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故障と故障モードの違いがわかりますか?



はじめに

 いきなりですが、故障と故障モードの違いがおわかりですか。
これがわからないと、FMEA(故障モード影響分析)をするときに苦労します。機能安全エンジニアにとって、この違いを正しく理解することは大変重要です。機能安全に対応した製品を開発するとき、故障モードが安全側に遷移するか否かを考えるためです。

 まず、「故障」の定義からはじめましょう。まずは、日経Xtechから引用します。
故障は「Loss of function:機能喪失」

参考文献※1
アイテムが要求どおりに実行する能力を失うこと。

参考文献※2
要求された機能を遂行する機能単位の能力がなくなること。

故障モードは「Manner in which an item fail:対象となるアイテム故障の様子(様態)」です

参考文献※1
故障モードは、故障が起こる様相。
注記1 故障モードは、失われた機能又は発生した状態の変化によって定義されることがある。前者の例として、絶縁劣化及び回転不能が、後者の例として、短絡及び折損がある。
注記2 対象によっては,故障モードの代わりに、不具合モード、損傷モード、障害モード、欠点モードなどという場合がある。
注記3 分野によっては、故障が起こる様相だけではなく、故障の結果の様相を含む場合がある。

 この故障モードの定義はわかりにくいです。故障すなわち機能喪失自体の振舞だけでなく、機能喪失後の振舞いもあるといっています。どちらなんでしょうか。

 アイテムの故障はそのアイテムの機能の喪失を指し、故障モードは、そのアイテムの喪失した機能に関わるアイテム内のシステムの故障と考えればよいのです(具体例については後述します)。

参考文献
※1JISZ8115:2019 ディペンダビリティ(総合信頼性)用語 (kikakurui.com)
※2JIS X 0014:1999 情報処理用語―信頼性,保守性及び可用性 (eomec.com)

故障と故障モードを明確に区別する方法

 AIAG-VDAのFMEA※3ハンドブックによると、
アイテム
    |ーシステム
          |ーサブシステム
という、アイテムから下に2つの階層から構造を洗い出すと故障モードを定義しやすいとしています。そして、
アイテムの故障モード=システムの故障
           システムの故障モード=サブシステムの故障
                      サブシステムの故障モード=さらにその下のコンポーネントの故障

参考文献3:AIAG&VDA FMEAハンドブック スタディガイド(日本語) 書籍(本) (plexus.jp)

 今、言葉で説明したことを、アイテムをエンジンとして図を用いて説明します。エンジンには燃料の点火装置があり、その点火装置にはプラグがあると
します。エンジンは燃料に火をつけ燃やさないと動作しないとします。
このとのきの故障と故障モードを図示しました。

構造から考える故障モード

 ここまでの説明で、だいたいお分かりになりましたでしょうか?
くどいですが、故障と故障モードの違いを明確にするため10個のアイテムについて、その
故障の例(機能喪失)と
その故障(機能喪失)の故障モード
の例を記載します。故障モードはそのアイテムの機能を実現するシステムの数だけ存在するため、実際は下に挙げたものよりも多くなります。

電話機

  • 故障: 通話ができなくなる

  • 故障モード: マイクに話した音声が途切れる、スピーカーが音を出さない

通話する場合に、マイク、スピーカーを使用する。

自動車 

  • 故障: エンジンがかからなくなる

  • 故障モード: バッテリーが上がる。燃料供給が途絶える

エンジンの点火装置の電力供給にバッテリを用いる。またエンジンをかけ  るためには、燃料が必要である。

コンピューター 

  • 故障: 画面が表示されなくなる

  • 故障モード: システム(例えばCPU)がフリーズする、液晶モニターが故障する

画面表示のためにシステムが動作している必要がある。また液晶モニターが正常である必要がある。

腕時計

  • 故障: 時計の針が動かなくなる

  • 故障モード: (電池式腕時計の場合)電池が切れる、内部の歯車が狂う

時計の針を動かすためには電池が必要である。また針を動かすために歯車が動く必要がある。

電気ポット 

  • 故障: 水を温められなくなる

  • 故障モード: 加熱が止まる、ヒーターが切れる

水を温めるために加熱する。そのためにヒータが継続して動作する必要がある。

冷蔵庫 

  • 故障: 冷えなくなる

  • 故障モード: 冷却装置が動かない、コンプレッサーが故障する

冷やすために冷却装置が動作する。冷却のためその装置にはコンプレッサーがある。

電子レンジ 

  • 故障: 加熱しなくなる

  • 故障モード: マグネトロンが壊れる、タイマーが動かない

加熱のためにはマグネトロンがある。加熱を継続するためにタイマーを動作させる。

電動ドリル 

  • 故障: ドリルが回らなくなる

  • 故障モード: モーターが焼ける、ギアが破損する

ドリルはモータでまわる。ギアがドリルの回転を制御する。

スマートフォン 

  • 故障: 画面タッチが反応しなくなる

  • 故障モード: 液晶画面が割れる、タッチセンサーが故障する

画面タッチが反応するためには液晶画面に割れ目がなく、タッチセンサーが動作する。

電子ピアノ

  • 故障:音がでなくなる

  • 故障モード:キーが反応しない。音源装置が故障する

音を出すためにはキーが反応する必要がある。音源装置が正常である必要である。

まとめ

 故障と故障モードの違いがお判りになりましたでしょうか。
まず構造を考えて、その下の子階層の故障を考えれば、故障モードの洗い出しは容易です。
お役に立てば幸いです。
 詳しくは上述した参考文献3が役に立つと思います。

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