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【オリジナル小説】人ガ夢ヲ見ルトイフ事

ごく普通の生活を送っていた古河悠太は、とある事件をきっかけに世界の理に巻き込まれて行く。
彼は安寧な生活に戻る事が出来るのだろうか。
少しの異世界転移と、少しの異能力を含むライトサスペンス。

序章

「世の中、知らなくていい事の方が多いのだよ」

男の言葉が薄っすらと脳内で繰り返され、心電図の規則的な音が耳に響く。
朦朧とした意識の中でゆっくり瞼を開くと、椅子に固定されている自分の手足が映った。

身体が重い。頭がぼんやりする。

「あれ…なんで俺…こんな事になってるんだ…」

俺は霧掛かった記憶の糸を手繰り寄せていった。


其の一:眠り姫

なにもやりたい事がなかった俺は、父親が立ち上げた淡水魚専門の熱帯魚店「アクアショップ ブルーネオン」を自然と継ぐ流れになった。
父が一番こだわったところらしくカフェと見間違うくらい無駄に洒落ている八畳程の狭い店内で日頃暇を持余しつつ、俺は一人音楽を聞きながら読書とコーヒーを楽しんでいる。

二四歳にして隠居のような生活をしているものだから裕福とはいかないが、希少な魚を取り扱う関係で古くからのファンも多く、その他水槽の出張設置やメンテナンスを行っているおかげで定期収入があるため、生活に困らない程度の収入は得られている。

当の父親はといえば、中古で手に入れたキャンピングカーで母親と2人日本中を行脚しながら本当の「隠居生活」を満喫中。

今日も平和だ。

と、思った時、入口の開閉を知らせる鈴の音が来客を知らせる。

「いらっしゃいませー……って、なんだルカ姉か。」

「なんだとはなによ。いつも暇を持て余してる悠くんに、折角いいお話持ってきてあげたのに。」

不貞腐れながらも微笑みかける女性。
ルカ姉こと藍澤ルカは、俺より1つ年上の女性で近所の喫茶店「カンパネラ」の娘。
彼女が“いい話”という時は決まっていい話ではない。
持ち前の親しみ易さと面倒見の良さ、そしてなにより完遂率の高さから、喫茶店を訪れる人達から大小様々な”頼まれ事”を持ちかけられ、素人のお手伝い程度とはいえ、それを安易に引き受けてしまう節がある為だ。

引き受けた依頼はこうして俺を含めて他にも数名、“探偵もどき”を抱えて対処しているらしい。

「どうせまた厄介事を持ってきたんだろ?」

「正解」

八重歯を覗かせつつ微笑む彼女に着席を促し、コーヒーを淹れる。

「本当よく気ぃ利くなぁ。高校生の時みたいに愛想よくしてたらモテそうやのに。」

私は惚れへんけど、などと微笑みながら言うところが相変わらずである。
とりあえず目線を逸らしながら要件を聞く事にした。

「ところで、どんな厄介事を持ってきたんだ?」

「そうそう。これなんやけどね」

そう言って取り出した一枚の写真には薄桃色の錠剤が写っていた。

「薬…だね」

「そう、薬。それもとびきり危ないやつ。」

タバコに火をつけひと吸いすると静かに話し始めた。

「最近老若男女問わず、これの被害にあってるの。警察が把握出来ているだけで34人。被害者達は、痩せる薬とか健康になるサプリとかいう名目の試供品やって言われて飲んだみたい。効果は人によるみたいやけど、一粒飲んでしばらくすると呼吸が乱れて、そのあとは死んだように眠りに落ちる。今警察が入手した薬から解毒剤の調合を急いでるけど、まだ完成には時間が掛かるのよ。」

そもそも解毒できるのかどうか、毒かどうかすらわからへんけど…と、いつも弱音を吐かないルカ姉が肩を落とす。

「警察が動いてるならなんとかなるだろうし、そんな気を落とすなって。しかし目的がわからんな。配ってるのだから金儲けでもなく、眠るだけだから依存性のあるものでもなさそうだし。テロにしては方法が地味過ぎる。」

「そうやねん。そこがわからんねん。」

タバコを突き出し、困り顔で続けた。

「薬を受け取った時、それを飲まへんかった人もいてな。まぁ写真やサンプルはその人達のものらしいけれど、その全員が同じ犯人像を供述してて…それが“ピエロ”…なんやって。」

「ピエロ?」

「そう。ピエロ。あのピエロ。道化師の格好をした陽気な男らしいねん。まぁ男ってのは体格からの判断なんやけどね。仮面してて喋らないらしいから。」

「そんな怪しいやつからサプリなんて渡されて飲むのかよ…危機感なさ過ぎるだろ…」

「それがね、なんか有名企業の名前が印字されたピルケースに入ってて、飲んでみた感想をメールで返信してほしいみたいな感じでもっともらしい情報を渡してるみたいなんよ。当然それも偽の宛先なんやけどね。まぁ、あたしもその辺はどうなのよって思うけれど」

と言いながらタバコの火を消す。

「で、本題やけど、悠くんにはそのピエロの居場所を探して欲しいねん。」

「奏輔さんからの依頼ってこったね?」

「正解」

ピンと人差し指を立ててウインクして見せた。

明石奏輔。
ルカ姉の少し歳上。
ルカ姉の従兄弟の警察官で、ルカ姉はこの奏輔さんを結構慕っている。

「いくら親族だからって、そんな込み入った情報流して大丈夫なのかあの人…絶対バレたらヤバイやつだろこんなの。」

「上手いことやってるから大丈夫って言うてたよ?」

上手いことって…。情報聞いたってことがバレて巻き添え食うのだけは御免蒙りたい。

奏輔さんは仕事で困るとルカ姉の情報網を使う事もあり、その際は今回のように機密情報でも関係なく伝えてくる。
これも奏輔さんなりの正義感なのだろうが、あの人は正義の名の下に手段を選ばないからな。
見た目はチャラいくせに。

「今、奏くんの事チャラいくせにって思ったやろ?」

唇を尖らせて目を細めるルカ姉。
相変わらず勘のいい人だよ。

はい、その通りです。思いましたとも。

ニヤッと八重歯を覗かせる。

「で、探すにしても手掛かりはないのか?」

「意識のある数少ない被害者の証言から、ピエロは“これから大通りで配るためにそこに向かっている途中だ”みたいな感じで、人気のない路地で接触してくるみたいやねん。それくらいかな?」

「少ないな!まぁでも路地にいるピエロを探して住処を突き止めたらいいってことはわかった。で、一番大切な話だが…」

「成功報酬は5万円。もし見つからなくても、いつものようにご飯くらいご馳走するわ。」

俺の質問を遮るように話を続け、微笑んだ。
依頼に対して失敗したことはそんなにないのになと思いつつ依頼を承諾し、しばし談笑していると入口の開閉を知らせる鈴の音が来客を告げた。

「いらっしゃいませー、って今度はあおいか。うちの店は客が来ないな本当に…おかえり。」

古河あおい。高校2年生になる、年の離れた俺の妹である。

「ただい…ま…」

その言葉とともに倒れ込み、意識を失った。

「!!」


救急車で搬送され精密検査を受けた結果、ただ深く眠っているだけで異常はなく原因は不明。
まさにピエロ被害者のそれであり、あおいの持ち物から例のピルケースも発見された。

