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誰もがやらない交配に挑戦してオリジナルな花のクリビアを育成


話し手  佐々木成孝さん

  ❒  34歳でクリビアの収集・育種にのめり込んだトラックドライバー                  
 埼玉県越谷市で妻がやっている介護の仕事を手伝いながら、クリビア(君子蘭)を育成・販売している佐々木成孝です。始めに言いますが、私は農家ではありません。25年位前に、斑入りダルマ君子蘭▾を見て「鷲が羽を広げているようでカッコいい」と植物に初めて興味を覚え、斑入りクリビアの収集を始めました。

 1997年に34歳で交配を始め、2000年に世界のクリビアマニアが花の品種改良に熱く取り組んでいることを知って、育種にのめり込んでしまいました。当時、私は第一園芸のトラックドライバーをしていて、クリビアの収集と育種は趣味で行っていたんです。

  ❒  交配種子のネット販売をはじめ、44歳でクリビアビジネスを開始
 植物については、第一園芸の優秀なスタッフ3人から園芸の基礎を学び、千葉県の君子蘭の園主の経験などから育種を学びました。次第に増えるコレクション・交配苗で自宅(東京都調布市)は手狭となり、千葉県にある温室を借りました。

 そんな中、腰を据えてクリビアに取り組もうと考え始め、2004年から海外向けにオリジナル交配種子をネット販売していて収益もそれなりであったことから、2007年44歳で ドライバーを辞めて、本格的にクリビアビジネスを始めたのです。
 
  ❒  八重咲の各種花色の品種の開発等を目標に交配を実施
 私がクリビアの育種でめざしたのは、黄花、オレンジ花以外の八重咲きの各色の作出、実生 2年で開花し年2回咲く系統の固定、葉芸では黒赤軸で葉裏も濃い赤のトリカラ―リーフ系統の立葉品種を確立するなどです。

2006年以降、南アフリカ原産のアガパンサス▾、クリビアの近縁種であるハエマンサス▾、そして最近ではアマリリス(ヒッペアストラム)の交配も行っています。アガパンサスでは、自家交配でできた底緑の花の系統とバイカラーをミックスした新花色と芳香花の育成、ハエマンサスでは葉の斑入り葉品種等の改良をめざしています。それらの新しい植物はまだ改良途中で、販売できるものは完成していません。
 
  ❒  南アフリカの原種を交配親に使って新色を生むなど、花色のバラエ               ティーを広げる
 まだ量産体制はできていませんが、クリビアの育種については、23年が経ち、緑花、オレンジとクリームのバイカラー、ピーチ、ブラッシュピンク、赤黒花等、種間交雑▾種を含めて花色のバラエティーを徐々に広げることができました。

日本で普及しているミニアータ種(受け咲き)は主に朱赤色ですが、南アフリカにある朱赤に弁先が緑色の筒状花の5種類の原種を交配に使い、新色を生むことができました。花弁先端が白く縁どられたピコティ花の「オラ―」、玉虫色のブロンズの「ファンタビュラス」、赤黒花の「アガミス ブラック」も、海外から高い評価を得ました。


オラー
アガミスブラック

 
  ❒  各国のブリーダーの取組みを把握し、他者がやらない育種に取り組む
 私は2002年、2006年、2010年の3回南アフリカに行き、国際クリビア会議に参加・講演したことで、多くの国の愛好家、ナーセリーの代表と会い、各国のクリビア状況を把握し、南アフリカ等のブリーダーがやらない交配を行って種子販売に努めてきました。
 
  ❒ 海外の愛好家から多数の注文を受ける
現在の販売先は、海外が8割、日本は2割程度です。海外に愛好家が多く、まずはネットのクリビアコミュニティ(南アフリカとオーストラリア)に参加し、メールで写真を公開すると、種子や株が欲しいと多数の注文が来るようになりました。英語は単語を並べるだけのような内容ですが、翻訳ソフトも使って対応しました。

 10年前、海外へのクリビアの種子の販売、株の輸出は日本で私一人だけだったので、注文が殺到したのです。2008年~2018年にはジャパンクリビアツアーを主催し、海外6カ国から買い付けに来た参加者の輸出手続きの面倒も見ました。

 今の主な販売先は、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカのクリビアナーセリーと愛好家への種子と株の輸出販売と国内の君子蘭マニアへのネット販売です。

