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或る「早良の醤油蔵」伝 ヤマタカ醬油(6) -民俗と革新が交差する食の世界で、新たな展開へ!-

蔵の北にある直売店と併設の『ヤマタカ食堂』、博多華丸大吉もTV番組の取材で訪れた。
隣町内野の名店「ひよ鳥精肉店」の地鶏を使った「地鶏すき」が名物。

1.なにはともあれ、ヤマタカ食堂の『地鶏すき定食』を喰う。

実は蔵事務所への訪問前に、歩いて1分程度の近さにある『ヤマタカ食堂』で昼飯をいただいた。せっかくなので、久しぶりに食堂に立ち寄ってみたのだ。

もちろんお目当ては、『地鶏すき定食』である。

本メニューは、東入部の隣町は内野にある、知る人ぞ知る肉の名店「ひよ鳥精肉店」の地鶏肉を使ったすきやきで、『木星』で仕上げられている。

ヤマタカ食堂の『地鶏すき定食』

あの博多華丸大吉もテレビの取材で食堂を訪問して、私もその放送を見た。たしか、華丸のお爺さんがヤマタカ醤油『木星』とひよ鳥精肉店の地鶏肉で鶏すきをするのが大好きで、というエピソードだったか。

『ひよ鳥精肉店』のコリコリした地鶏の歯触りを、『木星』の割り下で堪能する。

ちなみに私の食べ方は、添えられた生卵は最後まで取っておいて、先にすきやきだけをいただき、数切れの肉を残しておく。最後、飯の上に肉を載せ、溶き卵をBUKKAKE、割り下をひたひたに注ぎ込んで、親子丼風のたまご飯にしてカッ込む。

これが、もーーー、旨いんである。

というわけで、本稿ではヤマタカ醤油と料理の関係を探索し、合わせて今後の蔵の展望を見つめてみた。

2.ヤマタカ醤油と料理にまつわる、早良の民俗的食世界

私:「ご承知かも知れませんが、室見川対岸にある金武地区の各農家に伝わる珍しい郷土料理、『とりめし』というのがあります。これは金武産米にヤマタカ木星で煮た金武産の地鶏一羽分を混ぜた”混ぜ飯”なんですね。本当に知る人ぞ知るというメニューです。
合わせて、内野の「ひよ鳥精肉店」の地鶏を使ったヤマタカ食堂の「地鶏すき定食」など、地域の歴史と生活との関わりの深さを感じさせる料理があります。その他にヤマタカ商品を使った郷土料理や使い方などがあるんでしょうか」

社長:「うーん。特別はないんですけど。早良の醤油屋なんで、地元の方は慣れ親しんだ味だと思うんですが。福岡は鶏料理がおもてなしの中心で、お客様があると鶏をつぶしてお出ししてましたけど、醬油ならヤマタカと、そういう定着をしてきたのかなと思いますね。特別その、鶏料理に特化した醬油を造ったわけではなくて、たまたま家庭での料理にヤマタカ醤油を取り入れていただいたということでしょうね」

専務:「僕が生まれてしばらくしても、周囲に鶏料理の専門店って、まだ何軒かありましたね。いまはほんと無くなってしまって。一時期は凄くて。幼なじみの家も鶏料理店をやってましたし。今はやってないですけど」
三人:「へえ」
専務:「やっぱフルコースというか、あの水炊きから始まって、スープから煮詰めて全部食べる、そこに醬油は必ず使うから、それがたまたま同じ早良でヤマタカ醤油だったわけで、皆さん使っていただいたので、その味が伝わったんじゃないかなと思うんですけど」

社長:「大きな構えの鶏料理屋さんとかが多かったですね。こじんまりしたのではなくて、大きな送迎バスをお持ちで」
私:「料亭みたいな?」
社長:「そうそう、料亭みたいなところが殆どで、団体でお客さんが来られて、鶏料理ってそんなにコースで食べてもそんなに高くはならないので、割とよく接待とかでお客さんと来たりとかありましたけど、いまはもう団体で来られるお客様がおられないようになったんで、だんだんと廃れていきましたねえ」