俺の中で怒りが込み上げてくる。
依頼を受けた時は対岸の火事だったが、まさに我が家に燃え移った瞬間だった。

「悠くん。ピエロ見つけても一人でどうにかしようとしんときよ。」

いつになく強い口調のルカ姉の言葉も今は聞く気にならなかった。

「その保証はできない。」

そう言って俺は足早に病院を後にした。

其の二: 遭遇

スマホを取り出し、すぐさま奏輔さんに連絡を取った。
素人とはいえ、依頼主であるルカ姉に断りもなく他者に情報を共有する事はしてこなかったが、今回は妹が被害に遭っているのだ。
例外措置である。
それに奏輔さんからの依頼なのだから気にすることもあるまい。

「はーい、明石でーっす。どしたー?」

相変わらずチャラい。
電話だけだと警察官だとは誰も思うまい。

「こんにちは。古河です。さっきルカ姉から聞きました。ピエロの件です。」

「ははは、やっぱそっちが悠太んとこ行ったか。そんな気がしてたよ。」

どうやらルカ姉は他にも奏輔さんから依頼を受けているらしかったが、今はそんな事より妹の事で頭がいっぱいだ。
ルカ姉から聞いた内容とあおいの件を伝え、他に何か情報はないか確認してみた。

「いやー、今んとこそれだけだねー。変化点としては、あおいちゃんで被害者が35人目ということくらいか。表沙汰になってないのを想定すると全部で50人くらいじゃないかって話にはなってるよ。」

チャラいなりにも神妙な口調だった。

「まぁとにかくだ。そんなに熱くなってちゃ閃くもんも閃かんぞ?助けたくて熱くなってんのに、そのせいで助けられなきゃ本末転倒っしょ。ある程度緩くいくのも大事よ。」

この人には不思議な雰囲気があるといつも思う。
話してると妙に落ち着くのだ。
今もそんな感じで、少しずつ冷静さを取り戻し始めている自分に気付く。

「なんか情報入ったらすぐ連絡すっから、それまで落ち着いて探しな。もし警察に怪しまれたら俺に頼まれたって言えばなんとかするから。んで、犯人見つけたらすぐ連絡してこいよ?一人でどうこうしようとしないように。」

「そう…ですね。おかげで少し落ち着きました。ありがとうございます。」

そう言って電話を切り、すぐさま被害があった場所からしらみ潰しに捜索を開始した。


数時間走り回っていた為、疲労で身体が言う事を聞かなくなってきたので通りかかったコンビニの前で少し休む事に。

桜も散り始め、春から夏へと移り変わる季節とはいえ、やはり夜は少し冷える。
タバコに火をつけ、ココアを飲みながら夜空を見上げた。
警察だって見つけられないやつを素人の俺なんかが、やはり見つけられるわけもないのだろうか…。

紫煙を燻らせながら、弱気な思考が巡り出した時、突然視界に月まで届きそうな程の火柱が映り込んだ。
闇夜を橙色に染め上げたその炎は周囲の影を全て奪って昼間の如く照らし出し、瞬く間に消失する。
道を挟んだ向かいにある家のさらに奥辺りからだった。

「…火事…?」

にしては瞬間的過ぎる。
考える前に俺の脚は自然と走り出していた。
ピエロとは無関係だろうけれど、この街で起こっている事件だ。
何かしらヒントになるかもしれない。
とにかく、誰も被害に遭っていない事を祈りつつ、道を渡って家を回り込み、現場辺りに近付いた。

辺りには焼け焦げた異様な匂いが充満しており、その一角。
塀の横辺りから焼け跡のような白煙が上がっていたが、炎は既に消えていた。
周囲には誰も居ない。
ピエロとはやはり無関係のようだが、奏輔さんには伝えておこうとスマホを取り出し、コールしながら焼け跡に近付いた。

「はーい、明石でーっす。」

「すいません。三丁目のコンビニの近くなんですけど、突然火柱が上がったからちょっと調べてー」

そこまで言って言葉を失った。
間近に迫った焼け跡のそれは人間のようだった。
人形かもしれないが、どこか生々しい。
というより動いているのだ。
もう助けを請うどころか、指先一つ動かせない程に炭化した人型のそれは、無意識の生体反応で小刻みに痙攣を繰り返しているようだった。

「ん?どしたー?」

呆然としながら言葉を紡いだ。

「人間が…炭になってます…人形かも…しれませんが…」

「マジか!近くに居るからそこで待ってろ!誰も近付けるな!それは生きてないんだな?!」

「これが人間なのであれば…恐らく生きてないと思います…痙攣のような動きはしていますが…」

「わかった!とにかく待ってろ!落ち着いて空でも眺めてろよ!」

勢いよく電話を切られた。
ダメだ。
頭が回らない。
これがもし焼死体だったらなんて考えるだけで怖くて膝が震える。

いや、間違いなく人だ。
ついさっきまで人だった。
痙攣する人形なんてあるわけもない。
混乱したまま立ち尽くしている事数分。
サイレンが鳴り響き、警官達が駆け寄ってきた。

「悠太!大丈夫か!?」

「ちょっとダメージでかい…ですね…」

そこに座ってろ、と言いながら、奏輔さんの上司と思しきもう一人の警官と一緒に人型の焼け跡に駆け寄る。
俺は人が来た事で安心したのか、全身の力が抜けたように地面にへたり込んだ。
警官達は検分しながら、慌ただしく何処かに連絡を取り、しばらくすると複数のサイレンが近付いてきた。
集まってくる警官達に検分していた上司と思しき人が報告を行なっている間、奏輔さんが駆け寄って来てそっと耳打ちしてきた。

「ありゃ人だな。間違いなく。焼死体だ。」

背筋がゾッとした。人は焼けるとあんな状態になるのかと。
あんな臭いを放つのかと。
それを目の当たりにしたショックが大き過ぎた。
言葉を失っている俺に説明を続ける。

「実はな。この事件、これで被害者は3人目なんだよ。同じような焼死体が二人見つかってる。この事件はまだオープンになってなくて、署内では“人体発火事件”と呼ばれててね。こっちもルカに依頼はしてたんだ。何か手掛かりを探って欲しいとね。」

あぁ、もう一つの依頼ってこれの事だったのか。

「なるほど。この状況を目の当たりにした後だからですけど、こっちの依頼じゃなくてよかったですよ本当に…。こんなの何回も見たら正気じゃいられなくなる…。」

「まぁ普通そうだわな。そんなことをやってのける犯人を俺は許さんよ。」

語気が強くなった。

「して悠太。なんか見てないか?火柱だけ?思い出せる範囲でいい。なんか気になった事はないか?」

俺は首を横に振った。

「すいません。何も。ここに来た時にはもうこの状態だったんで…すいません…」

気にすんな。と言いながら上司のもとへと駆け寄り、すぐに戻って来た。

「今日はもう帰れ。上には俺から話しておく。第一発見者だし、火柱という新たな手掛かりまでくれたんだ。だから、また明日署に来てくれ。詳しく聞きたい。それと、その時そういう決まりだから指紋を取らせてもらうけど気を悪くしないでよ?今日は送ってかなくていいか?」

大丈夫です、と告げて俺はその場を後にした。

其の三:暁

翌朝、ルカ姉からのメールで目を覚ました。

『依頼していた仕事だけど、警察で手がかりをつかんだらしいから、ごめんやけどキャンセルで。今度ご飯ご馳走するね。あと、体調悪くてしばらく寝込んでるので、ご飯は元気になったらで』

