【徹底解説!】『競馬場の達人』岡田繫幸総帥回 後編

前回に引き続き、『競馬場の達人』「奇跡の相馬眼を持つ男 岡田繁幸」の放送を解説付きで振り返ります。今回は2008年10月19日にグリーンチャンネルで放送された後編の模様です。映像ソースはグリーンチャンネルWEB上で配信されている『競馬場の達人~タイムマシン!懐かしシリーズ!(岡田繁幸 後編)#13』を使用しています。

なぜパドックで体調はわからないのか

さて、後編もゴッドファーザー・愛のテーマに乗って登場した我らが総帥。前半戦は2レース的中も収支はマイナス。次に挑むのは札幌競馬場第7レース、ダートの1000m戦です。巻き返しを図りたいところですが、なんと総帥、ダートの1000m戦は苦手と言います。いったいなぜ?

1000mのダートってのは、体型にミスがあっても、調子がいい馬が、今日すごく調子いい馬が、気力が充実してて体力もすごく調子がよくて、体調もよくてっていうのが、少々実力なくてもばーっと逃げ切っちゃう場合があるわけ。だから僕あんまり1000mとかの、ホントに実力の出ないレースって嫌いなの。体調がものすごくものを言うから。その日の体調が。体調までわかんないから、あんまり1000mのレースって買わないの。

岡田繁幸(以下:総帥)

パドック診断というとその日の出走馬の「体調」を見ることだと考えられがちですから、総帥のこの発言は意外に思われるでしょう。ですが、競走馬の「体調」というのは、究極を言えば筋肉に蓄えられているグリコーゲンの量ともいえますから、これはたしかに見た目ではなかなかわからない……。歩様とかコズミとかは体調(グリコーゲン)とはちょっと違いますし、体調については馬体重の増減や調教過程、あるいは厩舎コメントなどで間接的に推し量るしかないのでしょうか。

短距離馬は胴が長い

そうはいいつつも総帥、このレースも馬体面から有力馬を絞っていきます。「体型的にいちばん1000m向き」という12番モエレフェミニン、キャプテンスティーヴ産駒だがウォーニングの肌で「意外と筋肉が強い」2番チャームキャップ、前かがみで飛節も直飛ですばらしい11番ヴィヴァーチェと見てきて、8番グレイスサンセットに目をつけます。

8番(グレイスサンセット)も筋肉ちからあっていいんだけど、この馬、すごい胴が長いの。胴の長さでストライドを伸ばしてスピードあるわけ。これでカバーしてるわけ。1200とか1400になったら全然いらないと思う。1000mだから人気になってるし、いるんだ、可能性が強いわけ。短距離馬って胴が長いの。みんなそれをね、長距離馬は長い、長距離って書いてある、胴の長い馬が長距離馬だと思ってるけど、違うんです。

総帥

これも教科書的には「胴が詰まった(短い)馬は短距離向き」とされることが多いので、意外な感じがあるかもしれません。もう少し詳しい教科書だと「脚が短くて相対的に胴が長く見える馬が短距離向き」と書かれることもあります(治郎丸敬之『馬体は語る』など)。いずれにせよ走る速さというのは「ストライドの大きさ×脚の回転の速さ」で決まるので、どちらも正解といえば正解です。個人的には「胴が長くて脚が短い」タイプが、ダッシュがきくので短距離に適しているかなと思います。
余談ですが長距離馬は脚が長いほうがいいと思いますね。脚が長ければ筋肉を使わずにストライドを伸ばせるので、スタミナをロスしにくいと思います。

展開までも見抜く相馬眼

さて総帥、第7レースは結局、2番チャームキャップ、8番グレイスサンセット、11番ヴィヴァーチェの3頭に絞って、馬連ボックス、3連単ボックスで計1万6000円分を購入しました。

このレース、8番が逃げると思うの。それを11番が追い込んできて、勝つと思うの。ま、勝つっていうか、追い込んでくると思うの。で、いちおうその、穴をもくろんで、2番が追い込んでくれば面白なとおもって買いました。

