【徹底解説!】『競馬場の達人』岡田繫幸総帥回 後編
前回に引き続き、『競馬場の達人』「奇跡の相馬眼を持つ男 岡田繁幸」の放送を解説付きで振り返ります。今回は2008年10月19日にグリーンチャンネルで放送された後編の模様です。映像ソースはグリーンチャンネルWEB上で配信されている『競馬場の達人~タイムマシン!懐かしシリーズ!(岡田繁幸 後編)#13』を使用しています。
なぜパドックで体調はわからないのか
さて、後編もゴッドファーザー・愛のテーマに乗って登場した我らが総帥。前半戦は2レース的中も収支はマイナス。次に挑むのは札幌競馬場第7レース、ダートの1000m戦です。巻き返しを図りたいところですが、なんと総帥、ダートの1000m戦は苦手と言います。いったいなぜ?
パドック診断というとその日の出走馬の「体調」を見ることだと考えられがちですから、総帥のこの発言は意外に思われるでしょう。ですが、競走馬の「体調」というのは、究極を言えば筋肉に蓄えられているグリコーゲンの量ともいえますから、これはたしかに見た目ではなかなかわからない……。歩様とかコズミとかは体調(グリコーゲン)とはちょっと違いますし、体調については馬体重の増減や調教過程、あるいは厩舎コメントなどで間接的に推し量るしかないのでしょうか。
短距離馬は胴が長い
そうはいいつつも総帥、このレースも馬体面から有力馬を絞っていきます。「体型的にいちばん1000m向き」という12番モエレフェミニン、キャプテンスティーヴ産駒だがウォーニングの肌で「意外と筋肉が強い」2番チャームキャップ、前かがみで飛節も直飛ですばらしい11番ヴィヴァーチェと見てきて、8番グレイスサンセットに目をつけます。
これも教科書的には「胴が詰まった(短い)馬は短距離向き」とされることが多いので、意外な感じがあるかもしれません。もう少し詳しい教科書だと「脚が短くて相対的に胴が長く見える馬が短距離向き」と書かれることもあります(治郎丸敬之『馬体は語る』など)。いずれにせよ走る速さというのは「ストライドの大きさ×脚の回転の速さ」で決まるので、どちらも正解といえば正解です。個人的には「胴が長くて脚が短い」タイプが、ダッシュがきくので短距離に適しているかなと思います。
余談ですが長距離馬は脚が長いほうがいいと思いますね。脚が長ければ筋肉を使わずにストライドを伸ばせるので、スタミナをロスしにくいと思います。
展開までも見抜く相馬眼
さて総帥、第7レースは結局、2番チャームキャップ、8番グレイスサンセット、11番ヴィヴァーチェの3頭に絞って、馬連ボックス、3連単ボックスで計1万6000円分を購入しました。
レースがスタートすると、見立てどおり8番がハナを奪い、2番はおっつけながらの4番手追走。11番は後方に待機します。そして直線、8番グレイスサンセットが内埒沿いで逃げ込みを図る中、11番ヴィヴァーチェが大外から強襲してきます。
のちの『BSイレブン競馬中継』の解説でも、こういうシーンをよく見ました。総帥が「これ人気ないけど最後伸びてくるよ」と言った馬が実際、追い込んで3着に突っ込んだり……。
「いや展開なんて新聞見りゃ素人でも読めるだろ」と言われるかもしれませんが、総帥は新馬戦でもこういう予想しますからね。やっぱり筋肉の強さとか質とかが見えてたんだなと思います。
そんな予想は続く第8レースでも披露されます。
軸は13番バルバロ(筋肉が柔らかくてパワーがあるも飛節がよくなく1700mでバテそうな気がする)としつつも、馬連の相手に9番も入れます。3点各2000円ずつで計6000円を購入。
はたしてレースは、本命バルバロが先行から3/4馬身程抜け出すも、2着争いは4頭横並びの接戦に。もちろん相手に入れた5番シャンパンファイト、10番タニノロッキー、そして大外から追い込んできた9番メジロオマリーもしっかり2着争いに加わっていました。
終わってみれば3番人気、4番人気、2番人気、1番人気の人気上位勢での決着となりましたが、3番人気で1着の13番を軸に据えた点が絶妙でした。馬連は37.1倍となかなかついて、払い戻しは7万4200円。収支もついに大幅プラスに転じました!