という顔文字付きの内容だった。
体調崩すなんてことはほとんどなかったので、違和感を覚えながら『大丈夫か?』という旨の返信はしたものの、既読になることはない。
ピエロ事件も解決に向かっているならキャンセルを受け入れるしかなかったし、あおいの治療も進展するだろうから正直ホッとしている自分がいる。
とにかく、今から警察に行かないと行けないので、終わったらカンパネラに顔を出してお母さんに聞いてみようと思いながらスマホを閉じた。

予定時刻。
奏輔さんと共に警察へ出向き、一通りの事情聴取と指紋採取などを終えた後、近くの公園で少し話すことになった。

タバコを燻らしながら、神妙な口調で、今回の人体発火事件の被害者はルカ姉の雇った探偵だったと知らされた。
警察はルカ姉と被害者の繋がりを知らないが、奏輔さんは知っていたのでルカ姉に連絡したらしい。

「今ルカは仕事休んでるよ。巻き込んで死なせた事は初めてだからね。かなりやられてる。今後ヤバそうな事件は受けないし、今回お前に依頼した仕事もキャンセルするってさ。そりゃそうだわね。こればっかりは俺が悪かった…。あいつに申し訳なくてさ…。なんか聞いてるか?」

「そういう事ですか…」

俺は今朝のメールの件を伝えた。
奏輔さんは一言。あいつらしいな、と言って目を伏せた。

少しの沈黙の後、奏輔さんはタバコを消し、ふぅーっと息を吐いて呼吸を整える。

「とにかく、キャンセルって事だから、俺からもこの依頼は正式に取り下げるよ。辛い思いさせてごめんな。ルカもしばらくは大人しくしてるだろうから、お前も普通に生活しててよ。んでたまにはルカんとこに顔出してあげてくれたら嬉しい。後のことは俺が何とかするから。」

いつもの笑顔でそう告げた彼の目は笑っていなかった。
ルカ姉を巻き込んだ自分と、その軽率な行動に後悔しているのだろう。
しかし、それは俺も同じ気持ちだった。
奏輔さんやルカ姉の悲しむ顔なんて見たくない。
だからこそキャンセルなんて選択肢はあり得なかった。

「ルカ姉からの依頼は、指示どおりキャンセルします。ですが、ここから先は俺の意思で、ピエロの件と人体発火の件を継続します。」

「そう言うだろうと思ったよ。だからこそ今俺は真実を話したんだ。ここまで知ったお前はルカの気持ちをわかってやれるはずだ。誰よりも。お前はお前のできる事をやればいい。とにかく今回は俺が全面的に悪かった。巻き込んですまない。この通りだ。だから今回は引いてくれ。」

「気持ちはすげぇわかります。でもすいません。いくら奏輔さんの頼みでも聞けません。俺も奏輔さんと同じ気持ちなんで。それに、奏輔さんやルカ姉を悲しませた犯人を俺は許せない。そして何より、妹が被害に遭ってる。俺は必ずこの2件の犯人を見つけ出します。」

深々と頭を下げる奏輔さんに迷わず言い放った俺の胸ぐらを勢いよく掴み、これまで見た事もない顔で睨みつけて怒鳴り上げた。

「被害者が出てんだよ!殺されてんだぞ!?お前に何が出来る!?これでもしお前に何かあってみろ!俺達がさらに苦しむ事なんか考えなくても分かるだろうが!」

肩で息をしながら睨み続ける奏輔さんから俺は目を逸らさない。

「分かってます。それも分かった上で言ってます。基本的には警察に任せます。任せますから協力させてください。1人でも火柱を見つけた警官が居ますか?そこまで迫った人が居ますか?居ないんですよね?俺にはそれができた。その幸運に賭けてみたっていいでしょう。」

締め付けられていた襟元が緩んだ。

「そしてそれが事件解決に一役かうなら、何よりも望むべき結果になると思いませんか?」

奏輔さんの手が離れる。

「約束します。必ず一人で突っ走りませんから。何か掴んだら必ず連絡しますから、俺がやる事に目を瞑ってください。俺は誰の指図で動くわけでもない。自分の意志で動きます。だからどうか、お願いします。」

「分かったよ。分かった。俺の負けだ。目を瞑る。その代わり本当に無茶するなよ。約束忘れんなよ。そして俺やルカはお前を大切に思ってる事もな。」

「はい!ありがとうございます!」

頭を下げる俺を他所に、奏輔さんはタバコに火を付けて空を仰いだ。

「はぁー。ひっさびさに怒鳴ったわー。勘弁してよねーもぅ。俺そういうキャラじゃないからさー。」

いつものチャラい口調で紫煙を吹かす。

「あー、それから。この事はルカに内緒な。」

「もちろん。言うわけないっすよ。」

俺達はそこで別れた。

其の四:葛藤

奏輔さんと別れてから二日間、街中を探し回ったが成果は無かった。
大見栄を張ったものの、人体発火については火柱を見ただけで犯人は見ておらず、ピエロに至っては全く手掛かりはなし。
この状態からの捜索なのだから、完全に運任せの神頼み以外なにものでもなかった。
とはいえ、一箇所だけ心当たりがあれど近寄っていない場所が残っている。
それは俺が人体発火事件の第一発見者となった場所。
本来なら真っ先に調べるべき場所であったが、やはり怖くて意識的にその周辺は避けていた。
本当に心が弱い。
俺は絶対ヒーローになれないタイプである。
しかし今回ばかりはそうも言っていられないが…

「あーだめだ!」

気持ちを整理しよう。
俺はルカ姉の喫茶店“カンパネラ”に足を向ける。
携帯を見たが、ルカ姉に送ったメールは相変わらず既読にならないままだった。


カランカランー


上部が半円形になった、木製のドアに吊り下げられた鐘が入店を知らせる。
朝日が差し込んでいるにも関わらず、顔を近づけないと店内が見えないくらい濃い茶色の窓ガラスのせいで独特の雰囲気を醸し出している、ボックス席3席、カウンター5席の昔ながらの喫茶店だ。

「いらっしゃい。あら、悠くん。久しぶりやね。」

60歳を少し過ぎた、ルカ姉の母が一人で店番をしていた。
年の割には幼い顔立ちと気立ての良さはルカ姉とよく似ている。

「こんにちは。ご無沙汰です。ルカ姉、体調はどうですか?」

カウンターに腰掛けながら問い掛けた俺に、予測していなかった方向から解答が来た。

「ルカはまだお休みだってさー」

ボックス席からひょっこり顔を出したのは奏輔さんの彼女、村神エミルさんだった。
彼女はルカ姉と同い年のフリーウェブデザイナーだ。
細身で小柄、紫色のセルフレームメガネでアシンメトリーの赤茶色のボブというなかなか目を引く容姿であるが、ドイツと日本のハーフで、幼少期をアメリカで過ごしていたこともあって、その辺の自己表現力はずば抜けている。
奏輔さんと交際をスタートしたと同時に家に転がり込んでから同棲を始めて今に至っている自由人だが、頭の回転が早くて仕事ができるらしく、結構稼ぎが良くて自分の収入を上回ることがあると奏輔さんが嘆いていた。
よく気分転換にカンパネラで仕事をしている関係でルカ姉とは仲が良い。
そんな彼女が顔を覗かせて、ハーイ、と手を挙げて挨拶して来た。