専務:「たしかお婆ちゃんの話だったと思うんですけど。戦争が終わって、食料も無くて大変じゃないですか。それで、姪浜とか町の方に醬油と食材を持って出かけて、お料理講習会みたいな会をやってたというんです。醬油の紹介をしながら料理を振る舞っていたらしいんですよ。皆さん、お腹空かしていたから」
私:「料理をシェアしていたんですね、助け合いというか」
専務:「そういう積み重ねもあって、地域でヤマタカ醤油を使った料理というのが定着したのかも知れません」

早良郡版の”もやい”とでも言うべきか。農村地帯にある蔵だからこそ可能だったのかもしれないが、郡部と都市部住民との協調と共存が食を通じてかつて存在していたことを知った。

3.地元大学との産学協同コラボで中国を視野に

ネットで下調べをしていたら、地元は香椎にある九州産業大学とヤマタカ醤油さんがコラボで中国への輸出をテーマにワークショップを開催していたことを知った。取り組みとして興味を持ったので、話を伺ってみた。

私:「2018年1月に九州産業大学経営学部とコラボされて『中国市場進出に向けての商品開発』の企画提案を学生さんと一緒に行ったとの記事がネットにあったんですが、そのご感想といいますか、具体化はいかがだったんでしょうか?」

社長:「えーとですね、具体化というか、ちょっとだけはあったんですけど、発展はあまりしなかったんですが。こちらにその、海外進出するための基礎的な知識が無かったというのがあったとは思うんですけど。九産大の生徒さんがいろいろと案を作って下さったんですよ」
専務:「私と同世代の社員がいるんですけど、彼はもちろん父が採用したんですが、中国語をしゃべれることが条件で採用したんです。で、彼が九産大の出身で。それで九産大とのコラボでやってみたらどうかというので、彼がやってくれていたと思います。その後はどうカタチになったかは聞いてないですね」

私:「察するにワークショップ的な催しだったということでしょうか。有意義ではあったということでしょうか」
専務:「はい。とてもいい勉強にはなりましたね。大きな話もあって、その後一緒にラベルを作ったりとか。ま、それで社員の彼が見つけてきた中国人のバイヤーさんと商談になって、いろいろと話し込んだことがあったと思います。ま、その後は話がそのままになってしまったんですけど」
社長:「これはあの、決して悪いことではなくて、とても良い経験をさせてもらったと思ってるんですけど。その流れで会社のロゴとかもね、向こうで登録しとかんといけんねということで弁理士さんのところに行って」
専務:「商標」
社長:「そう商標ね。それで日本国内のも調べたら(商標権)が切れてた状態だったので・・・」
私:「はい。あれは延長しないといけないですよね」

社長:「それで中国での商標も合わせて取ろうかと、中国の弁理士さんとの間でやりとりを何回かしていただいたんですよ。やっぱり漢字文化圏同士やから似たようなのがあると言われる。こっちから見たら全然似ていないんですけどね、向こうからの返事でまだ似てるのがあるから、もう一回やりとりしましょうと。でも、その度にお金が掛かるんですよ。で、もう四、五回(修正をかけて)やりとりしても中々進まない、まだ似ているのがあるという話で、もうそれで話が立ち消えになったんです。ですんで、中国では商標は取らないままですね。国内は再出願しました」

私:
「そのワークショップをされていた時に、輸出についての課題と言いますか、克服すべき問題点というのはどんなポイントが出てきたんでしょうか」
専務:「そうですね、添加する甘味料のこととか、(国内で使っている)同じラベルが使えない、社長が申し上げたロゴの話じゃないですけど、味はヤマタカ醤油の『月星(げっせい)』だったと思うんですけど、ラベルが月星では出せないので、新しくこしらえるとか、そういうことがありました」
社長:「発送で、量として少ないとすぐに送れるんですけど、量が多いと商社通したりとかインボイス送ったりとかしないといけないんですが、そのあたり、こちらも知識が無いんで。あの、日本国内では使って良い材料なんですけど、国によってはそれは使っちゃダメみたいなものがあるんで、そのへんが知識が無かったなと。あと商品を送り込む流通の術(すべ)がこちらが解らなかったんですね」