 20年ほど前、中国と日本を除いた他の国では「葉より花」でした。南アフリカでは「ピーチ」が大人気で価格も約6万円と高額で、愛好家も高くて買えないと嘆いていて、リッチマンのコレクションでした。「錦鯉よりクリビアだ」と、日本に八重咲や斑入り葉のダルマを買いに来る人もいました。

 日本では、今もって葉芸のダルマが人気のトップですが、最近では私の紹介する新しい花色のものに興味を持つ流れも広がりつつあります。やはり愛好家は、どこの国でも、若い人は少ないようです。

 海外への普及方法は、「信頼できる海外の友人を一人でも良いからつくる」ことだと思います。英語ができなくても思いを伝えれば、わかってくれる人はいるんです。その人の力を借りれば、世界の最新事情を知ったり、自分の育種がどの程度の位置にあるかを認識することができるんですね。

  ❒  見飽きすることのないオリジナルティーを持つ花の育成を目指す
 オリジナリティーとは、それまでと明らかに違う個性だと思います。ビートルズのメンバーのポール・マッカートニーは自身の音楽を「バディ・ホリー▾の曲の模倣から始めて新たなコード(和声)を付け加えた」と話しているように、模倣+新しい要素がオリジナリティ(独自性、新規性)を誕生させる一つの方法と解釈しています。

 私は、ある植物で過去に誰かが作出したものや興味深い交配を探しての考察(=模倣)、新しいが、近縁や他の植物では得られている表現形だが、育種対象植物では発現していないということで「新しい」(=新しい要素)を考えながらオリジナリティーある花を育成しようと取り組んでいます。そして、作り出した花に何度見ても見飽きないオリジナリティーがあるかが、私にとっての美意識の分かれ目です。

 近年では、私も入会している全国新品種育成者の会の佐藤顧問に、私の作った花に対して新たな角度から育種していく具体的な手法をアドバイスしていただき、新たな刺激となりました。

 私の育種する植物は、日本にも世界にも有名なブリーダーがゴマンといて、しのぎを削ってる世界で販売されています。その中で、注目される品種を作り出したいと日々奮闘していますが、突破口は、誰も成功していない「交配アイディア」を生み、それを実行させて苗を作り、美しい花を咲かせるのが私の目標です。

  最後まで読んでくれてありがとうございます。 

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                    用語(▾印)解説

▾ダルマ系君子蘭: 君子蘭の系統の1つで、葉が肉厚で幅広、そして短く                          コンパクトな姿が特徴。
▾アガパンサス: 南アフリカ原産のユリ科の多年草。別名を、紫クンシラ                       ンやアメリカンリリーという。光沢と厚みのある葉から細長い                       茎を伸ばし、放射状の青紫や白の花を咲かせる。
▾ハエマンサス: 南アフリカ原産の球根植物。葉はオモトに似る。日本で                       は、長い白色のおしべが密集して化粧用の刷毛はけのようなマ                       ユハケオモト、おしべの長い六弁花を散形につけるセンコウハ                       ナビなどが栽培されている。
▾種間交雑: 同じ属に含まれる異なる種同士の間の交雑によって生じる雑                       種第1代。 
▾バディ・ホリー: チャールズ・バーデン・ホリー(1936-1959)。アメリ
      カのシンガソングライター、1956年からザ・クリケッツを率い
      て活動を行っていたが、1959年に搭乗した小型機の墜落事故に
      より死去。しゃくりあげるような裏声を用いたヒーカップ唱法
      や現代のロックにも通じるギターサンドや軽快なビートが特
      徴。独自のサウンドと黒縁メガネのルックスが後のロックグル
      ープに影響を与えた。 


会員・準会員を募集ーー全国新品種育成者の会


     優良新品種の開発と普及、それに手を携えて活動しているのが、
  この投稿の育種体験を語ってくれている育成者も加入している
  全国新品種育成者の会です。

   投稿記事でもわかるように、新品種ができる確率が少ない中で、
  育成者は夢をもって何年もかかる育種をねばり強く進めています。

発行した会のかわっら版

   しかし、後継者がなかなか育たず、やっと開発した品種が無断
  で増殖・販売される事件も続く中、育種の火を将来にわたって絶
  やさずに発展させていくために、育種家の高齢化が進む中、協力
  してくださる方を必要としています。

   育成者でなくとも新品種の誕生を望み、会の趣旨に賛同してくだ
  さる方であれば、どなたでも準会員として加入していただけます
  ので、何とぞよろしくお願いいたします。
          連絡先  iwa.hinsyudebyu.512@gmail.com

        

 


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