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セフレの男性を好きになった女性の葛藤

30代の友人がセフレの男性を好きになった(書く許可は得ている)。

即会い系のマッチングアプリで知り合って最初からセフレとしてその日のうちにホテルに行き、寝てみたら体の相性がばっちりで離れがたくなり会っているうちにその気持ちが恋愛感情に発展するなんてのは、本当によくあること。

極端にいえば関心の内容が性欲に限定されるような人との付き合いは”そのまま”を維持するのが難しく、一緒に過ごしていればどうしたって相手の人となりに触れ「体以外の長所」を実感してそれが居心地のいいものなら、性欲ではない気持ちが育つのは当たり前だ。

問題はここからで、自分はそうなっても相手も同じとは限らず、「恋人になってほしい」という下心を抱えた側はそれに不安と不満を覚え振る舞いがおかしくなっていく。
セックスで暴走してみたり駆け引きを持ち出したり、そうやって「セフレ以外の関係を望む自分」を見せたことで相手が逃げていったって結末も本当に多い。
彼女もその現実を経験から知っていて、だから「体以外でどうつながればいいか」に悩んでいた。

私が彼女に違和感を覚えたのは、彼女の部屋で別の友人も交えて飲んでいるときに「セフレの彼氏が」と口にしたときだった。
セフレは「彼氏」じゃねぇよ、どんな情緒なんだその矛盾と思って聴いてみたら、恋愛感情として好きになっているけれどその自分を出したら嫌われるのが怖い、男性のほうはすごく大事にしてくれるから期待もしてしまう、でも「いつでも電話して」と言われても男性の気持ちが信じられないという、何ともいえない「重い」状態だった。

最初にホテルに行ったときから私は取材も兼ねて彼女から話を聴いていて、男性の様子が明らかに変わっているのは知っていた。
何回か会っているうちに「ホテルを出たら食事に行く」のがふたりの当たり前になり、ホテル代の負担もそうだが男性は彼女のぶんまで食事のときも出すことが多い。
それを申し訳なく思う彼女が割り勘を提案すれば嫌がらず受け入れて、でもやっぱり彼女を気遣っているのは「ホテルに行く前に寄るコンビニで飲み物を買い込むときは彼女に好きなだけ選ばせて自分が会計する」を見ればわかる、それで彼女のほうもいわゆる”プレイ”で恩返しをする。(男の狙いはそれに乗っかってセックスではないスキンシップを深くすることだろうと感じる)
彼女が自分の気持ちに気づいて男性から向けられる関心を”もっと”となってベッドで暴走してしまい、確実に困っただろうがそれでも「次はいつにする?」と尋ねる、「何か嫌なことでもあった? いつでも電話して、聴くから」と”ここぞとばかりに”存在感を出す。
客観的に見れば、男性のほうはセックス以外の価値を彼女に持っているのがよくわかる、本当に体だけが目的なら「やる前」に手間をかける、事後にふたりきりの時間を”引き続き”ゆっくり楽しむなんてしないだろうよ。
事後に本音が出る、性欲が満たされたあとで相手に向ける気持ちが本心だと思ってる。

それを彼女は「信じられない」と言う、自分と同じ気持ちになってほしいと願いながらそれを見せてくる男性の姿を受け止められない。

彼女は勇気を出して男性に電話をし、そのときに毎日弁当を作って会社に持っていくと彼女の話を聴いた男性から「俺も食べたい」と言われ、次の日に作って朝コンビニの駐車場で待ち合わせて渡し、そのお礼にと男性から「食事だけのデート」を提案されたが断っていた。
「明日会える?」と男性から尋ねられたとき、彼女はホテルのお誘いと受け取って「平日にバタバタするのはしんどいな」と思いながらも断ったら落胆されるのが怖くて笑顔で「大丈夫。いつものホテルでいい?」と返していた。
その”無理”に男性が気づいたかどうかはわからないが、「そうじゃなくて、お礼としてご飯をおごりたい」と言われた彼女は自分の勘違いに気づいて落ち込んでしまい、「たかがお弁当一つで礼とかいらないよ、こっちこそホテル代とか出してくれるお礼で作ったから」とひねくれてしまった。
聴きながら「もったいねえ」と思ったがそれは言わず、こういうつまずきもセフレから次の関係に進む過程ではあるのだろうなと感じた。

私が男性側の好意を確信したのはこの後で、
「空っぽの弁当箱の写真を送ってきて
『ごちそうさま。美味しかった。
ありがとう』
『明日、やっぱり無理?』
と改めて尋ねてくる男性」
の話を聴いたときだった。