馬体重と成長
なおこのレースでは総帥、馬体重についての見解も語っていました。
札幌ですから馬体重増については滞在競馬の影響があった可能性もありますが、キーバイブルはこのレース、12着と大敗しています。その後、障害レースで3着に入った際の馬体重が474キロですから、この日はやはり、いささか太め残りだったのでしょう。
ただし、馬体重が増えることじたいは悪いことではありません。
テンポイントについては、若駒の時期は体質が弱かったことからデビュー時の馬体重が456キロだったようです。その後、体質が強化され、4歳時の有馬記念で1着になった際は498キロまで成長しました。
最近でいえばクロノジェネシスですかね。この馬は2歳~3歳春くらいまでは430~440キロくらいの馬体重でしたが、4歳秋の秋華賞でG1初制覇を果たしたさいの馬体重は452キロ。古馬になるとさらに成長し、5歳時の宝塚記念(1着)では478キロまで達しました。馬体重の増加が成長のバロメータとなった好例といえるでしょう。
馬券もうまい?
さて続く第9レース。芝の1800m戦で、能力拮抗のメンバーと見つつも、2レース連続的中で波に乗る総帥は、相馬眼を駆使して馬を切っていきます。
結局4頭まで絞り、馬単ボックス各1000円で計1万2000円購入。
1着3番クラウンプリンセス、2着6番パッションレッドで、見事、馬単的中! さらに3着、4着にも購入した馬が入りました。
いや4着まで1番人気から4番人気で決まっただけとかじゃないんですよ。3番人気が頭になるレースで馬単を買ってるところがうまいですね。オッズ13.7倍で払い戻しは1万3700円となりました。総帥、意外と馬券選択も絶妙なのでは?
ビッグレッドのアイドル
ここでVTR。想い出のレース、2004年のジャパンカップについて語ります。コスモバルクがゼンノロブロイに次ぐ2着に健闘した1戦です。
コスモバルクは総帥の相馬眼を、さらにはその競馬観を象徴するような、特別な馬ですよね。
父ザグレブという超零細血統ながら、総帥の相馬眼に見いだされ、2歳から3歳にかけてラジオたんぱ2歳S、弥生賞、セントライト記念など重賞を制して堂々クラシック戦線の主役の1頭となりました。しかもこの間ずっと地方ホッカイドウ競馬に所属したままだったんですよね。これだけの馬ですし、クラシックを目指すなら中央競馬に移籍させたほうが有利なのは明らかだったのですが、「地方競馬と中央競馬の障壁、格差を取り除きたい」という総帥の思いから、コスモバルクは地方在籍のまま中央競馬の大レースに挑み続けました。ダイワメジャー、キングカメハメハと同世代、一つ下の世代にディープインパクトもいたことから、国内のG1には手が届きませんでしたが、前述のとおりシンガポールで国際G1を制する快挙を達成。
皐月賞では1番人気に推されましたが、10番人気と低評価だったダイワメジャーの2着に敗れます。このとき総帥がパドックでダイワメジャーが相手と見抜いていたという逸話は総帥相馬眼伝説のひとつです。
また、嘘か誠か、上記のジャパンカップの日、残念会となった祝勝会会場にたまたま居合わせたファンの方に、コスモバルクの単勝馬券を外させてしまったお詫びに総帥が黙って食事をおごったという逸話も、筆者は好きです。
相馬眼の基礎
総帥を語るうえで、コスモバルクと並んで欠かせないもう1頭の馬が、ジェラルディンツウです。これもVTRでどうぞ。
総帥が天国でジェラルディンツウを再会していることを願います。
絶妙なケン?
