます。

 

 第一に、クラシックには「楽譜」がありました。

 こう書くと「当たり前じゃん!」と思われるかもしれませんが、クラシック音楽が生まれた昔の時代は、今ほど識字率が高くありませんでした。また「紙とペン」も今のように当たり前のものではなくて、羊皮紙などを使っていた時代です。

 つまり「何かを書き残す」「それを読んで理解する」という行為が、今よりずっとずっと難しい時代だったのです。

 そんな中、識字率も高く、記録のために紙を使うことができたのが教会の人々です。ですから、教会で生まれた音楽はそれを書き残すやりかた(=記譜法)を持つことができました。

 同時代・或いはもっと前に演奏されていた他のジャンルの音楽は、「音楽を書き残すやり方」を持たなかったために、今ではどんな音楽なのか実際にはわからないものも色々あるそうです。

「楽譜がある」ということは、「他の土地へ持っていくことができる」ということでもあります。作曲者に会ったり、実際に演奏を聞いたりしたことがない人でも、楽譜があれば同じ音楽を演奏できる、ということです。

 ですからクラシック音楽の楽譜の手法は、現在まで他のジャンルの音楽も書き表し得るやり方として使われているのです。


 第二に、「電子機器を使わないのが基本」ということがあります。

 電子機器がない時代に生まれたジャンルなので、電子機器なしに演奏できます。スピーカーもアンプもマイクも要りません。同様に現在のような照明機材もない時代に生まれたので、オペラの照明も当時は蝋燭だったそうです。

 現在ではより多くの方に・また後の時代にまで届けるために録音・再生が行われていますし、コンサートでもよりたくさんのお客様により聞こえやすいようにマイクやスピーカーを使うこともありますが、「基本は使わない」ジャンルです。


 第三に、「ジャンルの中の幅が広い」ということがあります。

 例えばいわゆるJ-POPには、「1曲大体5分くらい」「Aメロ・Bメロ・サビ前・サビを2回繰り返したあと間奏が入ってもう一回サビ」「バンドならボーカルとギターとベースとドラムとキーボード」といったような「お決まり」がありますよね。

 クラシックにはそういう決まりがない・・・というか、「ジャンルの中にジャンルがいっぱいある」という状態で、曲の長さ(1分かからないものから4時間に至るものまで)も、楽器の編成(ピアノ1台、ピアノと歌、弦楽器が5人だけ、管楽器・弦楽器・打楽器の混成部隊などなど)も、その曲を演奏するのに参加する人数(1人から千人以上のものまで)も様々です。

 しかも歴史が長いので、同じタイプのものでも時代が違うと決まりごとが違ったりして、専門に勉強しているはずの私たちでも混乱したりします。


 第四には「器楽曲のレパートリーが膨大」ということがあります。「器楽曲」というのは、人間の声が入っていない曲のことです。一般的には「インスト」が当てはまる言葉でしょうか。

 クラシック音楽の楽曲の中で声楽曲や合唱曲などの人間の声が使われる曲というのは一部でしかなく、楽器だけで演奏する「器楽曲」の方がよほど数は多いはずです。


・じゃあどう楽しめばいいのよ

 クラシック音楽をあまりよく知らない方に、まずどう楽しんで欲しいかというと、最初は「サーカスを見に行く」つもりで演奏会に行ってみて欲しいです。

 サーカスというのは、普通の人にはできないことをする人たちを見て「すごーい」とびっくりしに行くところ(もちろんそれだけではないですが)ですよね。

 クラシック音楽も同じです。

 先ほど特徴を挙げた中に「電子楽器を使わないで演奏できる」というのがあったと思います。普段音楽を聴くといえば基本的に電子機器を通したものが殆どだと思うので、コンサートに行ったらまず「マイクとスピーカーを使わないで、人の身体と金属や木でできた楽器だけでこんな音が出せるんだ、すごーい」と思って下さい。

 始まりはそこからでいいのだと思います。

 例えばピアノや打楽器なら「あんなに速く人の指・手って動くの?!」とびっくりして下さい。歌(声楽)や管楽器、弦楽器なら、「あんなに高い(低い)声/音まで出るの?!あんなにおっきい声/音出るの?!」という感じです。

「生身の人間と自然素材ばっかりの楽器でどこまで何ができるか」で勝負しているのがクラシックの演奏家なので、まずはその特殊さと積み上げられてきた技術を見て欲しいと思います。


