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移りゆく景色  9 (連続短編小説)

母、奈緒が、ジンに
会いたがっている、
それを阻止しているのは、
朋明である、と
改めて痛感して以来、
朋明は、ますます自分の立ち位置が
分らなくなった。

朋明の父親、アキラのクローンが
欲しかったと言っていた奈緒、
そして、アキラそっくりのジンに
乙女のように会いたがる母。

自分は何のために
生まれてきたのだろう、
と朋明は自問することが多くなった。

そんな矢先、
ジンから会いたいと
連絡があり、フラフラと
出かけてみる。

ジンはいつも太陽みたいに
輝いてて、自分中心に
世界が回っていると思っているタイプだ、
と朋明は思う。
それがアキラなら、
自分は全く逆だ。
いつもジンに振り回されている。

その日も、突然、
ジンの彼女、伊都と、
その祖母、芙美と
会おうという話だった。

朋明は、鼻で笑う。

誰に何を相談したって、
ジンがいる限り、
母は自分を飛び越して、
ジンを欲しがる。

・・・この「欲しがる」という言葉に
朋明はゾッとした。

母は、元カレだったアキラと不倫してまで
「欲しかった」のだ。
アキラ自身を。

堂々めぐりの暗闇の中で、
ジンが話をひっかきまわす。

なんで、僕が、ジンの彼女やその祖母に
会わなきゃいけないの?
そう思って、

「あのさ・・・」

と声を上げた朋明の目を
ジンの真摯な目が射貫く。

朋明は、口をつぐんだ。

間違っているのは、
僕の方なんだ。
すべて、僕の被害妄想で、
僕がジンほどの器があれば、
母に会わすことなんて
問題じゃないのかもしれない。

「なぁ、トモ、オレの話、聞いてんのか?」

真剣に朋明の気持ちを案じているのが
当のジンであることが滑稽で、
朋明は、薄く笑う。

「うん、そうだね、そのうちに」

そんな気のない返事に、
ジンは念を押す。

「絶対だぞ。
何ができるかはわからへんけど、
お前をこのままほっておかれへん」

さすがだね、ジン。

朋明は冷たい笑みを浮かべていた。


             続




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