「お。エミルさん。こんにちは。」

「コンニチハー」

と言いつつまたボックス席に引っ込んでいった。
お母さんは申し訳なさそうに、そうなのよと溜息を吐いた。

「もう二日になるかなぁ。部屋から出てこぅへんのよねぇ。悠くんなら開けてくれるかも知れんけど、どうする?声掛ける?」

俺は首を横に振った。

「いや、やめときます。あのルカ姉がその状態なんですから、本当に誰にも会いたく無いんでしょうし。」

そっか…と少し残念そうにしながら、手際よく作ったアイスココアをカウンターに置いた。
俺はいつも、季節に関係なくこれなのだ。
カンパネラ特製の山盛りホイップクリームが御鎮座在しますアイスココア。
コーヒーが飲めないからと言ってココアに逃げているわけではない。
断じてない。
コーヒーよりココアの方が美味しく飲めるというだけ。
そしてなにより、この店のココアもさる事ながら、甘過ぎないホイップクリームが絶品。
この店のせいで俺はホイップクリームが好きなったと言っても過言では無い。
重ねて言おう。
美味いのだ。
俺はそのままストローを口に運ぶ。
ココアの甘くて冷たい感覚をミルキーに変化させながらホイップクリームが喉を通過していった。

「やっぱ…美味いですね…」

張り詰めていた心が解けていく気がすると同時に、これが最後のココアになるかもしれないという思考が巡り、目頭が熱くなるのを感じた。

「えぇ!?泣く程美味しい?あ、ありがとう。やけど、どないしたん?なんかあったん?」

「いえ、大丈夫です。すいません。ちょっと花粉症なもんで」

無理のある言い訳である。
我ながら嘘が下手だ。

「それならええんやけど…なんとかルカ起こしとくから、またおいで?ルカになら話せる事もあるやろうし。」

「心配掛けてすいません。本当大丈夫ですから。また元気になったら来ます。ルカ姉によろしく言っておいてください。」

「やっぱ元気無いねやん!」

「やっぱ嘘付けないっすね」

俺は精一杯の笑顔を作ってココアを飲み干し、席を立った。

「また来ます」

何か言おうとしたお母さんの顔を見ずに、そのままお代を置いて退店した。
腹は決まった。
俺は意を決して三丁目へと足を延ばす。


正午前。


近付くにつれて緊張が高まる。
あの時の情景が生々しく蘇り、形容し難い臭いが鼻をつく気がした。
身体が震える。
だが、俺には迷いがなかった。
人体発火事件の犯人の手掛かりを掴んでルカ姉や奏輔さんの不安を晴らし、またあの笑顔を取り戻す。
そして早くピエロ事件の捜査に着手して、妹を救うのだ。
とにかく手掛かりは全て当たると決めた。
どちらの事件も俺にとっては解決すべき最重要事項なのだから。

そんな事を考えながら、目的地へ到着した。
次の角を曲がれば、あの禍々しい事件現場だ。
息を整える。
当然ながらあの時の臭いはもう無い。
意を決して角を曲がる。
まだ周囲はテープが貼られ、近付けないようになっていた。
地面と壁に焼け焦げた跡が残っており、献花が置かれていた。
辺りには誰も居ない。
大きく深呼吸をした。

「よし。」

辺りを捜索し始めたその時、数十メートル先の十字路を人影が通り過ぎた。
俺は目を疑った。
全身白いスーツ。
ハットを被り、横顔だがピエロのような面をしている。
遠過ぎて体型までは分からないが、奏輔さんから聞いていたピエロのようだった。

「待て!」

震える膝を奮い立たせ、全力で後を追う。
消えかけの後ろ姿を追うのがやっとだったが、ピエロは角を次々と曲がりながら進む。
なんて早さだ。
何度曲がっただろう。
気付けば隣町まで移動していた。
そして、曲がり角を曲がったところで見失ってしまった。
空き地の前。
他に路地も隠れる場所もない。
来た道は一本道なので戻る事もできない。
空き地の隣に洋風の建物が建っているが、そこに入ったとしても早すぎる。
とりあえず奏輔さんに連絡しようとスマホを取り出しながら辺りを見渡していると不意に後ろで気配がした。
その瞬間、身体中に衝撃が走った。

消え行く意識の中で見上げたそこには、逆光でもわかるくらいに細身の人間が立っていた。

「世の中、知らなくていい事の方が多いのだよ」

そのまま視界は暗転した。

其の五:世界の理

そうか。
俺は捕まったんだ。
しかし一体どれくらいの間、気を失っていたのだろうか。
今は一体何時なんだろう。
まだ朦朧としていてハッキリとしないが、周りで話す男達の声が聞こえてきた。

「…う通りだったな。こんなにすんなり行くとか笑えるよ。」

「こーらこらこら。いつ起きるかわからん客人を前にそういう事をペラペラ喋るもんじゃぁないよ。」

そこでハッと我に返り、勢いよく立ち上がろうとしたが、手脚と椅子を縛り付けている縄がそれを許さなかった。

「おや。お目覚めかい?人の後をつけるなんて趣味の悪い事をするもんじゃぁないよ。」

ピエロの面を被り、ダラっと着崩したスーツを身に纏った細身で長身の男が話しかけてきた。
面のせいで年齢までは分からないが、俺よりは年上に見える。
隣にいる中背小太りの男はタバコをふかしていた。
こいつも年上のようだ。
よく見ると周りには見慣れない実験器具がズラリと並ぶ。
俺は咄嗟に言葉が出なかった。

「まぁそう怖い顔しなさんなって。別にとって食おうってわけじゃぁないんだから。」

「人を誘拐しといてよくそんな事が言えるな。あんたは何者だ?何故俺を誘拐した?あんたが配った薬の解毒剤は何処だ!?人を燃やしたのもあんただったのか!?」

恐怖と緊張で手足が震える中、上擦りそうな声をなんとか絞り出してはみたが、矢継ぎ早に質問するのがやっとだった。

「あははは、そんないっぺんに聞かれても答えられんよ。整理しながら一つずつ答えてあげよう。」

スッと立ち上がってこちらに居直り、まず一つ、とピエロは人差し指を立てて話を続けた。

「私が何者か。趣味で“とある研究”をしている研究者で、名は獅々戸、と申します。どうぞお見知り置きを。」

紳士的でオーバーに一礼し、さっと直り話を続ける。

「で、こっちが伊能。私の研究のパートナーだね。私には無い力を持つ彼にはいろいろと助けて貰ってるのさね。」

伊能は俺の方を睨みながら、咥えたタバコに火を付けた。
ハッキリ見えなかったが、指先から炎を出したように見えた。

「こらこら。見せびらかすもんじゃぁないよ。超能力を持ってるんだ彼は。」

「今指先から火を出したように見えたが…それの事か…?」

勘違いではなかったらしい。
超能力?
なんだこのファンタジックな展開は。
ますます話がわからなくなってきた。
というか置かれた状況と目の前で展開される非日常に、逆に俺は少しずつ落ち着きを取り戻し始めている。
人間、ぶっ飛び過ぎる状況下では逆に冷静になれるのかもしれない。
ランナーズハイのようなものだろうか。
知らないけれど。

