コーポレート・ファイナンス サーベイデータ④M&A

ひろです。

日本のコーポレートファイナンス: サーベイデータによる分析』をもとに記事を続けてきましたが、ここに来てとうとう「M&A」の章です。他にも興味深い内容はとても多い本書ではありますが、記事はこれで終わりとしようと思います。是非とも、ご自身でも手に取ってみてください。

さて、いったいM&Aを実行している企業は、M&Aに関する具体的なサーベイに対してどのように回答しているのでしょうか。
M&Aに対する意識を明らかにする意味でも、興味深い調査結果と言えますね。

今回も一時的に有料化していますが、いずれは無料で公開する予定です(時期は完全に未定です)。よろしくお願いします。
(※追記:無料にしました。)

なお本サーベイは2008年7-8月に実施されたので、既に10年以上が経過しているので、日本企業におけるM&Aに関する経験は更に深まってきたと想定される点には、留意が必要です。

ではサーベイ結果を見ていきましょう。

M&Aの経験

まず、M&Aを実施したことがある企業がおよそ6割でした。上述の通り、現在に至るまでに更に割合は増えていることが想定されます。更に実施した企業では3/4以上が複数回行っており、M&Aが広く日本企業に浸透していることが窺えます。
M&Aの形式としては買収や吸収合併、対等合併、事業部門買収・売却等とありますが、予想される通り、7割方が「他者を買収または吸収合併」と回答しています。

M&Aの動機

M&A(特に買収側)を行う動機として一般的には何が意識されているのでしょうか。本サーベイではその点も調査されています。
結果としては、上位から並べると
1位:市場シェアの拡大
2位:事業の選択と集中
3位:相手企業の販売ネットワークの活用
4位:事業の選択と集中
5位:相手企業のブランド力など知的財産の活用
となっています。

「知的財産」も上位に来ている点は面白いですね。
ご承知の通り無形資産の重要性が叫ばれて久しい世の中ですから、今後は知的財産等無形資産への関心も高まってくると思います。

M&Aの効果

ここではM&Aを行ったことのある企業に限定して更問がなされています。
動機(目的)についても再確認されていますが、概ね上述の内容と同じですので、改めての紹介はここでは割愛しておきます。

皆さん(ひろも含めて)が関心があるのは、やはりM&Aの効果・成果ですよね。
「目的はわかりました。で、実際にはどの程度目的を達成したんですか。効果はあったんでしょうか。」
と、誰もが気になってしまいますよね。本サーベイはちゃんと、その点にも果敢に突っ込んでいっています。

どのような効果があったのか問われた時に、企業は以下のように回答しています(10項目)。以下、「効果があった」という回答が多かった順です。
1位:市場シェア拡大
2位:事業の選択と集中
3位:相手企業の販売ネットワークの活用
4位:多角化シナジー → ここら辺から効果はやや弱め
5位:相手企業のブランド力など知的財産の活用
6位:成熟・衰退部門の事業再編
7位:相手企業の研究開発力の活用
8位:被合併企業との組織の融合 → ここら辺から効果はかなり弱め
9位:間接部門の費用削減
10位:相手企業の保有現金の活用 → むしろ否定的な見解

以上のようになりました。

M&Aの効果の達成度

効果として企業が列挙しているものとその強弱についてはこれでわかりましたが、するとやはり気になるのは、「目的と照らし合わせた時に、目的を達成する効果があったのか」という点ですよね。本サーベイはその関係も分析しています。

結論としては、「事業の選択と集中」「市場シェアの拡大」「成熟・衰退部門の事業再編」を目的として掲げた企業については、実際に効果・成果があったと回答する企業が多く存在していました。
他方、「多角化経営の手段」を目的とした企業における効果はやや弱く、更に、「経営資源の獲得」を目的として企業については、「相手企業のブランド力など知的財産の活用」「相手企業の研究開発力の活用」「相手企業の販売ネットワークの活用」といった効果は弱めという傾向が観察されました。

なかなか面白い結果ですね。
市場シェア等は(書籍にもある通り本来的に1+1=2では意味がないのでそれ以上の効果が求められるべきではあるが)即座に効果が生じる一方、経営資源を活用することには時間が必要であったり、一定の困難があったり、ということが、サーベイ結果にも表れています。

なお、一点補足すると、製造業・非製造業にグループ分けをして分析すると、「相手企業の研究開発力の活用」や「相手企業のブランド力など知的財産の活用」については、製造業の方が有意に効果が高い結果となっています。こういった内容については製造業における方が、効果・成果がより追及されやすい、ということと思います。
ただし、一方で、「被合併企業との組織の融合」の効果については製造業の方が低く、M&A後の組織融合については製造業の方が困難を抱えていることが示唆されています。

書籍には更に、人員調整と知的財産・研究開発能力の活用効果との関係や、成熟・衰退企業の再編に関する補足サーベイ等がカバーされています。

終わりに

…ふう、こんなところでしょうか。
M&Aを実際に実行した企業が、目的を何として考えていて、実際の効果としてはどのようなものがあったのか、を見ると、M&Aを考える時のヒントになるかもしれませんね。

冒頭で述べた通り、サーベイの結果の共有は今回で最後です。他にも興味深いトピックが多いと思いますので、是非ともご自身で書籍を手に取ってもらえればと思います。

それではまたトピックを考えて、思いついたら執筆しますね。
ではではまた。

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