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そして川は流れる 2 (連続短編小説)


西村仁が岸田伊都と結婚したのは、
ジンが28、伊都が30の時だった。

西村進は、それを見送るように
亡くなった。

伊都の祖母、芙美も、
長男の良が生まれるまで
生きていた。
ひ孫を抱いた芙美の顔は
ジンにも伊都にも忘れられない。

長男、良が16才、
次男、圭が13才になったとき
ジンは伊都につぶやいた。

「とうとうオレもアキラが
死んだ年になったなぁ」

アキラとは、台湾人だった
ジンの父親で、45才で急逝したのだ。

それからいろいろあって
自分が父親の年になってしまったのだ。

伊都は笑う。

「男の人って、自分の父親と
同じ年に死ぬような
幻想もってるよね」

確かにそうだ。
ジンは、自分がアキラより
長生きするような気がしなかった。

「オレはなんか、今の世界より
向こうの世界のほうが近い気がする」

現実主義で、オレ様タイプの
ジンが、弱気なことをいうので
伊都は驚いた。

「だって、芙美ばあちゃんも
逝ってしまったし、アキラは遠の昔に
逝ったし、トモも・・・」

伊都は、久しぶりに会話に出てきた
トモの名前に驚く。

トモこと、朋明は、アキラの
隠し子だったのだが、
ジンと親しくしていた。
が、20になる前に自殺したのだった。

「トモのことは、本当に・・・
辛かったね。
・・・でも、案外、
アキラさんもトモも
生まれ変わってるかもよ」

伊都の言葉に、ジンは苦笑する。

「輪廻転生ってそんな
せわしないもんかなぁ?」


            続


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