エクイティ・ファイナンス(1):概論

ひろです。オリジナルのブログではなぜかメザニンを取り上げた後にエクイティ・ファイナンスを取り上げるという倒錯ぶりを発揮していましたが(笑)、ここでは順序は変更し、先にエクイティ・ファイナンスについてまとめたいと思います。
参考書籍は鈴木健嗣氏『日本のエクイティ・ファイナンス』でした。

~ここから過去の記事~

さて、最近購入した鈴木健嗣氏の著作『日本のエクイティ・ファイナンス』の内容が面白そうなので、こちらに主に依拠しながらエクイティ・ファイナンスについて書いていこうと思います。

現時点では①エクイティ・ファイナンスの概論(最適資本構成)、②公募増資、③第三者割当増資、④ライツ・オファリング、⑤転換社債、とまとめていき、余裕があれば他の内容もカバーする、ということで考えていますが、適宜変更していく可能性はあります。なお、基本的に普通株式を前提にするつもりです。

では早速、①エクイティ・ファイナンスの概論(最適資本構成)について、まとめて行きましょうか。

「エクイティ・ファイナンス」は企業の「資本」となる資金調達のことですね。
その形態として普通株式、種類株式(優先株式等)、新株予約権、新株予約権付社債(転換社債等)等があり、その方法として公募増資や第三者割当増資、ライツ・オファリング等がある、ということです。
既にメザニンでも取り上げた通り、優先株式が上場している事例は伊藤園だけであり、現実には形態と方法の組み合わせとしては優先株式×第三者割当増資がほとんどであったり、ということはあります。

さて、そもそも企業は何故エクイティ・ファイナンスを行うのでしょうか? もちろん資金が必要だからですが、何故外部から「エクイティ」を調達するのでしょうか?

ここでデット(負債)とエクイティ(資本)との関係(最適資本構成)から整理したいと思います。
と言うのも、恐らくは企業はデットとエクイティの何かしらのバランスを考えた上で「エクイティ・ファイナンスを行う」という選択に行きつくものと思うからです(「デットとエクイティの選択は完全にランダム」ということは、直感的にも現実的にもない話でしょう)。

1. モジリアーニ・ミラー理論

資本構成を考える上で、圧倒的に(?)有名な理論は「モジリアーニ・ミラー理論」(Modigliani-Miller theorem。以下「MM理論」)ですね。
すなわち、①個々の行動は他者に影響を及ぼさない、②全ての行動は平等に同じタイミングで起こすことができる、③全ての関係者間に情報の非対称性がない(全員同じ情報を同じように有している)、④税金・取引コストが存在しない、⑤市場への参入退出は自由、という完全市場を想定した場合、資本構成は企業価値に影響しない、という理論です。そのためデットとエクイティのどちらを選んでも構わない、となります。

「そんな馬鹿な!」という感じですよね。
実際に、MM理論は上記の通り「完全市場」を想定しているわけですが、その前提は明らかに非現実的で実験室のような想定になっています。税金が存在しない…うむ、夢のようなお話ですね。

ということで、MM理論は衝撃的な内容ではあるものの非現実的な面もあるため、以下のように前提や考え方を修正していくことになります。

2. トレードオフ理論

これは、負債調達について、①利息を支払う必要があるが税務上それは損金参入されるというメリットがあること(利息×税率だけ、税金が減ること)、②負債調達の割合が増えれば増える程、企業が債務の履行不能に陥るリスク(デフォルト・リスク)が増すデメリットがあること、のバランスを考える、という理論です。
単純に①のメリットだけを考えると、「全ての資金調達を負債で行えば節税効果が最大=企業価値も最大となる」となりますが、実際はデフォルト・リスクが高まり取引先が取引を控えるようになったり、実際に倒産した際には弁護士費用や資産処分等で具体的なコストが発生したりします。

そのため、「負債は活用することで節税効果を享受するものの、かといって際限無く負債を活用するのではなく適切に抑制することで、デフォルト・リスクが過度に上昇することを防ぐ」ことが求められるようになります。

…う~む、理屈はわかるのですが、個別企業について、「具体的に具体的にどこまで負債比率が高まった時に、どのような影響がどの程度生じるのか」ということは分かりそうにもないので、何とも現実に活用し辛い理論ですね。節税効果は利息×税率で計算可能ですけど…
「負債比率が過大にならないよう」というのは企業行動として結構現実的でもあると思いますが、それはそもそも負債比率が高い企業の場合の話であり、世の中には「無借金企業」なんてのもあるわけです(企業がトレードオフ理論に従っているとしたら節税効果のために是非とも負債を活用するべき)。
まあ、あくまでも「最適な資本構成とは」という理論であり、現実の個別企業がそのように行動しているわけではない、ということですね(節税効果を意識している企業も、あるにはあるのでしょう)。

3. エージェンシー理論

これは、①負債が多くなれば多くなるほど、負債のエージェンシー・コスト(負債があるため投資を過度に抑制的にする等)が高くなっていく、②資本が多くなれば多くなるほど、資本のエージェンシー・コスト(経営者が株主利益に反するような行動を行う(私利私欲のために資源を活用する等)等)が高くなっていく、③①と②の合計コストが最低となるような水準が最適な資本構成、というものです。
う~ん、考え方は分からないでもないですが、この理論を現実に当てはめると、経営陣自ら「よし、我々が私利私欲のために行動しないように負債比率をもう少し高めよう」みたいに考えることになるんですかね。
まあ、あくまでも「最適な資本構成」についての理論であり、「経営陣の動機」という意味ではないですしね。