「ほーら興味持っちゃったよ。」

獅々戸は両掌を上向きにして肩を竦め、首を傾けた。
リアクションの大きな男だ。

「いいじゃねぇか。この力を見せる機会なんてそうそうねぇんだからよ。それに、また実験が失敗したら焼き払うんだからどうでもいいだろうが。」

「って事はお前が人体発火事件の犯人なのか!?」

超能力について、俺の脳は否定する材料を持ち合わせていなかった。

「人体発火事件?そう呼ばれてるのか?全くニュースにならねぇからつまらんと思ってたが、いつの間にかニュースになってたんだな。」

伊能がニヤっと笑った。確定だ。
特殊能力云々はさて置き、伊能が人体発火事件の、獅々戸がピエロ事件の犯人で間違いない。
しかしこの状況で、どうやって奏輔さんに知らせるか…。
俺が失踪した事をきっかけに、捜索してくれている事に賭けるしか無さそうだ。
気付いてくれれば良いが…とにかく少しでも時間を稼ごう。

「火が出せるのか?」

「そうだ。見せてやろう。」

伊能がタバコを消して立ち上がる。

「建物ごと燃やさないでよー?君は後先考えないタイプなんだから。」

何処と無く怪訝そうに肩を竦める獅々戸。

「んな事ぁ分かってるよ。建物燃やして何の得があるってんだ。」

獅々戸の憎まれ口には慣れていると言わんばかりに軽く遇らうそのやり取りに、彼等はそれなりの期間行動を共にしているようだった。
そんな長期的な計画なのだろうか。
伊能は計画というものには凡そ無関係な粗雑さを滲み出している。
対して獅々戸は仮面のせいもあって何を考えているかわからないが、頭の回転は速そうな気がする。
それに、曲がりなりにも科学者名乗り、実際に薬を作っているのだからキレモノなのだろう。

「よーく見とけ。」

俺の前で自慢げに鼻を鳴らした。
胸の前で掌を合わせ、そのまま両側に開くと掌の間にあの時見た火柱と同じ色の炎が浮かび上がる。
俺は目を疑った。
何もない所から炎を出し、それに触れているにも関わらず、熱がる様子もなかったのだ。
言葉にならない。

「ふんっ。目を丸くするだけかよ。リアクションの薄いやつだ。」

そう言って炎を消した。
まるで手品のようだった。

「まぁもっと本気出せば、人間なんて軽々と炭にできらぁな。お前の言う人体発火事件ってやつの犯人は恐らく俺だろうよ。」

「なんで燃やしたんだよ。さっき実験失敗がどうとか言ってたけど、獅々戸の薬が失敗作だったらそれを飲んだ奴を焼くって事か?」

「必ずしもそうってわけじゃぁないんだよね。こちらの秘密に近付き過ぎた方や、秘密を知ってしまった方は焼却させてもらってるけれども。君のようにね。」

クククっ、と、獅々戸は笑いながら続けた。

「そういう方々には、君と同じく我が家に御招待して、サプリをお試し頂くのだけれど、中にはお連れする事も出来ないくらい暴れる方も居てねぇ。そういう乱暴な方は、残念だけどその場で炭になって頂いているのさ。」

軽いため息を吐いた。
そうか。
だからルカ姉の雇った探偵が焼かれたんだ。
俺もそうなるって事だな。
このままでは…何とかしないと…。

「で、これが二つ目の回答だね。何故君を殺さずにスタンガンで眠らせてまで誘拐したか。それはついさっき完成したばかりのサプリを試して頂こうと思ったから、だね。実に運がいいよ君は。」

獅々戸は見覚えのあるパッケージの錠剤をジャケットのポケットからサッと取り出し、振って見せた。

「なっ!?そんなもの飲むわけないだろう!!」

そのリアクションを見て、獅々戸は身体をくの字に曲げて笑い出した。

「何がおかしい!」

「ははは、いやいや、すまない。だってさぁ。君はもう飲んだんだもの。」

血の気が引く気がした。
気を失っている間に投与されていたらしい。

「嘘…だろ…?」

「嘘なもんか。飲んでからもう二時間になるかなぁ。どうだい?身体に変化はあるかい?」

緊張感といつもと違う状況に見舞われ過ぎていて、体調の変化を感じる余裕なんて無いに等しかった。

「まだのようだねぇ。じゃぁ暇潰しに何の研究をしているか、教えてあげようか。」

質問したのは俺なのだが、本当によく喋る奴だ。
生きる事を楽しんでいるというか、喜怒哀楽の怒哀が欠如しているとさえ思えるくらいポジティブに見える。

「君は悪夢を見た事があるかい?」

「悪夢?」

「そう、悪夢だ。悪い夢を見て目覚めた時、やたらと体力が奪われていてグッタリしている事があるだろう?それが何故なのか、気になった事はないかい?」

言っている事がよく分からない。
確かにそういう事はあるけれど、それと今回の件との関連性が全く理解できなかった。

「あのサプリは安眠を提供してくれるものなのか?だとしたら既に大成功だぞ。お前の被害者は皆死んだように眠ってる。」

獅々戸は手を叩いて笑いながら

「そう聞こえて当然だ。しかし残念、そうじゃぁない。」

チッチッチッと人差し指を振りながら続けた。

「この世界は一つじゃない。今こうして君と話しているこの世界とは別に、もう一つあってね。それは“虚(うつろ)”と呼ばれる夢の世界さ。」

獅々戸は身を翻して椅子に腰掛ける。

「夢、すなわち人間が寝ている時や意識を失っている時に存在する世界。今君が眠ると虚の君が目覚め、虚の君が意識を失うとこちらの君が目を覚ます、というように、常に表裏一体。そして今こうして現世の君が虚を覚えていないように、虚での記憶も虚の中でのみ存在する。これがどうやら世界の理らしい。」

「待て待て待て待て。じゃぁなんで今のお前は、その虚ってやつの存在を知ってるんだよ。記憶は共有されないんだろう?辻褄が合わないじゃないか!それにあの薬や超能力についても何の説明になってないぞ!」

仮面の上からでも分かる嘲笑を俺に浴びせる。

「まぁそう熱くなりなさんなよ。まだ説明の途中なんだからさぁ。人の話は最後まで聞くもんだよ。そう。続けよう。虚の中で死ぬ程の事態が起こった場合、それは悪夢となって現実へ還元され、あの目覚めの悪さを引き起こす。かすかに覚えている夢はあるだろう?高いところから落ちる、とかね。そんな体験した事もない非現実を何故夢の自分が体験しているのか不思議だったんだが、虚の存在を知って納得したよ。しかしながら、殆どの人間は虚の事を覚えてないし、君と同じくその存在すら知らない。普通はね?しかし中には特別なやつもいるのだよ。彼のようにね。」

指をさされた伊能がニヤリとした笑みを浮かべる。

「能力に制限はいろいろあれど、彼のように虚と現世の記憶を共有できる人間は、虚でしか使えないはずの特殊能力の一部を現世でも発現できる。こういう人間を現世では“超能力者”と呼んでいるが、我々は“覚醒者”(アウェーカー)と呼んでいる。単に超能力者と呼ぶには忍びないからねぇ。とかく虚ではこういう能力者ばかりらしいよ。虚の私も変わった能力を持っているらしいと伊能に聞いているが、何の能力なのかはまだ知らせてもらっていないんだ。楽しみはとっておかないとねぇ。」

