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エッセイ「ベランダ」

ベランダに出るのが好きだ。
昼間、リモートワークに嫌気がさすとなんとなくベランダに出て、日の光を浴びる。
良く隣の敷地で(野良?)猫が寝ころんでいる。
抜き足差し足で何かににじり寄っている時もある。
何も居ないようだが、何を狙っているのだろう。

夜にベランダに出ると、近くのアパートの灯りや飛行機を見ることができる。
この茨城県南部は成田空港が近いせいか、はたまた羽田への通り道なのか、良く飛行機が真上を飛んでいる。
何処へ飛んでいくのだろう。
ぼんやりと飛行機を見るのが好き。
ああ、明日からは新しい職場だ。

ITコンサルタントという名のRPAエンジニアとなって2ヶ月目。
サポートであった1か月のスポット参画案件が終わり、いよいよ本稼働となった。
明日は早起きして東京まで行かなければならない。
朝ごはんは鶏のむね肉におにぎり。
さっきタイマーは仕掛けたから、明日は時間通り起きて、ご飯と弁当を作って、電車に乗れれば良し。うん。

ダイエット中なのだが、エネルギー不足のせいか、どうにも体調が悪い。
シックスパックのうち、上4つの腹筋は大分見えて来たから、体脂肪は10%ちょっとというところだろう。
ここまでくると、私は頻繁に調子が悪くなる。
頭痛は頻発するし、中性脂肪が足りないのかふらふらするし、気持ちも悪くなる。
これではまずい、と意を決してビールを飲んでみた。
アルコールは純エネルギーだ。カロリー補給には持って来いだろう。
ダイエットを諦めたわけではないが、体調を崩しては元も子もない。

缶をあけるとプシュッと小気味良い音が響く。
この音だけでもうストレスが低減されてゆく。
下戸のくせに一息で缶ビールを空けた。
旨い!
人類は良くこんな旨いものを作ったものだ。
若いころはどうにもこのビールの苦みが不得手であったが、今やこの苦みを望むようになったのだから、人間の好みというものは変化していくものらしい。

缶ビールを飲み切り、コタツに入る。至福のひと時。
やはりエネルギー不足であったらしい。
体調が良くなってきた。
そして大いに酔いが回ってきた。
くわんくわんと世界が回る。
座っているのに辺りが回りだし、どてんと横になる。
酔いとはアルコールが脳をマヒさせた状態であるらしい。
体が動かない代わりに、明日からの不安とストレスが吹き飛んでいった。
おそらくこれが今の私に最も必要であったものなのだろう。

異常なぐらい塩分が欲しくなり、インスタントのみそ汁を飲んだ。
ああ、なんて旨い飲み物なのだろう。
普段なんとは無しに口にしているけども、状況によって味は変わる。
結局は受け手次第なのだろう。
少し酔いが醒め、ベランダに出た。
コンクリートが濡れている。おや、雨か。
そういえば少し肌寒い。

10年ほど前、大学院修了と同時にリーマンショックがあり、ホームレスになる寸前であった。
それ以来、家があるということが如何に有難いことであるのかつくづく思い知った。
特に冬、ベランダに出て寒さを肌に感じ、いつでも暖かい家の中に入れる、と思うのが小さな楽しみになった。
私には家がある。

戸建てを買いたい、とも思う。
一戸建てを買って、犬を飼いたい。
そしてベランダに出て、星を眺めつつ、好きなだけパイプを呑みたい。
私が好きなパイプタバコは比較的中毒性が弱いので、止めるのも紙たばこほどには難しくないのだが、煙が凄いので非常に嫌がられる。
酔っぱらってベランダに出て、コーヒー片手にパイプ。
最近はすっかりご無沙汰になっている悪癖を、なんとかもう一度楽しめるようにしたいものだ。

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