見出し画像

僕たちの景色 6 (連続短編小説)

それから、2か月ほどして、
ジンが朋明を連れて
うちにやってきた。

大人にとっての2か月は
短いが、彼ら若者にとっては
かなり長く待ってのことだろう。

ジンに紹介された朋明は、
まだ中学生ということもあって
あどけなさも残っていたが
アキラのDNAはかなり
引き継がれていた。

「やっぱり強いオスの子孫は
残るってことかなぁ・・・」

子供のいない僕は、もちろん妻に
そんなことが言えるわけもなく
一人凹んだものである。

ジンが、アキラの大胆さや、
人たらしぶりを受け継いでいるとしたら
朋明は、審美眼のようなものを
持っている気がした。
まぁ、これは、母親の樫井奈緒さんの
ものかもしれないが。
とにかく半端ない目力と、目で話すような
ところは、アキラそっくりだった。

「初めまして。樫井朋明といいます」

僕は、初めてアキラにあった時、
中華屋のテーブルでお互いの漢字を
聞いたのを思い出した。

「朋明くんね、とも、はどんな字?」

「月がふたつの朋、です」

ここで、ジンが割って入る。

「なんでかわかるか~?」

亜矢は、ハイッと手を挙げた。

「3月1日生まれ、とか?」

ジンも朋明も目を真ん丸にして驚いた。

「亜矢さん、なんでわかったん??」

「だって、あきは明でしょ、で、朋が
ついたら、月が3つで日がひとつ」

朋明は心底驚いたようだ。

「母と僕だけの秘密かと思ってたら
案外バレちゃうもんですね」

亜矢は、にっこり笑った。

「女のカンて、すごいやろ」

ジンは朋明をじっと見つめる。

「な、何?」

朋明は、ジンの視線におののく。

「いや、お前の名前には、アキラのアキが
入ってるんやなーと思って。
オレは、かーちゃんが再婚して
西村仁になってしまって、
全然アキラの名前引き継いでないなぁ」

それまでは、ジンの苗字は
「張」だったのである。

「完全に日本人やな、オレ」

そういうジンを見て、僕は
吹き出した。

「中国語と大阪弁ペラペラ話す
台湾人ハーフでええんちゃうん?
それに、国籍も日本になったら
兵役もないやろ」

僕は、昔、アキラが心配していた
ことを思い出してそう言った。

「アキラは口先三寸で
兵役免れたんやろ。
武勇伝聞いたような気がするわ」

ジンは、小憎たらしい口をきいて、
僕と亜矢を笑わせた。

              続


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?