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僕たちの景色 3 (連続短編小説)

「この間、朋明に会ってん」

ある日曜の昼に、
ジンにそう言われて、
僕も亜矢も、ドキッとした。

ここら辺の説明は、
長くなるのだが
先にしておくべきだろう。

アキラの妻、由佳里、つまり
ジンの母親が早々に再婚した
一因が、この朋明(ともあき)にある。

アキラが亡くなって
しばらくして、ジンに相談された。

「俊さん、樫井さんって知ってる?」

「・・・知らんな」

「アキラの会社の元同僚のオバちゃん」

そう聞いて、ハッとした。

アキラができちゃった結婚をしたとき
何股もかけていたうちの一人が
会社の同僚の女子だった。

「知らんけど、その人がどうしたん?」

この当時、ジンはまだ小学校6年生
くらいだった。

「校門の前で、ハルと同じくらいの年の
男の子と、オレを待っててん」

更に僕は顔面がこわばるのを
感じたのを覚えている。

「ハルちゃんと同じくらい?」

「うん、同じ学年やって言ってた」

「その人らと話たんか?」

「うん、だって、オバちゃんと子供やもん、
危なくないと思って、喫茶店に行った」

後々わかるのだが、その女性は
樫井奈緒、かつてのアキラの同僚で交際相手
そして、連れていたのはアキラの隠し子?
の少年、朋明だった。

こそこそしていたはずが、
あっという間に由佳里の耳に入り
裁判沙汰になろうかという状態だったが
当の本人が故人では、話にならない。
とっとと、アキラとの過去に見切りを
つけて再婚に踏み切った由佳里の気持ちも
よくわかる。

つまり、アキラは由佳里と結婚してからも
しばらくその女性と付き合っていたと
いうことだ。

しかしどうもアキラは、朋明の存在を
全く知らなかったらしい。

僕とアキラの弟ゴウは頭を抱えたものだが
樫井奈緒は、自活していたし、
特に何を求めているわけでもなかった。

ただ、アキラが亡くなったことを
しばらく経って人づてに聞き、
せめて、その息子の顔を見たいと思ったらしい。

そして、今や、子供から大人になりかけている
ジンと朋明はときどき会っているようだった。

           続


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