総帥

レースがスタートすると、見立てどおり8番がハナを奪い、2番はおっつけながらの4番手追走。11番は後方に待機します。そして直線、8番グレイスサンセットが内埒沿いで逃げ込みを図る中、11番ヴィヴァーチェが大外から強襲してきます。

ヴィヴァーチェ来い! ヴィヴァーチェ! ヴィヴァーチェ! ソレ来い! ソレ! 差せ! 差せ! 差せ、差せ、差せ! (ゴール寸前でヴィヴァーチェがぎりぎり2着に差し込む)アブねえやぁ、危なかったな! (思わず立ち上がり)言ったとおりでしょ?

総帥

8番が先行し、11番が追い込む。これは展開までもズバリ的中!

ナレーション(以下:NA)

のちの『BSイレブン競馬中継』の解説でも、こういうシーンをよく見ました。総帥が「これ人気ないけど最後伸びてくるよ」と言った馬が実際、追い込んで3着に突っ込んだり……。
「いや展開なんて新聞見りゃ素人でも読めるだろ」と言われるかもしれませんが、総帥は新馬戦でもこういう予想しますからね。やっぱり筋肉の強さとか質とかが見えてたんだなと思います。
そんな予想は続く第8レースでも披露されます。

あー(9番)メジロオマ(リー)、あー、追い込んでくるやつだ。すっごい後ろから追い込んでくる馬、この馬。お父さんがアグネスデジタルで、お尻がないとか、細いとか、でもすっごい筋肉強いから、走るんですよ。これ(=9番)があんまりね、お尻がないもんで、無視してたわけ。見たら、デジタルの子だからすごい筋肉に力があるわけ。意外と頑張るよ、この馬。

総帥

軸は13番バルバロ(筋肉が柔らかくてパワーがあるも飛節がよくなく1700mでバテそうな気がする)としつつも、馬連の相手に9番も入れます。3点各2000円ずつで計6000円を購入。
はたしてレースは、本命バルバロが先行から3/4馬身程抜け出すも、2着争いは4頭横並びの接戦に。もちろん相手に入れた5番シャンパンファイト、10番タニノロッキー、そして大外から追い込んできた9番メジロオマリーもしっかり2着争いに加わっていました。

どっちでも当たりだけど。(2着になった5番)シャンパンファイトは、2着がどっちになるかわかんないけど、やっぱり筋肉がよかったわけ。

総帥

終わってみれば3番人気、4番人気、2番人気、1番人気の人気上位勢での決着となりましたが、3番人気で1着の13番を軸に据えた点が絶妙でした。馬連は37.1倍となかなかついて、払い戻しは7万4200円。収支もついに大幅プラスに転じました!

馬体重と成長

なおこのレースでは総帥、馬体重についての見解も語っていました。

前走との比較なんですけど、前々走も見なきゃダメなの。たとえば12番(キーバイブル)だと、前走が464(キロ)で、その前(=前々走)が468(キロ)、(三走前が)456(キロ)、ずぅーと、前走(まで)をずぅーとみてくると、やっぱりあの、(今回の)484キロってのはあきらかに太いわけ。ホントは、あんまりこういう状態で出さんほうがいいよねえ。もっと仕上げてきたほうがいいじゃないかと僕は思いますけど。なんせ究極の仕上げしても勝てないんですから、だから、まあまあの仕上げじゃ勝負にならないですね。

総帥

札幌ですから馬体重増については滞在競馬の影響があった可能性もありますが、キーバイブルはこのレース、12着と大敗しています。その後、障害レースで3着に入った際の馬体重が474キロですから、この日はやはり、いささか太め残りだったのでしょう。
ただし、馬体重が増えることじたいは悪いことではありません。

でもあの、古馬になってからも成長する(馬)、テンポイントなんてのはデビュー戦が460(キロ)くらいだったです。それで、絶好調になったときには、古馬のときには500キロ越えましたんで。やっぱり強くなってくる馬は成長しますから、そういう馬がやっぱりいいですねえ。

