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僕たちの景色 2 (連続短編小説)

「毒を盛られるようなこと、
もうしてんのか?」

僕の悪ふざけに、
大人ぶったジンが答える。

「オレ、アキラの息子やからな」

ジンは父親を名前で呼ぶ。
母親は、「かーちゃん」なのに
なぜ父親は呼び捨てなのと聞くと、

「父親というより、分身の
ような気がするから」

と、ジンは答えた。

本来、親を呼び捨てにするのは
どうかと思うが、
何となくジンの気持ちもわかり、
僕たち夫妻は、黙認している。

アキラをあまり知らない亜矢も
ジンを通してアキラの人となりを
理解しているようだ。

「あなたが、私とアキラさんを
あまり会わせなかったの、
わかる気がする」

亜矢にそう言われて、
ドキッとしたのを覚えている。

そう、僕も、アキラの人ったらしに、
自分の妻を持っていかれるような
不安があったのだ。

実際、実姉の葉子は、アキラにゾッコン
だったわけで、なるべくなら
近づけたくないという
器の小さな自分がいたことを
認めないわけにはいかない。

それに、葉子とアキラの関係を
薄々気づいていた亜矢は、
自分からアキラに会いたいとは
言わなかった。

亜矢は敬虔なクリスチャンであり、
表立って否定はしないまでも
そういう関係を良しとはしなかった。

ならば、アキラと会わせても
問題ないと思うのだが、
小心者の僕には、敢えてそうする
勇気がなかった。

だから、今、アキラの分身として
ジンが、ここにきて、
還暦近い僕ら夫婦と過ごすことに
不思議な必然を感じた。

亜矢がクッキーをひとかじりして
無事なのを見てから、
ジンはクッキーを食べた。

僕は思わず笑ってしまう。

「お前、オニやな。
人の奥さんに毒見させんなや」

            続


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