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移りゆく景色 12 (連続短編小説)完

朋明の葬儀が終わって、
しばらくしてジンと伊都は
神木俊之・亜紀夫妻の家を
訪れていた。

俊之はアキラの友達だった。

アキラより年上だったが、
夭逝したアキラに代わって、
ジンや朋明の面倒をみてくれた。

伊都も一緒に三人して
神木家を訪れたりしたこともあった。

俊之と亜紀が還暦を迎えたとき、
ジンは、俊之に赤いちゃんちゃんこを
伊都は亜紀に赤いカーディガンを
そして朋明は、絵をプレゼントしたのが
昨日のことのようだ。

画家を目指していた朋明の絵は
十字架とハートを描いたもので、
クリスチャンの亜紀と、
亜紀を愛する俊之を描いたと
言っていた。

今でも、神木家のリビングには
その絵が飾られている。

朋明の訃報を聞き、
悲しんだのは、
神木夫妻も同様だった。

だが、アキラの古い友人として
葬儀に顔を出すと、
朋明がアキラの隠し子だったことが
明らかになってしまうし、
ジンの親代わりというのも、
ジンの継父である西村氏や、
母親の由佳里にも顔が立たず、
結局、朋明の葬儀には
出ることはなかった。

亜紀は、朋明のことを思い出し、
心を痛める。

「そんなにつらい思いをしていたのに
私たちは何もできなかったのね」

「いや、オレが悪かったんだよ、
亜紀さん。
オレも大学や下宿やで、
生活パターンが変わって、
しばらく足が遠のいてたし、
トモは一人で、誰かの家に遊びに
行けるタイプじゃなかったし」

朋明は、ジンがいたから、
神木家に来ることができたのだ。

そう思うと、いつも
自信なさげにしていた
朋明の姿が思い出され、
俊之も声を詰まらせた。

「こちらから、声をかけてあげればよかったなぁ」

俊之にしてみれば、
アキラと朋明、二人の死を
目の当たりにしたことになる。

「長生きするのも、辛いもんだな」

若い二人が帰っていく姿を見て、
俊之は亜紀にそうもらした。


その晩、久しぶりにアキラが
俊之の夢に出てきた。
アキラの49日以来だ。

夢の中で、アキラの腕の中に、
赤ん坊の朋明がいた。

「コイツには、辛い思いをさせたよ、
俊兄」

赤ん坊に返っている朋明に
頬ずりしながら、アキラは言う。

「こんな風に罰が当たるってことあるんだな」

大きな体で小さな赤ん坊を
抱いて反省するアキラに、
俊之は問うた。

「トモをどうするんだ?」

「また、いつの日か、やり直すよ」

「アキラ、トモはお前の子だったんだな?」

アキラは豪快に笑う。

「人類みな兄弟。またな、俊兄」

消えていくアキラに、
俊之は尋ねる。

「ジンは、大丈夫なんだろうな?」

アキラは、また笑って
後ろでに手を振ると
消えて行ってしまった。

俊之は、アキラと過ごした日々と、
その後の長い日々を思い出し、
苦笑した。


「何もかもお前らしいな、アキラ。
・・・またな」

               完

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