 ちなみに「クラシックのコンサートって高いんでしょ」というお声をよく頂きますが、案外そうでもありません。例えばNHK交響楽団の定期演奏会であれば、一番お安い席は1600円です。私が自主企画・開催しているコンサートも、チケットは今のところ毎回2000円です。上を見れば3万円を超えるチケットもないではないですが、「そういうコンサートばっかり」ではないのです。3000円以内で行けるコンサートは沢山ありますよ。

 映画を見るのと大差ない金額でも、「その1回しかない、生の演奏」が聴けるということです。


 その次は是非、「同じ曲を違う人が演奏する」というのを聴き比べてみて欲しいと思います。

 クラシック音楽は再現芸術=同じ楽譜を色々な人が演奏するのが当たり前のジャンルです。今は動画サイトや音楽配信などで同じ曲を違う演奏者の演奏で聴くことが可能だと思いますので、「なんかこの曲いいかも」と思ったら聴き比べてみて下さい。

 そうすると、「同じ曲なのに演奏者によって結構違うなぁ」と感じて頂けると思います。

 これは「同じ役を複数の俳優が演じる」のと同じようなものです。例えば山崎豊子著『白い巨塔』などは、何度も映像化され、その時ごとに違う俳優陣が演じていますよね。また、同じ原作漫画を元にしてアニメが複数回作られた例(『HUNTER×HUNTER』『鋼の錬金術師』など)もあります。

 同じ役でも演者が違うと少しずつ違いが出るように、同じ曲でも奏者(や演奏機会)が変われば違いがあります。これはその演者の役への解釈と演技の実力(高い低いではなくてどういうやり方が得意か)の差であり、奏者の曲への解釈・実力の違いです。

 ミュージカルや演劇をご覧になる方であればわかりやすいかもしれませんが、そういった「同じ曲の中の幅」を楽しんで頂ければと思います。特にミュージカル・演劇好きの方にはオペラやオペレッタがおすすめです。


 それから、「作業用BGM」という楽しみ方もおすすめです。

 クラシック音楽、なかでも器楽曲は一時期、「王侯貴族の生活のBGM」として作られ、使われてきました。お金持ちの貴族はそれぞれに楽団を持っていて、「目覚めの音楽」「食事の音楽」「就寝のための音楽」などを毎日生演奏させていたそうです。豪勢な話ですね・・・

「音楽を聴くために音楽を聴く」のはとても素晴らしいことなのですが、「BGMとして生まれたものもあるんだからBGMにしていい」のも事実だと思うのです。

 人の声というのはどうしても意識を引かれがちなので、人の声の入っていない器楽曲は「作業に集中はしたいけどなにか音楽かけておきたいな~」というときに大変おすすめです。



 そうやって色々な曲や色々な演奏家の演奏を聴いてみて、「なんかいいかも」が見つかったらそこから広げていってください。

 小説を一冊読んで、気に入って、その作者の他の作品も読んでみようかな、と思うのと同じように、です。

「この作曲家好きだから他の曲も聴いてみよう」「この演奏家が好きだから他の演奏も聴いてみよう」「クラシックの中でもこのジャンルが好きだから他にはどんなのがあるのかな」と広げていくのが良いと思います。

 それから、作曲家というのは歴史上の人物でもありますので、「他の芸術家や著名人との関わり」「愛憎劇」「どんな人生だったか」というようなことを調べてみるのも面白いかと思います。



最後に

 長々と書いてしまいましたが、如何でしたか?

 クラシック音楽よくわからないけどとりあえずなんか聴いてみようかなー、と少しでも思って頂けたら幸いです。

 今後、具体的に「この作曲家のこの曲がおすすめ」というのも書いてみたいと思っていますので、それを端緒にしてみて頂くのもいいかもしれません。


 クラシックは生演奏を聴いて頂くのが基本にあるジャンルの為、コロナ禍の広がる現在は大変厳しい状況が続いております。私自身も出演するはずだった演奏会が中止になるなど、お仕事が減っていてとても寂しい思いです。

 ですが業界内でも「こんな時期だけどできることがあるはず!」と頑張っている方が沢山いらっしゃいます。もしよろしければ、そういう方々のコンサートや企画に参加してみて下さい。


 やっと本業についての記事2つめを書いたという事実。これからも書かねば。

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