総帥

テンポイントについては、若駒の時期は体質が弱かったことからデビュー時の馬体重が456キロだったようです。その後、体質が強化され、4歳時の有馬記念で1着になった際は498キロまで成長しました。
最近でいえばクロノジェネシスですかね。この馬は2歳~3歳春くらいまでは430~440キロくらいの馬体重でしたが、4歳秋の秋華賞でG1初制覇を果たしたさいの馬体重は452キロ。古馬になるとさらに成長し、5歳時の宝塚記念(1着)では478キロまで達しました。馬体重の増加が成長のバロメータとなった好例といえるでしょう。

馬券もうまい?

さて続く第9レース。芝の1800m戦で、能力拮抗のメンバーと見つつも、2レース連続的中で波に乗る総帥は、相馬眼を駆使して馬を切っていきます。

(2番)フェスティヴナイト切った。やっぱりトモのつく位置がちょっと良くないのと、ほかの馬より収縮力がちょっと落ちるような気がするわけ。能力拮抗した中でも甲乙がつけられるくらいまで行ったっていうのはもう50(歳)過ぎてからです。その前はある程度走る馬を見抜けるから、(サラブレッドクラブ)ラフィアンがいちおう確率がよくて、安馬でも血統がよくなくてもまあまあ走るんで、ここまで来たんですけど。

総帥

結局4頭まで絞り、馬単ボックス各1000円で計1万2000円購入。

よし、そのまま! よし! そのまま! よし! 6番(パッションレッド)来い!

総帥

1着3番クラウンプリンセス、2着6番パッションレッドで、見事、馬単的中! さらに3着、4着にも購入した馬が入りました。

これ全部、1着から4着まで全部。

総帥

いや4着まで1番人気から4番人気で決まっただけとかじゃないんですよ。3番人気が頭になるレースで馬単を買ってるところがうまいですね。オッズ13.7倍で払い戻しは1万3700円となりました。総帥、意外と馬券選択も絶妙なのでは?

ビッグレッドのアイドル

ここでVTR。想い出のレース、2004年のジャパンカップについて語ります。コスモバルクがゼンノロブロイに次ぐ2着に健闘した1戦です。

コスモバルクはねえ、一度諦めてるように見えてるのに、もう一度頑張るんですね。それがあの馬の特徴的なことで、またジャパンカップでも、一回沈んだのにまた盛り返してきたんですね。いやーもうただただ感謝しましたね。すごい馬だなと思った。それまではまあパワーが足りないとかやっぱりもうちょっと足りないっていうのはやっぱり相馬眼の上で思ってて、まあ健闘するのが精一杯だなって思ってたのが、あきらかにもう下がる手ごたえだったのに、もう一度差し返してもう一度(2着に)上がってきたんですね。もうただただ、なんていうか、あの馬以上の、なんか応援があってそうなってる気がして、ちょっと感動ものでしたね。偉い馬ですわ。もう自分にはもったいない馬ですね、ホントにいつも思いますけど。社台の、社台系の生産馬では国際G1を勝った馬ってのは結構いるんです。しかし、日高の生産馬の中で国際G1を勝ったのはあの馬しかいないんです、まだ。(テロップ「2006年5月14日シンガポール エアラインズ・カップ(G1)コスモバルク1着」)すごいことだと思いますね。それも毎回、目一杯頑張るんですね。ホントに、自分なんかそんな、ムラッ気ですから、すごいなと思いますね。もうただただ見たら、おとなしいし、すごいなと思って。家族のアイドル、職場の、ビッグレッド(ファーム)職員のアイドルですね。

