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移りゆく景色 8 (連続短編小説)

朋明は、ジンに会った後、
しばらく別の場所で時間をつぶし、
家に帰った。

祖父はもう就寝していて、
母の奈緒が、
朋明の帰りを待っていた。

母は、どんどん子供じみて
自分に依存してくる、
と朋明は感じる。

「遅かったじゃない、
美術館はどうだった?」

夕方から美術館に行くと嘘を言って
出かけたことを思い出す。

朋明は適当に返事をする。

「ご飯は食べたの?」

「うん」

「お友達と一緒だったの?」

「いや」

「一人で外食してきたの?
家でご飯用意してるのに」

本当は、ジンに会って、
夜ごはんは家で食べる
つもりだったのだが、
なんとなくイヤになり、
街をブラブラしていたのだ。

たいてい、年上の女性に
声をかけられるが、
今夜は男性にも声をかけられた。
中性的な朋明は、
どちらにも好かれるようだ。

奈緒の小言を適当に流している中で、
ある言葉が、ナイフのように、
朋明の心に突き刺さった。

「最近、ジン君は、どうしてるの?
昔はよく遊びにきたのに、
この頃全然来てくれないのね」

朋明は、心臓が縮むような痛みを感じた。

母は、朋明の意に反して、
ジンに会いたがっている。
それを阻止してるのは、自分だ。

「かあさんが、アキラさんを見るような
目で見るのがこわいんじゃない?」

意を決してそう放った朋明に、
奈緒は、少女のようにはにかむ。

「だって、本当に似てるんやもん。
でも、それがジン君の負担になってるなら
困っちゃうねぇ」

ジンじゃなくて、
僕の負担なんだよ!と
叫びたくなるのを、
朋明は抑えた。

ここらへんが限界だ、
さぁ、切り上げようと
背を向けた朋明に、
奈緒は無邪気に言った。

「トモは、アキラさんより
私に似ちゃったから」

朋明の心に、
二本目のナイフが突き刺さる。

ああ、もう勘弁してくれ、と
朋明は、自分の部屋へ向かう。

「今度また、ジン君を連れてきてね」

奈緒の言葉が、
朋明にとどめを刺した。

            続

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