カネ:「ちなみに海外輸出というと、先ほどアメリカとか台湾とかの話があったじゃないですか、いまはアメリカと台湾が中心なんですか?」
専務:「けっこう色々と輸出先はありますね。遠いところでいうとブラジルもありますし、あと中東だとドバイとか、ウガンダとか」
三人:「へえ・・・」
私:「買われているのは、あちらの在留邦人の方なんですか?」
専務:「えーと、ウガンダではそうですね。ドバイとかは向こうに進出しているラーメン屋さんとか、ブラジルもそうですけど」
社長:「いまは専務が、アメリカの方に新しい商品で進出を狙っているところですね」

ヤマタカ醬油の宇宙は、想像以上に、世界各地へと膨張しているのである。

4.ロスの有名レストランで使われている「チョコレート醬油」

私:「次が、そのアメリカでの話でございまして。「チョコレート醬油」についてなんですが、私これをネットの新聞記事か何かで拝見した記憶があって、面白い商品だなと思ったんですね。ロサンジェルスの和食レストラン『YAMASHIRO HOLLYWOOD』で使用されているというんですが、これは、どうして生まれたんですか」

専務:「寝て起きたらって言ったらおかしいんですけど、実はこれは夢で見た、といいますか。さかえ屋さんてあるじゃないですか、福岡(飯塚市)で創業したお菓子のさかえ屋さん、その創業者さんのストーリーが、寝る前日の夜にテレビ番組でやっていたんですね。シャトレーゼさんに買収された身の上だという話をテレビでやっていたんですけど」
私:「ああ、さかえ屋さんですね」
専務:「いまは『カカオ研究所』というのを飯塚の方でその創業家の方がされていらっしゃるんです。それでその創業者のお父さんが作ったチョコレートを世界に拡げるんだと言われて、メキシコに行かれたそうで、そこでチョコレートを使ったタレというかソースを向こうで作って日本に持ってきて、フレンチとかそういうちょっと値段のお高いところで提供するということをされてたんです。うちでも、私は父が大豆と小麦から造るのを見てましたし、私も自分自身の手で造って、アメリカで他に無い、というかその時はアメリカとは思っていなかったんですけど、他の国にはない醬油を造りたいとずっと思っていたんです」
私:「なるほど」

チョコレート醬油の経緯を語る髙田専務

専務:「それでたまたま『カカオ研究所』さんのチョコレートの話をテレビで観て、寝入ってから、チョコレートと醬油を合わせるという夢を見たんですね。で、目が覚めた時に、今日研究所に電話をしてみよう!と思って。全然畑違いなんですけど。液体の醬油と固体のチョコレートで混ざらないですから。それで液体のチョコレートを販売しているところを探したんです。そしたらたまたま見つかって、電話をしたら、『なんで醤油屋さんが?』と非常に驚かれてたんですね。でも、すぐに来ていただいて、造りました」
私:「ほぉ〜」
専務:「そしたら、しばらくしてアメリカ出張があったんです。で、出張にチョコレート醬油を持っていこうと思って持参したんですが、たまたま『YAMASHIRO HOLLYWOOD』のオーナーに出逢って。いま懇意にさせていただいてますけど、チョコレート醬油を試していただいたら、『これ、すぐ買う!』という話になって、それからトントン拍子に話が進んだんですね。まあ、そういうことで”寝てと起きたら”と、言ったら話にはならないかもしれませんけど」
私:「いえ。それは”夢のお告げ”ですよ」(笑)

専務:「ほんと、寝て起きたら、夢の中で考えていたことをちょっとやってみようと思ってやってみたという、ただそれだけなんですけど」
私:「醬油とチョコレートの液体をブレンドっていうのは、いままで聞いたことがないですが、日本でも初めての取り組みと言っていいんでしょうか」
専務:「えーと、たぶん初めてじゃないですかねえ。まあ、普通そんなことしないでしょうが」
一同:(笑)