4. ペッキング・オーダー理論

「ついばみ順序」といった意味でしょうか。これは、①資金調達においては経営陣と資金調達先との間には情報の非対称性が存在し、それによって資金調達では調達コストを伴う、②そのため、まずは企業は最もコストの少ない内部資金を用いる、③外部資金が必要な場合は、不確実性が高い資本(株式)ではなく、固定的な支払を行う負債をまずは用いる、④外部に資本(株式)提供を頼むのは最後の最後である、というものです。株式発行は、既に負債調達が多い等、負債で調達できない場合にのみ行うことになります。
ひろとしては意外としっくりくる話です。銀行や株主向けに様々な資料を作成するのも面倒ですから、「まずは自己資金で…」という考えになるのも現実的な気がします。

たとえばベンチャー企業等である場合は、①内部資金が不足しており外部資金に頼るしかないが、②信用力がないため銀行から借入を行うことはできない(又は、そもそも当初は赤字が継続する等、ローンの返済が不可能)ため、③株式を発行することで資金調達を行う、といったことになるのでしょう。
上述の「無借金企業」も、「内部資金」以上に資金を必要としていないのだ、と分かりますね。

この理論の問題(?)としては、他の理論のように「最適資本構成が分かる」ものではなく、「資本構成はあくまでもペッキング・オーダーに基づく資金調達の結果に過ぎない」ということでしょうか。
能動的に「どのような資本構成が望ましいのか?」ということがなく、まずは内部資金、次にデット、次にメザニン(?)、最後にエクイティ…と順々に検討するだけなのです。

さてここで、希薄化率25%以上の第三者割当増資の場合にはその相当性について意見が求められるのですが、その内容が意外とペッキング・オーダーに沿っています。
幾つか見つけてみました。

ジャパン・フード&リカー・アライアンス2017年7月14日
資金調達の手法に関し、(i)借入及び社債等による資金調達については、新たな支払利息の負担が財務基盤全体に及ぼす悪影響が大きいと見込まれ、また、「財務戦略」の有利子負債の削減及び資本増強の推進は、将来における機動的な資金調達や借入条件の向上にも繋がると考えられるとのことであり、(ii)公募増資については、十分な応募が集まらず機動的な調達ができない可能性や、浮動株の増加によって一時的に市場の需給関係が悪化し、他の既存株主の不利益に繋がる可能性があること等から、調達手段として第三者割当による株式発行を選択したことについては、合理性があると考えられる。
ナガオカ2017年5月10日
第三者割当増資の資金調達の手法に関し、貴社の経営状況・財務状況の下では、公募増資、株主割当増資、新株予約権の発行は、実現可能性が乏しいと考えられる。また、新株予約権の発行では、直ちに前記の資金需要を充たすことは困難である。
また、貴社の経営状況・財務状況の下では、銀行借入れ及び社債の発行もまた実現可能性が乏しいと考えられるうえ、これらの資金調達方法では財務体質の改善に資さないという難点がある。
以上から、貴社の経営状況・財務状況の下では、第三者割当増資は、貴社にとって、ほぼ唯一の現実的な資金調達方法であると考えられる。
Nuts2016年10月17日
貴社が資金調達の方法として、借入、新株式発行等でなく、本増資を選択した理由は、まず、借入については、現状の貴社の財務状況やGC注記が付された状況では、金融機関等における貴社の信用状態は良好とは言い難く、貴社への融資に関して、金融機関としては慎重にならざるを得ない状況であった。さらに、調達する資金の使途は、コンテンツの取得資金であり、調達した資金で取得するコンテンツの権利が担保に供することに馴染まず、貴社の現状では、追加で担保提供できる様な資産を有していないことに加え、優良なコンテンツ獲得のためには、まとまった資金を早期に確保する必要があるため、借入れによる資金の調達は困難であるといえ、資本性の資金調達が適切であると判断したことに、一応の合理性が認められる。
そして、公募増資あるいはライツ・オファリングを実施しても、現状の貴社の財務基盤や業績、出来高や株価の動向を鑑みると、新たなコンテンツ獲得に必要な約20 億円の資金を調達するに十分な応募を見込むことは困難であるものと想定されること、早期に調達の目途をたてることが重要であると思われたこと等から、貴社の現状に理解をした投資家を対象とする第三者割当という方法を選択するのが最適であるという結論に至ったことにも、一応の合理性は認められる。
そして一度に大幅な希薄化が生じることを少しでも軽減すべく、本新株式の発行により約10 億円を調達し、今後のコンテンツ獲得に関する協議の進捗に合わせ、機動的に調達できるよう、本新株予約権の発行・行使により約10 億円を調達することとしたことにも、一応の合理性が認められる。
したがって、貴社が資金調達の方法として本増資を選択したことについては、相当性が認められると思料する。

と、このように、

借入金や社債→無理!
他のエクイティ性の資金調達→無理!
⇒大規模希薄化の第三者割当増資へ

という流れが示されています。エクイティ性の資金調達の中でも手法によって更に順序を設定した上で、ペッキング・オーダー理論に従った説明がなされているようですね。

5. タイミング理論

これは、①株式が割高に評価されている時な株式で調達し、②株式が割安に評価されている時は負債で調達する、というものです。
この理論では、株価が割高の場合には、実際には資金需要が無かったとしても株式発行を行うこともあり得ます。

しかし現実として考えても、「株式が割高に評価されているような状況=投資家からの期待が大いに寄せられている状況=企業活動が極めて旺盛で資金需要も相応に存在する状況(株式調達しないと賄えない程)」であり、割安の場合は単に逆(企業活動があまり上手くいっておらず、そもそも株式発行できるだけのストーリーが存在しない)、という気がします。

…ということで、エクイティ・ファイナンスの動機について、最適資本構成理論をベースにご紹介をしました。

~ここまで過去の記事~

リンク切れを起こしていた先は張り替えました(これが結構大変です…汗)。
ではではまた。

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