身をよじってみせた。本当にオーバーリアクションな奴だ。

「しかし、だ。それを夢の世界に閉じ込めておくには実に惜しい。勿体無い。この能力を自由に現世で発動できたとしたら、それはどんなに素晴らしい事か、君にだって理解できるだろう?!」

椅子から立ち上がり、大きく両手を広げて熱弁を振るっていたが、スッと正気に戻ったかのように居住まいを正し、向き直った。

「私はそれを実現する為の研究をしている。そしてそれを実現するのがこのサプリなのさ。お判り頂けたかな?」

「まさに狂気だな。伊能が言う事を真に受けて研究を続け、無駄に被害者を増やしている。もし伊能が嘘を言っていたらどうす…」

「私だって馬鹿じゃぁないんだよ!」

俺の話を遮って獅々戸が続ける。

「もう一人、居るんだよね。覚醒者(アウェーカー)が。私の周りには二人居るんだ。そっちの方が信用に足る情報をくれるわけなんだけど。」

「おいおい酷ぇ言いようだな。汚ぇ仕事ばっか押しつけられてるのは俺なのによ。」

伊能があからさまに不機嫌になる。

「まぁまぁ。」

子供をなだめるようなポーズを伊能に向けた。
分からない。
分からないけれど、本当に実在はしているのだろうか。
そんな世界が。
気になるが、そんなマッドで非現実な世界はさて置いて…どうやってこれを奏輔さんに知らせるかだ。
ここまで時間を稼いでみたが、助けが来る様子は無さそうだから自分でどうにかするしか無さそう…だ…。
ん?
急にどうした…息苦しい…呼吸が乱れる…

「はぁはぁ…」

俺の変化を獅々戸は見逃さなかった。

「お。来ましたね来ましたね。効いて来ましたねぇ。どうどう?どんな感じ??」

もう喋る余裕は無かった。
息苦しい。
身体が熱い。
鼓動が乱れている。
視界がボヤける。
汗が吹き出る。
ヤバイな。
死ぬよなコレ…。
繋がれた心電図の音が激しく乱れている。
じっとしていられない。
俺の身体は激しく、もがき続ける。

「こんなに暴れちゃ椅子壊れちまうぜ。また失敗したんじゃねぇのか?」

「まーだわかんないでしょー?!さぁさぁ覚醒しろぉ!」

興奮を全身で表している獅々戸を蔑んだ目で伊能が見つめる。

「相変わらずマッドな奴だ。」

そんなやり取りはなんとなく聞こえていたが、もう意識が薄らいできている。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しい。

「うあ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

心電図の音がリズムを失い、視界は暗転した。

其の六: 虚にて

「んんん…」

酷く悪い夢を見ていたような気分だ。
まだぼんやりした視界に朝日が差し込んでいた。
時間は…6時か…。
もう一眠りするかな…。
そう思った瞬間、突如自分の鼓動が大きく響き渡り、脳に何かが流れ込んでくるような感覚に襲われた。
知らない事を強制的に詰め込まれていく感じ。
知らない、ではないのか。
知っていたが忘れていたような感じ。
記憶?情報?何かは分からないがとにかく脳が熱い…。
俺は頭を抱えながらベッドの上をのたうち回る。

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

情報の流入が数分間続き、ようやく治り始めた。
全身から汗が吹き出していた。

「はぁ…はぁ…なんだ…今のは…」

自分の鼓動がまだ大きく響いていた。

「虚…え?」

さっきまで知らなかった事を知っていた。
ここが虚で、自分には超能力があり、さっき現世で何が起こったかも。

「これが覚醒者(アウェーカー)ってやつなのか…」

流れ込んできた情報は、現世での自分の記憶だったようだ。

「そうだ。寝てる場合じゃない!」

急がなければ。
現世の俺は恐らく瀕死、いやもう死ぬ寸前な筈だ。
心電図がリズムを失ったところまではなんとなく聞こえていた気がする。
そこで意識を失って虚に堕ちたという事はきっとそういう事だろう。
ここに俺がいるという事はまだ命はあるようだが、虚で目覚めてから今まで数分は経過している。
少しずつ、虚から覚める前兆である頭痛がし始めている事から鑑みて猶予がない事は明白だった。
現世と虚の関係について、俺はまだ知らない事が多過ぎるが、なんにせよ俺に今出来る事は、二つの事件の犯人、獅々戸の居場所と目的を伝える事だけだ。
俺の知る中でそれを現世に伝える事が出来る可能性が一番高い人物はー

俺は支度もそこそこに、家を飛び出した。


カランカランー


「いらっしゃ…あら悠くん、こんな早い時間に珍しい。おはよう。」

息を切らし、辿り着いた場所。
喫茶『カンパネラ』。
モーニング客も多いこの店は朝6時半から開店しているが、まだ開店してすぐだった為か先客は居らず、店内には俺とルカ姉だけだった。
虚と現世は、中には丸っ切り異なる部分もあるようだが街等の基本構造は同じようなものだ。
俺がルカ姉を頼った理由。
それは彼女の人脈と情報網を持って覚醒者(アウェーカー)を探し出し、獅々戸の情報を奏輔さんに伝達してもらう事。
そしてー

「おはようルカ姉!すまん!俺には時間がない!今すぐ俺の心を全て見てくれ!細かい事は見れば分かる!頼む!」

そう。
虚におけるルカ姉の能力は、相手の心を読む事。
これで全てを伝えられる。
俺が話の途中で息絶えるなんて事がないのだ。
なにせ、口に出さなくても全てを見通せるのだから。

「え?何々?うん、わかった。」

ルカ姉は俺をじっと見つめた。
俺は全ての情報を心の中で思い返した。
その間も頭痛は酷さを増している。
もう立っている事もやっとの状態だった。

「…なんて事…。悠くん…」

全てを読み終えたのか、目を潤ませ、口に手を当ててルカ姉は駆け寄って来た。

「はぁ…はぁ…そういう事だから…最後まで頼ってばっかでごめん…よろ…し…く……」

もう限界だった。
最後まで言えたのか、声になっていたのかも分からない。
駆け寄って来たルカ姉に倒れ込むように俺は意識を失った。

クソ。
なんて人生だ。
さして生きる事を楽しんでいたわけでもないし、むしろ死ぬなら死ぬでいいと思っていたタイプの人間だったはずなのに、いざ死ぬとなるとなんとも名残惜しいもんだな。
もっと後悔ないように生きときゃよかった。
だとしたらどうすべきだったのだろうか。
いや。
もういいか。
考えもまとまらない。
俺はここまでだ。
やるべき事はやった。
もういいだろう。
最後くらい、自分で自分を褒めてもバチは当たらないと思いたいものだ。

其の七:覚醒

リズムを失った心電図の音が響く室内。

「ほーらみろ。失敗だよ。しかも酷くなってんじゃん。死んじまってるし。」

タバコに火を付け、煙を獅々戸に向かって吹き掛ける。

「んー…これまでよりかなりキツめに作ったのがマズかったのか…イケると思ったんだがなぁ…」

「ある意味、逝けてたじゃねぇか。」

「うるさいよまったく!さっさと燃やして来いってぇの!」

「へいへーい」

伊能が、椅子にうなだれ死体と化した俺に向かって歩き始めた時

バチッ

「ん?」

バチバチッ

「お…おい…こいつなんかバチバチしてんぞ?電気?」

心電図が不規則なリズムを刻み出す。

「おぉ!!来てるね来てるねぇ!完成してたのかぁ!!世界で初めての人工覚醒者(アウェーカー)の誕生だよこれはぁ!!」

その時、俺の身体から眩い光と共に一気に電流が解放され、息を吹き返した。

「ガハッ!んんぁあぁぁぁぁぁ!!」

さらに強力な電流を放ち、周囲の機器や金属に次々感電してショートしながら燃え上がる。
至る所で爆発が起こり、部屋中、いや建物中が瞬時に炎に包まれた。
近くに居た伊能も例外では無かった。
鈍い呻き声と共にその場に倒れ込む。
獅々戸は感電こそ免れたものの、機器の爆発に巻き込まれて仮面が外れ、流血していた。