UMAMI chocolate SHOYU

カネ:「もともと粘度が違うもの同士なんで、上手く混ざるのかなという気がしましたが」
専務:「先ほどお話した液体のことですが、我々も焼肉のタレとか、スキヤキのタレとか造る時とか、水飴とかを使って粘度の違うもの同士を混ぜ合わせるんですけど。熱を掛けるじゃないですか、先ほどの火入とか。チョコレートの液体も醬油と同じで、熱を加えるとサラッとしてくるんですよね。で、撹拌している間にもちろん、その、なんて言うんですか、寒天というか、量とかは企業秘密って格好付けるわけじゃないんですけど、上手く混ざり合うような寒天とかがあって、上手いこと行ってるような感じですね、分離せずに」

私:「『YAMASHIRO HOLLYWOOD』では、チョコレート醬油をどういった料理に使ってらっしゃるんですか?」
専務:「えーと、海老ですかね、僕は海老食べないんで良く解らないんですけど、海老を炒めたりとか、もちろん『YAMASHIRO HOLLYWOOD』さんはお寿司とかもあるんですが、カリフォルニアロールみたいなのに掛けたりもされてますし、あとデザートですかね。先月行ってきたんですけど、アイスクリームに掛けてありましたね」
カネ:「提供する最後にさーっと絵を描いたりとか、そんな感じですかね」
専務:「そう!そんな感じで使われてました」
私:「料理の隠し味的な使い方かと思ってましたが」
専務:「日本的な感覚ではないんですね。向こうらしい使い方で」
私:「ヤマタカさんのバター醬油は使わせてもらったことがあるんですが、チョコレート醬油はどういう使い方か想像がつかなくって」
専務:「日本では売っていないんですよ」

5.日本とアメリカの醬油観の違いについて

私:「今後も世界に向けての、新商品を考え出されるような予定はあるのですか?」
専務:「よく社長からも言われるんですけど、まずこう手に取って、日本人ならまず使ってみて口に合わなければ次は使わないですけど、アメリカの方はもともと醬油の使い方が解らないので、パイナップルだとかチョコレートだとか書いてないとまず手に取ってくれいないし、キッコーマンさんしか知らないからですね。まずそこからだと思っていろいろやってますけど。ほんとにアメリカ人も美味しいと思ってくれるようなものを、そろそろ造らないといけないなと思ってます。チョコレート醬油は決して美味しいから売れてるとは思っていないんで」

カネ:「アメリカ人の場合は、醬油、Soy Sauceというよりも、キッコーマン!っていう感じですよね。キッコーマンだと昔っから使ってるからいいけど、みたいなそういう意識なんでしょうかね」
社長:「だからその、日本の醬油製造の全国団体があるんですけど、それにも物申したいですねと思うんですが。酒は酒じゃないですか、海外に行ってもSake、日本酒は海外でもSakeって言われてますし、寿司はSushiだし、味噌はMisoだし。でも醬油はSoy Sauceって言うんですよ。だから醬油はShoyuでええっちゃない?という話でね(笑)」

カネ:「Shoyuでブランドとして統一する、というのを日醬協(日本醤油協会)さんが音頭取っておやりになると」
社長:「そうそうそう!(笑) なんでSoy Sauceなんだろっていつも思うんですけど。Shoyuじゃいかんとかいなって思って」
専務:「いまは西海岸の方は、Shoyuの方が通じるようになったんですね、逆にSoy Sauceだと通じない」
カネ:「そうなんですか?」
専務:「はい。最近は多いです。アメリカ人でもShoyuの人はShoyuなんですよ。日本の方が、こっちに戻ってきた時に、こっちで翻訳するときに勝手にSoy Sauceって訳してるから伝わらないんですけど。向こうではけっこうShoyuって言ってます」

◇   ◇   ◇

私もついついSoy Sauceと言ったり書いたりしているのだが、金輪際そう書くのは止めることにする。醬油は断断固として『Shoyu』なのである。

Do the right thing!

(7)に続く。

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