総帥

コスモバルクは総帥の相馬眼を、さらにはその競馬観を象徴するような、特別な馬ですよね。
父ザグレブという超零細血統ながら、総帥の相馬眼に見いだされ、2歳から3歳にかけてラジオたんぱ2歳S、弥生賞、セントライト記念など重賞を制して堂々クラシック戦線の主役の1頭となりました。しかもこの間ずっと地方ホッカイドウ競馬に所属したままだったんですよね。これだけの馬ですし、クラシックを目指すなら中央競馬に移籍させたほうが有利なのは明らかだったのですが、「地方競馬と中央競馬の障壁、格差を取り除きたい」という総帥の思いから、コスモバルクは地方在籍のまま中央競馬の大レースに挑み続けました。ダイワメジャー、キングカメハメハと同世代、一つ下の世代にディープインパクトもいたことから、国内のG1には手が届きませんでしたが、前述のとおりシンガポールで国際G1を制する快挙を達成。
皐月賞では1番人気に推されましたが、10番人気と低評価だったダイワメジャーの2着に敗れます。このとき総帥がパドックでダイワメジャーが相手と見抜いていたという逸話は総帥相馬眼伝説のひとつです。
また、嘘か誠か、上記のジャパンカップの日、残念会となった祝勝会会場にたまたま居合わせたファンの方に、コスモバルクの単勝馬券を外させてしまったお詫びに総帥が黙って食事をおごったという逸話も、筆者は好きです。

相馬眼の基礎

総帥を語るうえで、コスモバルクと並んで欠かせないもう1頭の馬が、ジェラルディンツウです。これもVTRでどうぞ。

父が体調が悪くて、かわりに行くようにって言われて、それで19歳のときはじめてニューマーケットのディセンバーセールに行ったんですね。そのとき買ったのがジェラルディンツウって馬を買ったんです。ただ、父が、買ってきたらびっくりして、小さくて。がっかりしてたのを覚えてますけど。それが良い馬だと思いたくて、ものすごい勉強したんですよ、血統を。あるいは馬を。もうその馬を正当化したいっていうか、その馬が価値ある馬だって思いたくて、ものすごい勉強したわけ。だからそのときからすごい血統詳しいから、「外国の血統は岡田に訊いてみろ」なんて言われて、「岡田の息子に訊いてみろ」なんて言われたことがあるの。今はもうみんな知ってますけどね、外国の血統って。父にはそういう点で感謝してますよねえ、そういうことが、かわりに行けなんて言われて、たいした馬じゃなかったんですね、結果的には。それを良い馬だと思いたくてすごい勉強したことが、いまにつながってますんで、よくあんなチャンスを与えてくれたなっていうふうに思ってますから。その買ってきた馬が、やっぱりあんまり子孫のいいの残せなくて、もうほとんど、繁殖としては1頭残ってるかどうかってくらい衰退したんですけど、自分にとってはその馬が相馬眼のまったくの基礎ですよね。だからもうジェラルディンツウっていうとなんか恋人のような気がしますよ、ホントに。オーバーじゃなくて。昔のいい思い出の、女性と付き合っていい思い出あったっていうような、そんな感じ。あの世へ行ったら会えるんじゃないかって気がするくらい。

総帥

総帥が天国でジェラルディンツウを再会していることを願います。

絶妙なケン?

さて馬券勝負に戻って、この日は残り3レース。第10レースの芝2600m戦には、マイネル軍団から5番のマイネルメロス、8番マイネルローゼン、13番のマイネソシオの3頭が出走しましたが……。

もう自分の馬、こんなに出てきたらダメなんですよ、欲目で。もう絶対自分の馬を、自分とこの関係の馬を良い馬に良い馬に、欲目で欲目で見ようとするんですよ。負けるの嫌だから。全然だから、そういうときは馬券ダメ。

総帥

というわけでこのレースは馬券を買わず、愛馬の応援に徹することに。

もう俺の予想なんか外れてもいいから、勝ってほしいと思うわけ。そうすると、予想はすると、当然、俺なんか今買いたいのは、本当に買いたいのは、7、10なわけ。でも7、10ってウチの馬入ってないよね。そうすると馬券当たるほう優先だからもう、(自分のところの馬が)来るな来るなって思うのが嫌なのよ~。これすごい、お金が掛かってて、会員さんの夢が掛かってるのに。だからもうパスして、自分の馬を応援させてもらおうと思うの。

