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移りゆく景色 10 (連続短編小説)

―もっとたくさん飲むんだった・・・-


朋明は、未遂で終わっては
いけないと思って、
更に薬を飲もうとするが
もう、ぼんやりして手元が危うい。

朋明は、薬局でかき集めた睡眠薬と、
友達がくれた処方箋薬を
飲んだこともない強いチューハイで
飲み干したところだった。

やっとこれで解放される、と
薄れゆく意識の中で
ホッとする。

大人になりきる前に
踏み切れてよかった。

自室の床に倒れ込んで、
朋明は祈った。

―神様、もしいるなら、
このまま逝かせてー

目が回り、世界が暗転する。

最期に何を思うのかと
常々考えていたが、
アキラやジンのことは
どこかへ行ってしまった。

薄っすら浮かぶのは、
母、奈緒の姿だ。

幼い自分が
奈緒に抱かれている。

「トモは、アキラさんだから」

小さい頃から、
そう耳元でささやかれていたのを
思い出す。

そしてアキラの死後、
半狂乱になった母は、
幼い朋明を連れて、
アキラの息子、ジンに
会いに行った。

今でも覚えている。

学校の前で、
奈緒に手を引かれている自分。

校門を出てきたジンに声をかけ、
喫茶店に誘う奈緒。

あの頃から、奈緒は、
自分とジンを比べてきた。

幼くて、よく事情がわからない
うちは、兄ができたと思い
明るく活発なジンの後を
ついてまわった自分。

やがて、事情を察し、
アキラの存在を知った自分が
萎縮していく様子。
自己肯定感が持てないまま、
ジンにアキラを見る母に鳥肌が
立つほど嫌気を感じた自分。

―母さん・・・
もう二度と僕の母親にならないでねー

朋明は、襲い来る吐き気とめまいの中、
祈った。

ーアキラさんが、なぜ母さんを選ばなかったか、
その理由が、僕にはよくわかるよー

朋明は、せき込んだが、
吐き出したのは薬ではなく、
心に澱んだ黒い塊だった。

               続


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