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流通市場の株式投資家は価値が低いのか?

きっかけ

当社のメンバーとミーティングをしていると、ある上場企業の方とIR面談の際に「私募増資に参加することはできますか?」と質問されたという話が出てきました。その時の議論をきっかけに、流通(セカンダリー)市場で株式を売買する投資家の企業に対する提供価値について考えました。いろんな見方があると思いますが、私なりの考えを書きたいと思います。

増資時(プライマリー)の投資家

事業拡大のための投資等の理由で企業が資本を必要とする時、株式を新規に発行して投資家に購入してもらうことがあります(増資)。資本が手に入らなければ、経営に支障が出るため、増資に応じてくれる(or くれた)投資家は企業担当者の方にとって、より重要な投資家と捉えられることがあるようです(注)。企業は新規に発行した株式と引き換えに、投資家からお金を受け取るという直接的な関係が見えることもその要因です。

(注)通常機関投資家はプライマリー、セカンダリー両方で取引を行うので、プライマリーだけの投資家というのは殆ど存在しないと思いますが、企業担当者の方からするとプライマリーで買ってくれた投資家は別の位置付けになることがあるようです。

流通市場(セカンダリー)の投資家

一方、流通市場の投資家についてはどう考えればいいでしょうか?(私たちが通常株式を市場で売買するのは流通市場になります)。流通市場で株式が売買されても、その株式を発行する企業(発行体)にはお金が入ってくるわけではなく、株主がA社からB社に変わるだけです。発行体の担当者からすると、このように流通市場で株式を買って株主になった投資家との間には、増資時の投資家のような直接的なお金のやり取りはないため、主観的に提供価値が低く感じられることはある意味自然かもしれません。

株式の流通市場の役割

ここで一旦株式の流通市場の役割について触れてみたいと思います。結論から言うと、私は「株式の流通市場は、企業を社会的に支える(所有する)仕組み」だと思っています。
企業の存続期間は創業者等当初の大株主が保有できる期間よりも長いケースが多くあります。そのため、当初の大株主が必要に応じて株式を売却できる機会が必要になります。その大株主の株式を買い受ける次の投資家も株式を企業の存続期間ずっと株式を保有できるわけではないので、次の売却機会が必要になります。つまり、次に買ってくれる人がいる(=売却できる)という想定が相当期間にわたって続くという前提があるから、株式を買うことができる(創業者の場合は会社を興すことができる)のです。
このように株式市場は、企業の存続期間にわたって株式を保有し続けられる投資家が存在しない中で、バトンリレーをするように社会的に企業を支える仕組みと捉えられます。

株式市場という仕組みに価値がある

再び増資時の投資家について考えてみます。増資時の投資家も、上記と同じく、いつか売却することを前提に増資に応じています。株式市場が存在し、流通市場で売買する投資家がいることによって、増資に応じられるわけです。逆に言うと、株式市場という仕組みが無く、流通市場の投資家がいなければ、増資に応じることは困難でしょう。
したがって、「増資時の投資家も、流通市場の投資家も、企業に対する提供価値は差が無く、株式市場という仕組みに価値がある」、という見方もできると考えます(感情面で増資時の投資家に思い入れを持つこともよく理解できます)。投資家側から見ると、上場株投資家が上げるリターンはどこまでいっても株式市場という仕組みのお陰ということにもなります(当たり前だと思われるかもしれませんが、運用者の意識は違うかもしれません)。

以上、財政面(お金)の側面で考えると、個々の投資家よりも株式市場という仕組みに価値があるのでは、というお話でした。

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