総帥

一口出資者の立場からすると、代表者のこういう態度は好感が持てますね。

はたしてレースは、予想どおり7番マームードイモンが1着になるも、10番ピエナグッドラックは7着敗退。……結果的には馬券が外れるレースをケンできたともいえるんですよね。ある意味、ツキを持ってるなあ。
ちなみにマイネル軍団3頭は逃げを打つも直線なかばで力尽きたマイネルローゼンの5着が最高で、マイネルメロス6着、マイネソシオ11着と言う結果に。

ローゼンは人気してるほどやっぱり頼りっ気ないって思ったけど、乗り方が悪かったらなおさらダメだね。行きましょう。

総帥

というわけでいよいよメイン、第11レースです。

親から子へ

ここで長男の紘和氏と三男の義広氏が登場。親子三人で予想しま
す。

総帥:すごい体だな、これ、4番(メイショウエグル)。
紘和氏:4番、いいと思うよ。
総帥:粘っこいことは粘っこいね。
紘和氏:サンデー肌、サンデー肌だから。
総帥:あ、サンデー肌! ああ……じゃあ力あるわ。圧勝される可能性あるよねえ。もっとトモがうしろのほうについたほうがいいような気はするけど、胴長いから、もしかしたらこれでカバーして、圧勝するかもしんないし。4番が一番こう、魅力あるわね、訳わかんないって感じ。(13番)スマートカイザーも、サンデーの子だからあれでいいけど、普通じゃ硬いよな。サンデーサイレンスならなんでもいいって感じ。
義広氏:(苦笑)
総帥:でも1番(ジェントルフォーク)、ケツもないし、あれだけど、なんか、前かがみで、不気味な感じのする馬だよね、この馬。ずいぶん人気あんな、これ。(競馬新聞に目を落とし)ああ、ダートに転向してから走るのか。ちょっとダート向きだもんね、この馬。ああいう柔らかくて地面にへばりついていけそうなやつって走るのいるから。(8番)アートオブウォーもいいけど、リキアイワカタカ(産駒)で、ちょっと硬いか。

現在、紘和氏はサラブレッド・ラフィアンの代表を、義広氏はウインレーシングクラブの代表を務め、それぞれ総帥の意志を継いでクラブを発展させていらっしゃいます。
さて、パドックでは4番メイショウエグルが高評価でしたが、返し馬に出た際、なんと放馬し、除外となってしまいます。そのため馬券は1番のジェントルフォークを軸に据えるかたちに変更。

1(番)ねえ、すっごい飛節が伸びるの。それで、バネはないんだけど、ちゃんと砂の馬場をつかまえていくっていう体に恵まれてるの。

総帥

相手にはパドック診断で言及した8番アートオブウォー、13番スマートカイザーに、マイネル軍団から10番マイネルトラヴェルも加え、単勝と馬単で計2万円を購入。
しかし悪いことは続くもので、本命1番が道中、中団で詰まる不利。

いやーもう行かなきゃいかん! なんで抑えてんだ。まったくもう全然……遅いもん、追い出しが。

総帥

ここも人気馬中心に購入していましたが、5番人気と8番人気でワンツーと波乱になってしまいました。

よし、最終レース、当てます。

総帥

泣いても笑っても最終レース。切り替えていきましょう。

枠順の有利不利

13番のトラックワンダーってのが、やっぱりよく見えるんですけど、1500mの外枠発走ってかなり不利なんですよ。この馬、先行したい馬なわけ。1番手か2番手につけたい馬なわけ。距離を損しながらでも先行しなきゃいかんから、一番ペースが上がるところで無理するわけ。無理したぶん、終い、タレてくるわけ。なもんで、ホントは13番中心なんだけど、実力的には。外枠引いてるからすごい不利ですよね、この馬。2番手は、(1番)トシザユカで、これ1枠当たったわけ。スタート上手くいったらすごく有利です。先行馬でしょ、おまけに。

総帥

札幌の1500mは外枠不利。これは定説ですが、先行馬だと特にそうだということですね。逆に内枠の先行馬は有利となるわけです。もちろんスタートは決めて、包まれないようにしたいところですが。

