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エターナルライフ第19話 Sol 美里

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素敵なお部屋だった。
居間と寝室は別になっていてバルコニーには海を一望できる露天風呂が設えてある。しかも常にジャブジャブ溢れている源泉掛け流し。
香炉で焚かれる茶葉の清々しい香りが部屋を満たしている。こんな贅沢な温泉旅行は初めて。

部屋に通してくれた仲居さんは、やはり私たちの関係を図りかねている様子だったので、私たち新婚旅行なんですって言っちゃった。そしたら食事の時にわざわざ女将さんが来てくれて、大事な思い出の旅行に当館を選んで頂いてありがとうございます。なんて言いながらスパークリングワインのハーフボトルをプレゼントしてくれた。
地魚のお刺身や金目鯛の煮付け。超豪華なお料理を頂きながら他愛の無い話で盛り上がっていた。

「前に温泉に行ったのはたった一ヶ月前なのに、なんだか凄い昔のように感じる」
「そうだね。この一ヶ月間でいろんなことがあったもんな」
「あの時、あなたは仲居さんがぴったり寄せて敷いてくれた布団をわざわざ離したんだから」
「襲われたら大変だと思ってね」
「何言ってんのよ。でも良かった。こんなに幸せな新婚旅行ができて」
「本当はささやかでも結婚式くらい挙げれば良かったんだろうけど。君のウェディングドレス姿も見てみたかったし。でもこの歳になってそういうことは気恥ずかしくてなあ」
「結婚式をして誰を呼ぶの? 私たちはふたりだけ。ふたりぼっちなんだよ」

私たちはここに来る前に町役場に行って婚姻届けを出してきた。そのために私は昨日、私の家に帰って市役所から戸籍謄本を取ってきたのだった。
「形なんて関係ないよ。」
「じゃあ、せめてもの形だ」
彼が鞄から出してきたものは指輪のケース。蓋を開けて差し出してくれたものはダイヤの指輪だった。
「結婚してから婚約指輪っていうのもおかしいんだけど、受け取ってください」
ケースから指輪を出して左手の薬指に差してくれる。
「何でサイズわかったの?」
「君がたまにしている指輪のサイズを内緒で見たんだ。あれは右手にはめていたからワンランク小さいものにした。サイズが合わなかったら調整してくれることになってるんだけどピッタリだな」
「いつ買ってくれたの?」
「君が戸籍謄本を取りに行ってるとき。いやね、俺もこういうことは全く疎くてね。貴金属店に入って、結婚指輪をくださいって言ったら笑われちゃった。結婚指輪はオーダーで作るんだそうだ。裏側に結婚記念日とイニシャルが入る。それも頼んでおいたけど、今日渡せないから、婚約指輪も買ってきたんだ」
私は涙でかすむ先に煌めくダイヤの輝きをいつまでも見つめていた。


朝早く目覚めてしまい、ひとりでバルコニーのお風呂に入った。
だんだん夜が明けてきて海の彼方がオレンジ色に染まってくる。ここは海から太陽が昇るのだ。
私は急いでバスタオルを身体に巻き付けて彼を起こしに行った。寝ぼける彼の手を引いて脱衣所に連れて行き、浴衣を脱がす。
「ん、何をする」
「早く!」
脱衣所のドアを開けて外に出る。
「うわあ、寒い!」
ふたりでお風呂に飛び込む。贅沢にお湯が溢れる。浴槽はあまり大きくなくて、彼は私を後ろから抱えるようにして湯につかる。

次第に空は青みを増し、たなびく雲が紅に染まっていく。
「これは凄いなあ」
やがて太陽の端が水平線の上に現れた。凄い勢いで昇り始めた彼は、燦爛たる光で世界を照らし始める。
雲は空を占めるその位置で、紅からオレンジ、ピンクに染まり、海原には光の帯がまっすぐに私たちの元まで伸びて来る。

「ねえ、太陽ってスペイン語でなんて言うの?」
「Sol」
「Sol。Lunaとの関係は?」
「兄弟じゃなかったかな。Solの妹がLuna。だと思った」
「兄弟か。じゃ私たちの新しい神話を作りましょう。あなたはSol。私はLuna。考えといてね」

彼は後ろから私の乳房をまさぐりながら首筋にキスをする。
「大丈夫なの? まだ六時間ぐらいしか経ってないよ。身体に障ったりしない」
「身体に触ってるよ」
「バカね」
「俺は君からエネルギーをもらっているみたいだ。どんどん元気になっていく」
「でもこんなところで?」
「こんな素晴らしいシチュエーションで、朝焼けの中で君を抱けるなんて最高だ。でもあまり大きな声を出しちゃだめだよ」
「私って声大きい?」
「結構ね。そうだ、ちょっと待ってて。ゴムを持ってくる」
「いや、待てない。大丈夫、今日は安全日だから」


エターナルライフ第20話 光 康輔


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