株式譲渡契約書(3)

ひろです。

それでは株式譲渡契約書(SPA: Share Purchase Agreement)についての続きを書いていきたいと思います。

~ここから過去の記事~

一点補足ですが、ひろが記載している内容は、非常に基本的な内容に限定されています。いずれ参考図書については一覧的に取りまとめたいとは思いますが、SPAの勉強を本格的にする場合は専門書が必須ですので、「このブログを読んでいれば大丈夫」といった誤解はなきようにお願いしますね。

さて、今回は表明及び保証(Representations & Warranties)について、まとめていきます。

表明及び保証
さて、「表明及び保証(以下、「表明保証」)」ですが、前回の記事でも紹介した通り、これは「一定の事実が真実かつ正確です」と表明し、その内容を保証するものです。
表明保証の違反が生じた場合は、たとえば「取引実行条件(CP: Conditions Precedent)」が充足しなくなるため、そもそも取引が実行されなくなったり、或いは、後ほど紹介する「補償(Idemnification)」の対象となったりします。

基本的な表明保証の機能は、「買手と売手との間には情報の非対称性がある」ことを前提に「その補完をする」ということだと思います。すなわち、前提として「買手はどうしたって、売手ほどには対象会社について分からない」ということです。「売手が詳細な情報を持っている一方、不都合な情報については買手から聞かれなければ敢えて開示しない」ということで、買手はどうしても「情報的に劣後した位置にある」ことになります。そこで、一定の事実については表明保証を要求しておくことで、表明保証違反があれば取引を行わなくてもよくなる仕組みや、事後的に損害が発生した場合には補償するような仕組みを設けておくことで、「隠し事があれば売手はただでは済まない」状況を作っておくことで、「情報の非対称性により不利な位置にあることを補完する」ということです。

表明保証が行われない場合を考えると分かりやすいですが、その場合は「問題が発覚しても取引を中止することができない(CPが充足されるため取引は実行)」、「事後的に問題が発覚しても補償を請求することができない(補償の対象ではないため)」ことになってしまいます。売手から提示するSPAドラフトでは、表明保証はかなり限定的な内容になっていることも多いですが、買手としては安易に妥協すべき所ではありません。
売手としても軽々に承諾すると取引中止や損害賠償といった大きなリスクをはらむため、表明保証は大いに交渉の対象となるとともに、逆に言えば、交渉を通じて「売手が応諾できない表明保証の内容」=「売手が表明保証をすれば違反となり、取引中止や補償の対象となり得る内容」が明らかになることも期待されます。

以下、表明保証の①基準時、②内容、③表明保証からの除外、について整理します。

①基準時
表明保証の基準時については、多くは契約締結日およびクロージング日、のそれぞれを基準時として2つの表明保証を行います。内容によっては、一方の基準時でのみ充足されるものであることがあるため、当該内容については契約締結日時点では表明保証せず、クロージング日でのみ表明保証することもあります(株式担保が解除されていること等)。

②内容
さて、表明保証される内容について見ていきます。
表明保証は(1)売手が行う表明保証と、(2)買手が行う表明保証、に大別されます。

(1)売手が行う表明保証については、(i)売手に関する事項と(ii)対象会社に関する事項に更に分かれます。

(i)売手に関する事項は、そもそものSPAの締結の権限や内部手続きの履践、倒産手続きの不存在、SPAの締結・履行に関するコンプライアンス違反の不存在、反社会的勢力等との関係の不存在、対象会社の株主であること等、SPAの有効性や取引そのものに係る事項として「fundamental reps(基礎的な表明保証)」と呼ばれる内容になることが多いと思います。
さすがに「SPA締結の権限があることは表明保証できません!」「対象会社の株主であるなんて、言えません!」とか言われたら、「なんか色々とやばいぞ、こいつら…」としか言いようがないですからね。

(ii)対象会社に関する事項としては、対象会社の有効な存続、倒産手続きの不存在、株式関連(発行数や潜在株等)、財務諸表の正確性(GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)に準拠していること等)、後発事象の不存在、潜在債務・偶発債務の不存在、法令等の遵守・許認可に関する事項(適法に事業活動を行っていること等)、重要契約や重要資産に関する事項(契約の存続や有効性、有形・無形資産の保有等)、税務に関する事項(滞納がないこと等)、人事労務に関する事項(未払賃金の不存在や労使間の紛争の不存在等)、訴訟・紛争に関する事項(現在進行中のものや、その「おそれ」等)、等ですね。

(2)買手が行う表明保証としては、売手が行う、売手に関する表明保証と同様となることが多いです。

さて、とは言っても、こんなのは実例を見るのが手っ取り早いことには異論がないですよね。
無味乾燥な上記の説明を読んでも、分かりようがありません。
英文の契約書ではありますが、ざっと検索してみました。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/909954/000119312510277481/dex1032.htm
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/946840/000119312512085452/d231890dex1061.htm
http://smallbusiness.findlaw.com/closing-a-business/sample-representations-and-warranties.html
「share purchase agreement representations and warranties sample」等で検索すれば、他にも見つかりそうです。

なお日本語については、あまりよいものが見つかっていません。
(補足:1つ見つかったものについてリンクを張っていたのですが、切れてしまったようです)

③表明保証からの除外
内容の程度については重要性・重大性による限定が付されることが多いことは、前回で紹介した通りです。
軽微な違反については表明保証から除外しておくことで、「1円ずれていたから取引中止!」みたいなことが起こらないようにします。

また、「知る限り」や「知り得る限り」といった、売手当事者の認識による限定が付されることもあります。
この場合は「誰が」知る限りなのか、という点が重要なので、明記することになります。
「知る限り」と「知り得る限り」の違いは、前者が「現に知っているか否か」という点が判断基準であるのに対して、後者は「合理的な調査を行えば知っていたであろうか否か」という内容を含む、とされています。

更に、「Disclosure Schedule」と呼ばれる別紙によって、たとえばDue Diligence(DD)の過程で開示した資料や情報を、表明保証から除外することが多いです。
たとえば、「このような潜在的な訴訟リスクがあります」と売手が買手に説明しているにも関わらず、表明保証で「訴訟リスクは知り得る限り存在しない」と表明保証するわけにはいかないですよね。そこで、「ただし、DDで開示した内容は除く」と記載するイメージです(抽象的に記載するのか具体的に記載するかは、分かれます)。
「開示した内容については互いに承知しているはずだよね」ということで除外するわけですが、とは言っても、一方で、「開示されたからと言って、全体像を把握できるような内容ではなかったぞ」とか「開示されたとは言っても、これほど重大な内容であることは窺い知れなかったぞ」といった問題になることも考えられますよね。よって、この別紙の記載については、どのような事実関係をどのように記載するかが、重要なポイントとなります。

~ここまで過去の記事~

ではではまた。

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