「はははははははは!いいぞいいぞぉ!歴史的瞬間だぁ!!」

流血など気にも留めない様子で、自らの研究の成果が上がった事に興奮していた。

数分間に渡る電流放出が沈静化し始めた頃、伊能が意識を取り戻した。

「うぅ…獅々戸…すまん…手を貸してくれ…動けそうにない…」

獅々戸は興奮から一気に冷徹な表情に変わり、伊能を見下した。

「この素晴らしい瞬間に水を差さないでくれるかぁい?君はよく働いてくれた。本当に感謝しているよ。しかしあの実験体とお前を担いで逃げる程の力は私には無いものでね。すまんがお別れだ。プライオリティってやつだからわかってくれたまえよ。」

獅々戸はナイフを取り出した。

「…お…おい…待てよ…」

勢いよく投げたナイフは伊能の額に深く突き刺さり、倒れ込む。迷いは無かった。

「長い付き合いだったが…用済みだ。」

伊能に微笑み、俺に近付いてきた。
炎は激しさを増し、遂に梁が崩落し始めた。
その一部が俺と獅々戸の間に崩れ落ちる。

「くっ!クソ!せっかくの実験体をみすみす手放す訳にはいかんのだ!おいお前!立ち上がってこっちへ来い!」

俺は辛うじて意識はあり、薄っすら目も開けられるものの、身体は全く言う事を聞かない。
さらに崩落は続く。
その時、数人の警官が部屋へ駆け込んで来た。

「悠太!」

奏輔さん。
来てくれたんだ…

「チキショー!邪魔するなぁ!!」

獅々戸のナイフが数人の警官を襲い、呻き声と共に倒れ込む。
同時に獅々戸の頭上の天井が軋み、唸りを上げて崩落した。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

勢いよく落下した天井と粉塵と炎で獅々戸の姿は確認出来なくなった。
きっとあれじゃ助からないだろう。
ざまぁ見やがれ。
仇は取ったよ探偵さん。
そう思うと緊張が解け、意識が遠のき始めた。
ナイフを避けた消防隊が俺に気付き、声を掛けてくれているがもう聞こえない。
今日で何度目だろう。
死を覚悟するのは。
全くツイてないな。

俺は意識を失った。

其の八:真相

心電図の音が安定したリズムを刻んでいる。
身体が重いが、指や脚は動かせるようだ。
生きてるのか。
死ぬ死ぬ詐欺にも程があるなと自分で笑えてくる。
ゆっくり瞼を開けた。

「悠くん!」

霞んだ視界に涙ぐむルカ姉の顔が映る。

「ルカ姉…おはよう。もう大丈夫なの…?」

「アホ!人の事より自分の心配しぃや!1ヶ月も意識なくしてんで!大丈夫なん?!」

いつものルカ姉だ。
よかった。
しかし1ヶ月…そんなに経ってるのか。

「身体は重いけどね。なんとか大丈夫みたい。心配掛けてごめん。」

精一杯の笑顔を向けた。

「本当に…よかった…」

ルカ姉がぐしゃぐしゃの顔で椅子に深く座り込んだ。

「ところで、事件はどうなった?あおいや奏輔さんは?」

「薬の成分分析が終わって解毒剤が生成できたし、それのおかげであおいちゃんはつい先日意識を取り戻して退院したよ。今はご両親が戻ってきてて家で療養してる。悠くんも同じタイミングで解毒剤投与されてたんやけど、悠くんだけはなかなか意識戻らなかったんよ…」

「そうだったんだね。俺は何か藥強くしたとか言ってたからな。しかしさすがの親も戻ってきたか。なにより、あおいが無事でよかったよ。」

「それと、奏くんや事件についてやけどー」

病室のドアが開き、奏輔さんが入ってきた。

「よっ。目覚めたか。よかったよかった。目覚めなきゃぁまーたルカにドヤされるとこだったよ。」

「こんな事になってすいません…連絡する前に捕まっちゃって…」

「大丈夫大丈夫。ある程度はルカに聞いたから把握してるしね。」

「え?」

「悠くんが私にくれた情報をざっと説明したからね。だから直ぐに駆け付けれたんやで。」

「それって…」

まさか。

「そう。虚での話。実は私、覚醒者(アウェーカー)やねん。」

ルカ姉が語り始める。

「まず大事な説明やけど、覚醒者(アウェーカー)として覚醒した時はその後1ヶ月くらい、虚で目覚める事が無いねん。これはなんでなのかはわからんけど、どうもそういうふうになってるみたい。だから今回悠くんは覚醒者(アウェーカー)になったものの、虚でも現世でも目覚めなかったから私は会えなくて、ちゃんと説明するタイミングが今まで無かってん。」

さすがはルカ姉。
覚醒したのに、この1ヶ月の虚の記憶が無い事に疑問を持った俺の心はお見通しって訳だ。

「そういうこと。やけど、普段からこんなに心を読んだりはせぇへんからね?必要な時しか読まへんから、その辺は安心してね」

ルカ姉は申し訳無さそうな顔をした。

「俺がそんな能力持ってたら、常に発動させとくけどなぁー。宝の持ち腐れじゃん?」

「警察官の風上にも置けへんわ!」

ルカ姉の掌が奏輔さんの後頭部を直撃し、奏輔さんは勢いよく吹き飛んだ。

「さて、気を取り直して…。私は悠くんや奏くんに連絡した後、部屋に籠もってから、虚で独自に調査を行なっててん。とにかく歩き回って、あらゆる人の心を読み続けるという泥臭いやり方やけど、その中で私が探してたのは炎使いの能力者。そこで目撃者の繋がりから、この近辺には3人の炎使いがいる事がわかってね。そのうち、実際に見つけられたのは2人。そのうちの1人が、言動や行動パターンから覚醒者(アウェーカー)っぽいという事がわかってんよ。その1人というのが“伊能敏孝”という男。今回悠くんが連れて行かれた館に居たやつやね。この男の心を読んでわかった事は、現世では高校を中退してから今まで仕事が続かずに世の中に反感を持っていて、虚や現世に関わらず、その腹癒せに能力を使って人を殺していたみたい。その現場を現世でたまたまある男に見られ、虚の存在を知った事でその男は研究を開始した…。そう、その男が今回の首謀者の“獅々戸”やね。獅々戸は覚醒者(アウェーカー)では無いみたいやけど、私はこいつには会えなかったから確証も無いし素性も謎のままやったわ。だからアジトも特定出来ひんくて、奏くんにも伝えてへんかった。そんな時よ。虚で悠くんが店に飛び込んで来たのは。」