”食い下がる”のだ。
今朝の「勘違いに気づいてひねくれてしまった彼女」を目にしたうえで、そのまま自分の提案を最後まで拒否されたのはショックだったはずだがそれにも関わらず「誘う自分」を諦めない、どんな気持ちならそれをするのか、「わざわざ空の弁当箱の写真を撮って送る」のはどんな意味があるのか、聴いていて胸がぐうっとなった。


男性の気持ちを「信じられない」と言う彼女は、彼にお弁当を作るときに「彼女ヅラしている」と思われるのを避けるために、お弁当箱からそれを入れる袋まで全部捨てられるものにしていて、男性にそう伝えていた。
たとえば袋を保冷バッグにしていれば、それを返す口実で約束ができるのだが「どうせホテルに行く日があるしそのとき返せばいいと思われるだけだから」と”先回り”した彼女は、最初から防御線を張っていた。
それこそ見抜かれる、彼女の「恋人と勘違いしていない自分をアピールする」と考えたことは「恋愛感情を向けられない実感を避けるため」と伝わる。
彼女が見落としているのは、「恋人でも純粋な友情を向ける女友達でもない女性に自分のお弁当を作ってくれとお願いする」男性の気持ちであって、”親密感の共有”を求められているのにそれに気づかないのだ。
セフレもクソもねぇ、どんな気持ちなら弁当の受け渡しだけで仕事がある朝早くからコンビニの駐車場で待ち合わせするんだよ、その労力を割くんだよ。
「会いたいから」だろ。
男性はこんな”やり取り”をきっかけにしたいんじゃないの、ふたりの関係をいま以上に変えていくための。
まあ私の勝手な見方だがね。


彼女はその日、男性の”純粋なデートの誘い”を無下にした自分を呪い「感想のメッセージなんかくれないだろうな」と気落ちしながら午前中は仕事をしていたそうだ。
自分の態度を振り返れば「面倒くさい女と思われただろうな」となる、張った防御線はスマートにその場を終える自分ではなく「体目当てだとしか考えていないから勘違いして大恥をかく」自分を連れてくる、男性も自分も信じていないからそうなる。

男性と真逆なんだよね、客観的に状況を聴ける立場だからこそ私にはこう見えるんだけど、相手の思惑はさておいても自分が向ける気持ちすら不安定だからおかしな先回りにばかり必死になって失敗する、「誘われる自分」の意味を一方的に決めつけてしまう、素直に「一生懸命作ったよ」と言いたいことを伝えていれば、朝の展開は正反対のものになるはずだった。
葛藤。
「セフレとしか思われていない自分」を否定したいし「自分だけが恋人関係になりたいと思っていること」もそうじゃない現実を手にしたい、でもその期待を全部裏切られて「やっぱり」となるのが怖いから自分が抱える気持ちに素直になれない。
誰だって片思いはつらくて、セフレの場合は「体だけ利用される自分」を見るから余計に惨めになる、だから相手のなかに自分と同じ好意があるか確認することばかり意識が向いて「伝える自分」を忘れる。
防御線を張ってしまう気持ちはわかるが、その結果遠ざかるのは求めているはずの「両思い」なのだ、その結末を受け取るにはまず自分が相手に向ける愛情に安らいでいないと無理なんだよ。
彼女の弱さはここだった。
家飲みのときは私たちのために美味しい手料理をいつも作ってくれて、そのお礼にとこちらが買ってくる自分のためのお酒は安いものばかり求めて、足の悪い私のために座り心地のいいクッションまで用意してくれて、人を大事にすることを当たり前にできる彼女が、「好きになったセフレの男性」には途端に自信をなくすのだ。
こんな彼女がその男性の前でも同じようにいろいろな気遣いを見せているのは容易に想像ができるし、”だから”、その姿を受け取っているから男性のほうも「性欲以外の好意を持つ自分」を出すことができる、手放したくないと思うからセックス以外の時間を作ろうとするんじゃないのと。
人の関係はなるようにしかならない、だから”そうなろうとしている”んだけど、過程を邪魔しているのは彼女の自信のなさなのだ。

でも、まあ、こうなるよね、恋愛感情で結ばれることを確約しない関係で、別の快楽を共有するだけのつながりを受け入れたのはお互いさまで、それを自分の事情で変えたいと思うとき、純粋さも素直さも持てないよね、受ける傷の痛みは向けられる欲が肉体の快楽だけって惨めな自分をどうしても想像するから。
彼女から聴いている”私の友達の話だけど”で、素直に「恋人になって」と伝えたけど愛情を利用されて家政婦のような扱いを受けて最後に捨てられた経験をした女性を知っていれば、余計に怯むだろうよ。
それでも、性欲以外の愛情を求めるのであればそう思っている自分を見せていくしかないんだよ、その自分をちゃんと認めて大事にしようと思えば言動は相手への尊重を当たり前にしたものになる、「そうする自分」に違和感を持たない姿が相手の心を開く、恋愛に関係なく「他人に敬意を払える人」が等しく相手からもそうされると思ってる。
それを彼女はもう叶えているはずで、それは男性の有り様を見れば想像がつくんだけど、彼女が自分を信じない限りその実感は手にできないのだろうなと思う。

