ホルベインの水彩絵の具に触れる
都内で用事があり、普段行くことのない巣鴨に降り立つ。というか、本当に初めて降りた。山手線の北の方、池袋~上野の間の駅って、ほとんど行くことがない。駒込には、知人がいるので何度か足を運んだことはあるのだけれど、それ以外の駅には用事ができることがないわけで。ずっと東京近郊に住んでいても、こんなもんだろうか。
少し時間があったので、界隈をぶらぶら。店の前を通って、そういえばと思ったのは、プルジャダイニング。有名なインド料理店だけど、なんとなく遠い印象があって、結局訪問できていない。残念ながらこのときはアイドルタイム。また次の機会にでも。
さらに少し歩くと、何やらカラフルな展示が見える。気になって覗いてみると、水彩絵の具のイベントらしい。ホルベイン、どこかで聞いたことあるな、というくらい。
ホルベインという名前からドイツのメーカーだと思っていたら、聞いてみるとどうやら普通に日本の会社らしい。あれ、そうだったのか。
同じような水彩系の画材だとターナーとかも聞いたことがあって、実はそちらも日本の会社だとか。知らなかった。水彩絵師のウィリアム・ターナーはとても好みの絵が多くてずっと知っている絵柄だったので、その名前の会社はそれこそイギリスだと思っていたけれど、違ったのか。
新しい発見もありつつ、ホルベインの水彩絵の具をいろいろと試し描きできるということで、やらせてもらうことに。
前にもどこかで書いたけれど、絵は一切やってこなかった一方で色には興味があって、朝夕の空のグラデーションなんかは好きな題材。色合いの微妙な変化の具合なんかは見ていて飽きない。
透明水彩に触れてみて思ったのは、空のような微妙なグラデーションが筆から生まれるところが面白い、ということ。水に溶いた絵の具がふわっと広がっていくところとか、乾く前に他の絵の具と混ざっていくところとか、乾いたあとの画用紙のニュアンスがしっかり出ているところとか、そういうのが全部ひっくるめて面白い。
でも色合いの混ざり方とかそういうのが制御がきかなくて、なかなか思ったようにならない。隣の女性が同じように塗っているのだけれど、全然色合いの混ざり方が違う。なんでそんなに綺麗にできるんだろう? その向こうの小学生くらいの女の子が、あまり慣れてはなさそうだったのに、大きめの筆でスッと引いた線がとても綺麗で目を瞠る。めちゃくちゃ上手だ。変に迷いすぎるからいけないのか?
正解が良く分からない、難しい。
でもそういうのも含めて面白い。
普段パソコン関連で作業をしていて、デジタルなのでやり直したければ Ctrl+Z で一発、という環境で過ごしている分、やり直しがきかないアナログの世界は怖さと、だからこその緊張感や制御しきれない不確実性による楽しさがある。
特に水彩は、そういううまく制御しきれない部分も含めて楽しむと良い、という話をスタッフの方や参加者の方にも聞いた。なるほど、そういうものか。でもなんとなく納得。
そういえば、小学校のときにも水彩ってやっているはずだけど、こんなに綺麗なものだったか? と思って話してみると、小学生のときに使っていたものはおそらく不透明水彩だと思う、ということで、ああそうだったのか、と。子供の頃からこれを使っていたら、もしかしたらもっと絵に興味が出たかもしれない。
同じ絵の具のシリーズでも、色によって発色や混ざり方が違ってくるとか、筆の違いで塗るときのニュアンスがかなり変わってくるとか、知らないことがたくさんある。
これは……ハマると抜け出せない沼だ。
と思ってはいたものの、気づいたら少量の絵の具が108色フルに入ったイベント限定セットを購入していた。まあ、いろいろと教えて頂いたし、もうちょっと試してみたくなったし、1100円という破格だったので(通常サイズのフルセットは20000円以上する)。
水彩画用紙も少しだけ頂いたので、これに描いてみよう。
イベントスペースを後にして、ぼんやりと思い出したことがある。水彩の透明感を見て、ふと、写真を初めるきっかけになったときのことを思い出した。
知り合いがカメラを始めたらしく、その後ネット上で彼の写真を見せてもらっていたらなんとなく興味が出たので、新宿を歩きながらいろいろと撮ってみようという話になった。フィルムカメラを1台借してくれるというので、ふたりで各々フィルム1本分撮って、そのまま現像に出して出来上がりを見ながらあれこれ話した。
その時に初めて知ったのが、ポジフィルムというもの。それまでネガしか知らなかった。ポジの場合は現像されたフィルムそのままで写し撮った風景がそのままの色合いで見れる。もちろん小さいのでルーペ必須だけれど。
そのときに初めて見たポジの風景は、透明感に溢れていた。もちろん実際に半透明なわけだけれど、空の青と桜の薄紅色、木々や人物の影である黒の部分さえも、透明感に満ちあふれていた。
思えば、あの1枚こそが、自分を写真にハマらせるきっかけだった。
同じく透明感が主体となる透明水彩。絵心はないけれどひたすら空のようなグラデーションを描くだけでも満足できそうな気がする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?