そこまで一気に話し、タバコを口に咥えた。
さすがに病室なので火は付けないが、どうやら我慢出来なかったらしい。

「そこで、悠くんの情報と併せて全て合点がいった事で、現世で奏くんにすぐ連絡したって訳。虚での時間は現世に比べてかなり遅く流れてるから、悠くんが心停止してから実際命が尽きるまでの間で迷わず私のとこに来たのは本当に正解やったんよ。」

「奏輔さんも覚醒者(アウェーカー)なの?」

「いやいや、俺は全然普通よ。それに、もしそんな能力あるならもっとひけらかしてると思わない?」

「あぁー…確かに。」

少し笑ってしまった。

「覚醒者(アウェーカー)だとかなんだとか、そんなのは分からないし、信じろってのは土台無理な話だけど、ルカから突然連絡が来て、この住所に犯人が居て悠太が監禁されてる上に、今まさに瀕死の状態だ。詳しい話をする時間が無いからとにかく私を信じて一刻も早く警官を派遣して欲しいと言われたのよね。無茶苦茶だとは思ったけど、迷いは無かったから適当な理由付けて上に掛け合ってすぐに駆け付けたってわけ。ガセネタじゃなくて本当よかったよねぇ。ガセネタだったら俺絶対クビだもん。」

ヘラヘラしながらも奏輔さんはルカ姉を信頼して、刑事生命を賭けて駆け付けたという男気はやはり凄いと思ったし、ルカ姉も俺の情報を全て信用してくれて即座に動いてくれた事にも素直に感謝の気持ちでいっぱいだった。

「なんか、本当にありがとうございます。2人のおかげで今俺がここに生きてるんだって実感しました。」

「いやいや、感謝されるのはまだ早くてねぇ。」

「え?」

「あの現場の焼け跡からは1人の遺体しか出て来なかったんだ。」

「って事は…」

「そう。獅々戸はまだ生きていると思われる。」

あの時天井の下敷きになったと思われたが、逃げられたのか。
なんてやつだ。

「今警察でも奴の足取りを追ってるが、名前も偽名だし全く手掛かりがない状況だから難航してるってのが正直なところなんだよねぇ。」

「虚でも獅々戸に繋がる情報は掴めへんねん。」

「なるほど…まだまだ事件は終わってないって事ですね…」

「だからってもう首突っ込むなよ?あとは警察の仕事だから。2人とも、いいな?」

「はーい」

俺とルカ姉は2人で声を揃えて返事をした。
もうあんな目に遭うのは懲り懲りだ。
それにもう疲れた。
俺にしては頑張り過ぎたと思うが、そのおかげで妹とルカ姉と奏輔さんの笑顔を取り戻すという大きな目標を達成する事が出来たんだ。
御の字じゃないか。
あの時発動した能力を今も使えるのか、それも分からないけれど、しばらくは大人しく生きていこう。
何も変わらず平和な時間というものがどれだけ大切なのか、そして毎日を生きる事がどれだけ尊い事なのかを知る事が出来た。
この気付きを大切にしてこれからを過ごしていこうと思う。

この先の安寧な生活を祈りながら。


ーFinー




【補足】設定資料

▼テーマソング

この曲にインスパイアされてできたストーリー


▼人物

古河悠太(フルカワユウタ)

実家のアクアショップブルーネオンの跡取り。黒縁メガネ。猫が苦手。藍澤ルカをルカ姉と呼ぶ。ルカ姉に壁ドンしたことあるくらいの、変な意味での調子乗りで社交的なバンドマンだったが、ある事がきっかけで今は人と深く接することを避けている。基本的にめんどくさがりだが、気になることがあると首を突っ込む癖がある。運動は苦手。移動手段は父親のお下がりの黄色いベスパ。配達は黒いハイエース。強いストレスの後はタバコ(アメスピ・ターコイズ)を吸う。獅々戸の実験で世界初の人工覚醒者となる。能力は電気を操る。
同年代に友達がいない。

藍澤ルカ(アイザワルカ)

実家の喫茶カンパネラの店員。悠太の1つ年上。夏生まれの活発な姉御肌。世話焼き。面倒見がいい。喫煙者(ラーク・ミント・スプラッシュ)で、常にタバコを咥えている程のヘビースモーカー。覚醒者。相手の考えを読む能力。通常は勘が鋭いということでごまかして居た。悠太にルカ姉と呼ばれており、子供の頃からの幼馴染。

獅々戸(シシド)

下の名前は不明。通称ピエロ。科学者。虚の力を現実に波及させ、軍事利用して儲ける為の研究を行っている。悠太より8歳程歳上らしい。細身で色白。白髪混じりで、スーツ姿。ハットを被り、スチームパンク風のアクセサリーを纏っているが、人に会うときはピエロの仮面を被っている。どこか抜けてる憎めないやつ。覚醒者。虚での能力は瞬間移動。とにかく生きる事を楽しんでおり、道化師さながらのオーバーリアクションで人をあざ笑う。過去、何処かの研究機関で働いていたが、人格と思想に難ありでクビになった。

古河あおい(フルカワアオイ)

悠太の妹。高校2年生。悠太と2人暮らしの為、家事全般をこなす。兄の影響でバンドに目覚める。黒髪ロングの前髪パッツン。同級生で結成したインストバンドでトランペットを担当。

明石奏太(アカシソウタ)

ルカの従兄弟。ルカより少し歳上。警察官。チャラい見た目とは裏腹に、剣道の有段者。同棲5年目になるが結婚の予定はない。正義感に揺るぎはないが、目的の為には手段を選ばないところがある。趣味は日本刀収集。仕事で困るとルカから情報を買いに来る。

村神エミル(ムラカミエミル)

明石奏太の彼女。フリーのウェブデザイナー。細身で長身。赤縁メガネ、アシンメトリーの赤茶髪ボブ。父がドイツ人、母が日本人のハーフ。ルカと同い年。高校卒業後に明石奏太と出会い交際をスタートし、同時に家に転がり込んで今に至る。頭の回転が早く、仕事ができるタイプ。縛られることが嫌いな自由人だが、責任感が強い。時短料理が得意。気分転換にカンパネラで仕事をすることがある。(今後の展開を握るキーマン)

伊能敏孝(イノウトシタカ)

炎の能力者。小太り中背。ニートで世の中に反感を持っている若者。高校を中退し、能力を使って人を殺しているところを見られ、仲間に引き込まれる。そこで虚の存在を知り、獅々戸は研究を開始した。タバコはセブンスター。


▼施設

アクアショップ ブルーネオン

淡水魚専門店。店の外観はカフェと見間違うくらい無駄に洒落ている。父が1番こだわったところらしい。ルカ姉の喫茶店の1筋違いの通り沿い。父親が創業して悠仁郎で2代目。店員は悠太だけ。たまに妹が手伝う。8畳くらいのスペース。直接的な販売よりは、ネット販売や、水槽の出張設置、メンテナンスの方で定期収入を得ており、自転車操業ながらもなんとか生活は出来ている。希少種の取り扱いもある為、古くからファンも多い。

喫茶カンパネラ

昔ながらの喫茶店。ルカ姉の母が、父の亡き後を継いで経営中(三代目)。ドアは木製で上が半円形になっていて、内側に吊り下げられた鐘が開閉時に鳴る。外からはガラスに顔を近づけないと店内が見れないくらい濃い茶色。店内はボックス席3席。カウンター5席。悠太のアクアショップの1筋違い。店員はルカ母とルカのみ。ルカの人柄から各種探偵もどきの依頼が集まる。

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