尻の形について

1番はねえ、やっぱり体があって胴伸びがあるから、たぶん1500くらいがちょうどいい馬なんですよ。ただ、水平尻で、ホントに良い馬ってのは、ホントはもっとお尻がこう、斜めになってて、蹴るときにお尻もぐっと中へ入ってくるのがいいわけ。ところがこの馬、(お尻が)平らで、お尻が中へ入ってこないから、後ろ脚をもっと前へ、お腹の中へ入れてボンっと着地すればいいのに、入ってこないわけ。だからあの、手足だけで走るわけ。手足だけで走るもんで、1500m以上走れっていうとバテるの。だからこれ、うーん……1600くらいが得意な馬わけ。1500、1600が得意な馬なの。今日はそういうことからいったら、1500mで、札幌の内枠有利ですから、内枠引いて、いいスタート切って、楽に先行すると、しぶといよ、この馬。

総帥

お尻の形は体型的特徴のひとつで、お尻のラインが背線と水平に近いものが「水平尻」、背線に対して角度があるものが「斜尻」と呼ばれます。一般的には斜尻のほうが好まれやすいですが、水平尻の馬はスピードの持続力に長けると言われることもあります。今はそこまで極端な水平尻の馬も少なくなっているとは思いますが、後ろ脚の踏み込みの深さなどは合わせて見たほうがいいですね。

筋肉で走る馬は体調に左右される

勝負を決する最終レースとあって、総帥も細かく出走馬を検分していきます。

7(番ホワイトヴェール)はねえ、体質っていうか、筋肉の質はちょっと平凡なの。(でも)体型がすごくいいわけ。で、硬くないもんだから、それなりの体格とお尻の大きさと、バランスがいいので、押さえておこうと思った程度。で、(8番マイネ)べクルックスは、ちょっと飛節が伸びきらないんだけど、(父)アグネスタキオンの体の柔らかさとギュっていう瞬発力、収縮力を持ってるの。だからこういう馬って、体調のいいときに意外といい脚使うの。11番のラヴドシャンクシーか、これはねえ、お母さん(の父)がジルザルで、あんまりすごい瞬発力ないの。だけどこれもバランスがよくて、460キロあって、骨もまあまあしっかりしてて、体型もよくて、まあ押さえとかなきゃいかんなっていう。(13番)トラックワンダーってのは一番堅実で、すべてがオッケーなわけ、このメンバーの中じゃ。ところが、これも強烈な追い込みをするほどの筋力はないの。飛節もちょっと硬いし。そうすると、やっぱりトシザユカに敵わないと思うの。

総帥

ここで語られていることは結構重要で、筋肉が柔らかくて強けりゃいいのかと言うと、筋肉に頼って走る馬は結果が体調に左右されやすい面もあるということですよね。諸刃の剣というか、過去の名馬でいうと、トウカイテイオーやゴールドシップはわりとそういうタイプだったと総帥は見ているようです。
というわけで、馬券は1番トシザユカを軸に相手4頭で馬連流し、13番との馬単を加え、計1万5000円で勝負をかけます。

津村、やるもんね

レースは、1番トシザユカが思惑どおり好スタートからハナを切ります。これには総帥も「よしよし」と好感触。しかし4コーナーで中団内目にいたマイネベクルックスの進路が詰まりかけ、思わず顔を曇らせますが、まだわからない。最後の直線、トシザユカが逃げ粘りをはかる中、マイネベクルックスも内の進路を狙って虎視眈々とチャンスをうかがいます。

それベクルックス! 割れ割れ! ソレ! それベクルックス来い! ベクルックス来い! よし! よし! よし! (ゴール前でマイネベクルックスが馬群を割って2着に浮上)よし、よし、よし! よし! 来ましたね(笑顔)。