「信じられない」のはどこまでも彼女の問題であって、それじゃあ男性が何を叶えればあなたは自分が求める愛情なのだと実感できるのか、不毛な証明なんて強制すると確実に関係は破綻する、そうなる前にまずはあなたが差し出す愛情に自信を持ってほしいと。

「前も言ったが、その人を好きな自分が好きだと胸を張れる人が一番強い」。
彼女は、あの宅飲みの夜に私が吐いた言葉を今も覚えてくれている。


昼の話に戻るが、彼女は男性の「明日、やっぱり無理?」というメッセージを読んで泣いたそうだ。
きれいに平らげてくれた証拠の写真は自分への感謝と気遣いだとわかる、今朝の”あの自分”を見てもまだ明日のデートを誘ってくれる男性の気持ちは、「セックスじゃなくて純粋に食事だけで自分と過ごしたいと思っている」彼の姿を見ることは、「ああそういえば最初から食事だけで会ったことはない」と気がついたからこそ歓喜になる。
セックス以外で価値を持ってもらえる自分は、こんな場面で叶う。
「お弁当のお礼なんてそもそも頭になかった」彼女は、だからこそ男性の提案に好意が滲んでいるとわかる、私がよく使う「逆ならどうする」で”自分も必ずそうする”とためらいなく彼女は口にした。

食い物だけが目当てなら、弁当を作る彼女を適当に扱って「俺にも」なんて言うのなら、渡された”その場で”お礼としてのデートなんて提案しないだろうよ。
男性は会う前から誘う気でいたはずだと私は思っているが、男性のほうこそお弁当を「セックス以外で会う口実」にしたかったんじゃないのと。
それを諦めないのは彼女に信頼があるから、今朝の気まずさが落ち着けば頷いてくれると思えるのは、普段の彼女が男性に見せている姿がそれを想像させるから。
つまずいても、それを一緒に乗り越えようとする姿勢に愛情が宿る。


彼女は”すぐに”「ありがとう。行きたい」と返信していた。
トーク画面をスクリーンショットで送ってくれたが(マナー違反は承知しているが「これでいいんだよね?」という彼女の確認だった)、そうだよ今度はアンタが乗っかればいいんだよ食い下がるらぁていい男じゃないか着ていく服かいそうだねあの袖が膨らんでる緑のワンピースはどうだい可愛いしよく似合うしいや気合い入れすぎって思われるくらいでええやんかだってアンタそうやんか私なら装って来てくれたら舞い上がるがねとものすごい早口で会話していた。
素直になれる機会を与えてもらったのなら、いや与えてもらえなくても、「できる」と思える自分を掴むのが今の彼女には必要で、めいっぱい可愛らしくして楽しんでおいでと思った。
私自身は「この人は絶対に食べた感想を送るし次も作ってほしいと言うだろうな」とほぼ確信していたが、相手の有り様に左右されず”その自分”を諦めない自愛を持っている人は言動が一貫するんだよ。


この「セックス抜きのデート」の詳細は書かないが、”いつものように”彼女の行きたいお店を男性は尋ねて彼女は”いつものように”男性も好きな中華の食べられるところを答えて割り勘で会計を済ませて、「いい感じ」で終わっている。
今の”問題”は「こんな普通のデートをしてしまったらそれまでのホテル直行の自分たちが途方もなく気恥ずかしくて次の約束ができない」で、大笑いしながら「そうだねえ、行くホテルを変えてみたらいいよ、新鮮さで恥ずかしさも消えるやろ」と伝えた。

人の関係はなるようにしかならない、だから”そうなるように”努力する、それを一緒にできる人の存在は奇跡で、信じられないのは自分の問題、向ける気持ちの責任を相手に持っていったらアカンよと。

セフレから別の関係への発展で難しいのは、欲を抜いたふたりの在り方をどちらもが「正解」と思えるかどうかで、そこにたどり着くスピードも実感を得る場面もそれぞれ違う。
見ないといけないのは相手の有り様ではなく自分が抱える愛情の確信で、そこにセフレは関係ない、「ただの好きな人」と思えたらその自分を伝えていくのが正解なんだよね。

彼女の話はおそらくまだまだ終わらないが、どうか幸せな進展をと思う。


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