株式譲渡契約書(2)

ひろです。
さて、株式譲渡契約書(SPA: Share Purchase Agreement)についての紹介を続けていきます。

~ここから過去の記事~

今回は「クロージング」と、「取引実行条件(CP: Conditions Precedent)」について簡単に纏めていきます。

クロージング
実際の取引を行う(クロージングする)、より詳細な手続き等を定めるものです。前回紹介した「譲渡の基本条件」はあくまでも基本条件ですが、こちらでは更にきめ細かく定めるイメージですかね。
端的には、本件取引において「いつ、誰が、どこで、どうやって、何を、どうするのか」を規定するものです。密接に関連した内容となるため、「譲渡の基本条件」と特に区分されず、一緒になっていることもあるかと思います。
内容としては、たとえば「買手は売手の指定口座に代金を振込みます。その送金手数料は買手負担です」、「取引が終わったら、買収対象会社は株主名簿を書き換えます」といった、買収に必要な細かな手続き・取決め等を記載します。
買手による送金と売手による株券交付等は基本的には同時に行うので、「売手が株券を取引現場に持参」→「買手が送金指示」→「売手が着金を確認」→「売手から買手に株券を交付」、といった流れになることが多いかと思います。
ただ、国内送金であればそのようなタイムラインでの取引が可能ですが、国外送金を伴うような場合は、時差等もあり「送金した直後に着金を確認する」ということができません。将来的にビットコインで決済するような事例が出てきたら話も変わるかもしれませんが、さすがにそこまで先進的な取組みを行った事例は、まともには出ていないと思います。そこで、海外送金の場合は送金指示書の写しを売手に提示すること等により、支払いがなされたと見なす等の工夫をすることになります。

また、クロージングを行う場所についても規定される場合があります。株券等を担保として預かっている銀行が指定されたり、或いは法律事務所が指定されたりします。

クロージングの数日前等に、「プレ・クロージング(Pre-Closing)」の会議を買手・売手で開催し、それぞれのクロージングに向けた準備状況(前提条件の充足状況や、準備する書類等)を確認し合うこともあります。これは、契約書上で明記せずとも行うケースもありますが、いずれにせよ、事前に問題や抜け漏れの有無等を確認できるため、有益なものと言えると思います。

クロージングについてはこんな所です。

取引実行条件(CP: Conditions Precedent)
さて、そんなクロージングですが、そもそも「CPが充足されていない限りは発生しない」ことになります。CPが充足された時にのみ、クロージング手続きが行われるのです。
そのようなCPを規定しておくことで、売手・買手ともに、望まない条件下においてクロージングを強制されることもなく、また、後ほど出てくる「解除」と合わせることで、「条件が充足しないのであれば取引を実行することなく契約自体を解除する」という選択肢を持つことが可能になります。

CPは買手・売手それぞれについて規定されることになりますが(そうでないと、「売手に重大な問題が明らかになったけど、買手の実行条件が充足されたので取引を実行します!」なんて話になり兼ねない)、その代表的な項目としては以下の通りです。

表明及び保証が、契約締結日及びクロージング日において、(重要な点において)真実かつ正確である
誓約(Covenants)を履行・遵守している
許認可が取得されていたり、競争法上の手続きが完了している
MAC(Material Adverse Change)が発生していない

「表明及び保証(又は単に「表明保証」)」や「誓約(または義務)」については個別項目で詳細をカバーしますが、ざっと解説します。

「表明保証」は、「一定の事実が真実かつ正確です」と表明し、その内容を保証するものですが(例えば「決算書はちゃんと作成されていること」等)、「その表明保証が真実又は正確でなかったことが発覚したのに、取引を実行しないといけない」のだとすると、困ったことになってしまいます(左記の例だと、「実は不正会計がありました」等)。そこで、「表明保証が真実かつ正確であること」をCPにするわけです。
とは言っても、仮に「資料の表記が1円ずれていたことが発覚!」→「取引は中止だ!」ではさすがに「行き過ぎ」で、買手がwalk awayする権利が強力過ぎる、ということもあるので、売手としても、「重要な点において真実かつ正確」等の重要性に係る限定を付すことが多いです。こうすることで、「1円ずれていたって、重要な問題ではないよね」と主張することが可能になります。

ただ、たとえば「●●は、重要な点で真実かつ正確」と表明保証していたとして、「表明保証が重要な点で真実かつ正確」がCPとすると、「『●●は、重要な点で真実かつ正確』なことにつき、重要な点で真実かつ正確」と、と「どこまで重要なんじゃい!」と言いたくなってくる状況になってきます。「double materiality」という、二重に重要性の限定が付される問題です。
こうなると、当該表明保証は、重要性の限定が1つだけの場合よりもより厳格に重要性が問われることになる可能性も出てきてしまいます。こういったことを防ぐために、「ただし、表明保証で既に『重要な』等の文言がある場合は、その表明保証が(単に)真実かつ正確であることがCPとなる」等、書き方において工夫することも、場合によっては考えられます。

「誓約(義務)」については、まあ、そりゃあ、「義務として合意したことはやってもらわないと困るよね」ということに尽きます。こちらは表明保証とは異なり、「重要な点においては義務を履行できなかったけど、不十分なレベルであればできました!」ということが、互いに真面目に対応する限り十分に回避可能であること等を踏まえて、表明保証にはあった重要性の限定は付されないことも多いようです。

「許認可等」についても、まあ、そりゃあ、「許認可が下りていないけど取引しちゃいます!」というわけにはいかないので、常識的な対応かと思います。

「MAC」は直訳すれば「重大な悪影響」という意味ですが、これがCPに入ることによって、「重要な悪影響が発生していれば、取引は行わない」ということになります。
MACはCatch-all的な項目で、他項目では抜け落ちてしまう内容を拾う意味合いが強いものと思いますが、一方、厳密な定義は難しいため非常に抽象的な表現にならざるを得ません。
単純な「市況全体の下落」等は、「一般的普遍的事項であるため、MACに該当はしない」という判例は出ているようです。

「他」の内容としては、各種書類(現行取締役の辞任届やチェンジ・オブ・コントロール条項のある契約の、相手方からの同意書等)の提出、関連契約(親会社から一定期間、内部部門に係るサービスを得る契約等)の締結等が考えられます。
なお、「チェンジ・オブ・コントロール(COC: Change Of Control)」とは、株主が変化する場合に契約の相手方が契約を解除可能になるという、契約上の条項です。事業上の重要性によっては解除されると買収対象企業の事業が行き詰まることもあるため、相手方から株主変更に関して同意書を取得することをCPとする、ということになります(CPにするのは、事業上重要な契約に限定されることがほとんどかと思います。さすがに「1つ解除されたので取引は全体として中止!」では条件が厳しすぎます)。

CPもこんな所ですかね。
このような感じで、「CPが充足したならばクロージングを執り行う」ということになります。

~ここまで過去の記事~

ではではまた(補足するようなこと何もないですし…)。

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