見出し画像

そして川は流れる 1 (連続短編小説)

ジン(仁)が、西村進に呼ばれたのは
西村の病床だった。

西村は、ジンの母親の再婚相手だった。
12才のとき、西村の姓を
付けられたジン。
ジンの実父、張志明(通称アキラ)が
急逝して、わずか1年後のことだった。

あまりにも早い再婚に、
当初から疑念を持っていたジンは、
まったく西村に心許さず、
母親の由佳里とも距離を置いてきた。

あれから15年。

27になったジンは、ガン末期の
西村を見て、言葉が出なかった。

「お前は、ほんまに、俺に父親を
させてくれへんかったなぁ」

ジンの弟、ゴウも、それほど母親の再婚相手を
認めてはいなかったが、
両親とジンとのパイプ役程度には、
なっていた。

そのゴウから、知らせを聞き、
西村に会いに来たジン。
西村のほうから、二人で会いたいという
ことで、由佳里の姿はなかった。

「・・・もう、あかんのか?」

やせ細った西村は苦笑する。

「まだ、63やねんけどな。
老人みたいやろ」

ジンは、西村から目をそらす。

「うちのかーちゃんは、ダンナ殺しやな。
アキラも、あんたも殺りよった」

西村は、笑うが、体がきついのか
苦しそうである。

「お前らしい言い方やな。
でも由佳里も可哀そうな人なんや。
そう言うたるな」

「あんたが死んで、またすぐ
再婚したりして」

「それもありかもしれへんで。
オレは由佳里が元気なら
それでもいいと思ってる。
だから、アキラさんも、
そう思ってたんちゃうかな」

アキラの名前を出されて、
ジンは、カッとする。

「アンタがアキラを語るなよ。
それに、アキラより、子供やった頃の
オレや、ゴウの気持ちも考えてみろ」

西村は、神妙にいう。

「ジン、お前は、もう子供じゃない」

西村の口調に、ジンは構える。

「そんなこと、自分が一番わかってる」

「それなら、意地を張らずに、
西村を名乗って、
早くお前の大事な人と一緒になれ」

ジンは驚いた。
ジンの彼女、岸田伊都とは、
10年以上の付き合いである。
が、西村の姓を名乗りたくないあまり、
冗談で、岸田の姓に入るか、などと
言っているうちに、
だらだらと時が過ぎてしまった。

「伊都さんも、今年、30やろ。
もういい加減、西村仁として、
男の決断をせなあかん」

「・・・そんなこと言いに、オレを
呼んだんか?」

「そんなこととは、なんや。
これからのお前の人生を仕切り直して
スタートさせろっていうオレの遺言が
そんな軽いもんか?」

ジンは、しばし、西村を見つめた。
反抗ばかりしていたが、
実は、西村には西村の、父としての
責任を感じていたのかと思うと、
やっと目が覚めた気がした。

「・・・わかったよ。
これからオレは西村仁でやってくよ」

西村は静かにうなづいた。

                続

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?