さて馬券勝負に戻って、この日は残り3レース。第10レースの芝2600m戦には、マイネル軍団から5番のマイネルメロス、8番マイネルローゼン、13番のマイネソシオの3頭が出走しましたが……。
というわけでこのレースは馬券を買わず、愛馬の応援に徹することに。
一口出資者の立場からすると、代表者のこういう態度は好感が持てますね。
はたしてレースは、予想どおり7番マームードイモンが1着になるも、10番ピエナグッドラックは7着敗退。……結果的には馬券が外れるレースをケンできたともいえるんですよね。ある意味、ツキを持ってるなあ。
ちなみにマイネル軍団3頭は逃げを打つも直線なかばで力尽きたマイネルローゼンの5着が最高で、マイネルメロス6着、マイネソシオ11着と言う結果に。
というわけでいよいよメイン、第11レースです。
親から子へ
ここで長男の紘和氏と三男の義広氏が登場。親子三人で予想しま
す。
現在、紘和氏はサラブレッド・ラフィアンの代表を、義広氏はウインレーシングクラブの代表を務め、それぞれ総帥の意志を継いでクラブを発展させていらっしゃいます。
さて、パドックでは4番メイショウエグルが高評価でしたが、返し馬に出た際、なんと放馬し、除外となってしまいます。そのため馬券は1番のジェントルフォークを軸に据えるかたちに変更。
相手にはパドック診断で言及した8番アートオブウォー、13番スマートカイザーに、マイネル軍団から10番マイネルトラヴェルも加え、単勝と馬単で計2万円を購入。
しかし悪いことは続くもので、本命1番が道中、中団で詰まる不利。
ここも人気馬中心に購入していましたが、5番人気と8番人気でワンツーと波乱になってしまいました。
泣いても笑っても最終レース。切り替えていきましょう。
枠順の有利不利
札幌の1500mは外枠不利。これは定説ですが、先行馬だと特にそうだということですね。逆に内枠の先行馬は有利となるわけです。もちろんスタートは決めて、包まれないようにしたいところですが。
尻の形について
お尻の形は体型的特徴のひとつで、お尻のラインが背線と水平に近いものが「水平尻」、背線に対して角度があるものが「斜尻」と呼ばれます。一般的には斜尻のほうが好まれやすいですが、水平尻の馬はスピードの持続力に長けると言われることもあります。今はそこまで極端な水平尻の馬も少なくなっているとは思いますが、後ろ脚の踏み込みの深さなどは合わせて見たほうがいいですね。
筋肉で走る馬は体調に左右される
勝負を決する最終レースとあって、総帥も細かく出走馬を検分していきます。
ここで語られていることは結構重要で、筋肉が柔らかくて強けりゃいいのかと言うと、筋肉に頼って走る馬は結果が体調に左右されやすい面もあるということですよね。諸刃の剣というか、過去の名馬でいうと、トウカイテイオーやゴールドシップはわりとそういうタイプだったと総帥は見ているようです。
というわけで、馬券は1番トシザユカを軸に相手4頭で馬連流し、13番との馬単を加え、計1万5000円で勝負をかけます。
津村、やるもんね
レースは、1番トシザユカが思惑どおり好スタートからハナを切ります。これには総帥も「よしよし」と好感触。しかし4コーナーで中団内目にいたマイネベクルックスの進路が詰まりかけ、思わず顔を曇らせますが、まだわからない。最後の直線、トシザユカが逃げ粘りをはかる中、マイネベクルックスも内の進路を狙って虎視眈々とチャンスをうかがいます。
1着トシザユカ、2着マイネベクルックスで見事、馬連的中! これには総帥もこの日いちばんの笑顔。
トシザユカは内枠を生かして先行、マイネベクルックスは瞬発力を発揮して2着に差し込んできましたから、またも展開ズバリの的中です。
津村はやります。覚えておきましょう。
競馬とは哲学である
最終レース、馬連12.5倍のヒットで、払い戻しは3万7500円。
そして総合収支は12レース中6レース的中、プラス4万260円という結果に。
有言実行、さすがです。
ちなみに、ロケでは絶対にスタンドの来賓室が準備されていたはずですが、総帥、一度も入りませんでした。ずっとパドックで予想し、一般フロアで馬券を買って、普通席で一般ファンにまじってレースを観戦。ストイックすぎる……。ただ単に馬券がプラスになったというだけでなく、こういう飾らない姿勢が素敵なんですよね。
最後に、おなじみの問いかけ「達人にとっての競馬とは?」に答えていただきましょう。
これだけ真剣に、そして長く、「走る馬とはなんぞや」ってことを考えてきたわけですから、それはもう哲学といっても過言ではないですよね。
なぜエプソムダービーが人生の目標なのか
で、これで終わるのかと思いきや、最後にもうひとつインタビューVTRがありました。御題は「人生の目標」。
エプソムダービーは1780年にイギリスで創設された伝統あるレースで、世界中の同じ名称を冠したレースの、あるいは近代競馬そのものの、模範となったレースです(実際、2000m前後の距離で1回勝負で勝敗を決するという今日では当たり前の競走体系やそのほかの競馬施行の基本的なルールは、エプソムダービーが創設された時期の英国で確立しました)。
そこを目標とするということはつまり、競馬そのものを極めたいという意味だと思うんですね。実際、総帥は有力と見込んだ2歳馬を毎年のようにエプソムダービーに仮出走登録をしていて、それを無謀と馬鹿にする向きもありましたが、エプソムダービーというレースの歴史と意味を知ってから言ってほしいものだと思ったりもします。
いまでは凱旋門賞制覇が日本競馬全体の悲願とされていますが、エプソムダービーを本気で目指していた日本のホースマンは、おそらく総帥だけだったでしょう。総帥はその意味をよく理解していたのだと思います。近代競馬そのものを極めたい――つまりこれもまた、哲学的に競馬と向き合うということなんです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?