総帥

1着トシザユカ、2着マイネベクルックスで見事、馬連的中! これには総帥もこの日いちばんの笑顔。

スタッフ:マイネベクルックス頭のほうがよかったですけどね。
総帥:そうなの、そうなの(笑顔)。でも当たりました。やっぱり勝ちました1番(笑顔)。

トシザユカは内枠を生かして先行、マイネベクルックスは瞬発力を発揮して2着に差し込んできましたから、またも展開ズバリの的中です。

総帥:ベクルックス偉いなあ。
スタッフ:ちょっと前詰まってて、途中で一回、下がりましたもんね?
総帥:そうなんです、はい。(新聞に目を落とし)良いジョッキーだな、津村だもんね。津村はやっぱりやるもんね

津村はやります。覚えておきましょう。

競馬とは哲学である

最終レース、馬連12.5倍のヒットで、払い戻しは3万7500円。
そして総合収支は12レース中6レース的中、プラス4万260円という結果に。

この道ねえ、僕が損したんじゃ、馬券は儲からないって話になっちゃうから。僕が真剣になったら儲けなきゃダメですね。

総帥

有言実行、さすがです。
ちなみに、ロケでは絶対にスタンドの来賓室が準備されていたはずですが、総帥、一度も入りませんでした。ずっとパドックで予想し、一般フロアで馬券を買って、普通席で一般ファンにまじってレースを観戦。ストイックすぎる……。ただ単に馬券がプラスになったというだけでなく、こういう飾らない姿勢が素敵なんですよね。
最後に、おなじみの問いかけ「達人にとっての競馬とは?」に答えていただきましょう。

ようするにねえ、単なるあのー、一般の人達から見ると、ギャンブルなんだけど、ひとつの道をこうずぅーと模索すると、やっぱりすごく深くて、ある程度その深い洞察力っていうか、オーバーに言うと哲学みたいなものまでも持つぐらいなことまで考えないと、僕は、なかなか神様ってのは、そのヴェールを脱いでくれないなって思ってて。そのことを長く、ずっと35年間、夢中でやってきて思うことは、いろんなファクターあって決まることで、その小さな小さな積み重ねがレースで結果が出るだけのことで、その小さな積み重ねのファクターをどれだけ自分が把握できるか、どれだけ洞察できるかって問題なんです。それはやっぱり哲学的なものも考えあわせないと、なかなか本当の走り、走る馬って作れないんじゃないかなって思ってやってきてるんだけど。たかが馬、されど馬なんですよ。なかなかそういうところで、深いと思います。

総帥

これだけ真剣に、そして長く、「走る馬とはなんぞや」ってことを考えてきたわけですから、それはもう哲学といっても過言ではないですよね。

なぜエプソムダービーが人生の目標なのか

で、これで終わるのかと思いきや、最後にもうひとつインタビューVTRがありました。御題は「人生の目標」。

んー、やっぱり……ダービーとりたいよねえ。日本ダービーを。で、たった一度の人生だから、エプソムダービーをやっぱり勝ち負けしてみたいですね。自分の見る目を生かして世界に挑戦して、世界のトップレベルのレースを狙う、狙えるのが本当だけどなあって、そういう気持ちはありますね。

総帥

エプソムダービーは1780年にイギリスで創設された伝統あるレースで、世界中の同じ名称を冠したレースの、あるいは近代競馬そのものの、模範となったレースです(実際、2000m前後の距離で1回勝負で勝敗を決するという今日では当たり前の競走体系やそのほかの競馬施行の基本的なルールは、エプソムダービーが創設された時期の英国で確立しました)。
そこを目標とするということはつまり、競馬そのものを極めたいという意味だと思うんですね。実際、総帥は有力と見込んだ2歳馬を毎年のようにエプソムダービーに仮出走登録をしていて、それを無謀と馬鹿にする向きもありましたが、エプソムダービーというレースの歴史と意味を知ってから言ってほしいものだと思ったりもします。
いまでは凱旋門賞制覇が日本競馬全体の悲願とされていますが、エプソムダービーを本気で目指していた日本のホースマンは、おそらく総帥だけだったでしょう。総帥はその意味をよく理解していたのだと思います。近代競馬そのものを極めたい――つまりこれもまた、哲学的に競馬と向き合うということなんです。

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