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移りゆく景色 4  (連続短編小説)

「ほんで、あの子、
どうしてるん、
ジンが時々、つれてくる従弟さん」

伊都との結婚を気に
していたふうの芙美は
あっさり会話を変えた。

先を急かさない辺りは
年の功である。

が、従弟と偽って連れまわしている
樫井朋明(ともあき)のことを
聞いてこられたのには驚いた。

いつも伊都や弟たちがいて、
朋明の話は具体的に
したことがない。

「・・・ばぁちゃん、
伊都から何か聞いてんの?」

ジンの質問に、
芙美は、ふふふと笑う。

「事情があって、
従弟ってことになってるってことは
聞いた」

「そんだけ?」

「朋明の‘明’はアキラのアキやな」

従弟なら、アキラの兄弟の子供で、
家系的に「明」を伝承していても
不自然ではない。

が、芙美は続ける。

「息子のジンに‘明’って字が
入ってないのに
従弟さんには入ってるんやな、と」

「ふぇえ~」

奇妙な感嘆の声を上げたジンに
芙美は驚く。

「なんや、やっぱりか?」

「やっぱりって?」

「朋明は、アキラさんの内縁の子やろ?」

ジンは目を見開く。

「・・・ばぁちゃん、すごいな」

「いや、昔はよくあった話やからな、
それに、朋明の、どことなく遠慮がちな
ところが気になっててん」

朋明が遠慮がちという
芙美の言葉にひっかかったが、
二人きりということもあり、
ジンは、事の次第を話した。

「ほな、あんたの母親は、朋明の
存在を知って、即再婚したわけや。
しっかりしとるがな。
そんなん、ウツにでもなられたほうが
大変や。母親はたくましい」

ジンはフン、と鼻をならす。

「かーちゃんはかーちゃんで、
アキラが生きてるころから、そいつと
デキてたみたいやで」

「西村の父さんと?」

「だからキモイねん。
西村がイヤやねん。
アキラがアキラなら、
かーちゃんもかーちゃんや」

「ほんで、あんたは
西村の家に帰らず、
うちとか朋明のとこに
入り浸ってたわけか?」

「高校まではな。
今は大学生やから下宿してる」

「知ってるけど、
その金は西村さんが出してるやろ」

「さぁ、アキラの遺産を、
かーちゃんが使ってるんちゃうか」

「ま、それもありやわな」

入り組んだ話の途中、
伊都の弟たち、
和人(カズト)と安人(ヤスト)が、
芙美の離れにやってきた。

                 続

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