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captainhowdie (Randal's Friends) インタビュー 『FEECO』vol.1 掲載分(2018) + α

 『FEECO』創刊号収録の記事でもっとも復刻というか公開の要望が大きかったのがcaptainhowdieのページであった。カナダのどこかに住み、それ以外の情報は一切不明。自らのキャラクターのぬい(ぐるみ)を縫い、日本の雑誌や食べ物、アーケードゲーム筐体の写真をアップしたかと思えば、大橋純子「Telephone Number」をバックに自前のスケッチブックを開いていく動画を無言で投下する。その行動は予測不能であり、SNS的な速さを持たないために古きインターネット感高し。
そんなcaptainが2010年代後半からwebサイト上で公開・更新しているコミックが『Randal's Friends』(『Ranfren』ランフレン)。ランダル・アイヴォリーなる少年とその兄ルーサー、ペットである人間セバスチャンや猫人間ズ、夢の中にだけ現れる少年サトル、その他異形の存在たちによる不条理日常モノである。TumblrやDeviant Artのようなイラスト系SNSに局所的なファンアート潮流を生み出し、Instagramなどでハッシュタグ#ranfrenをのぞいてみるだけでもその小さな熱を確認できる。かくいう筆者もある作家が描いていたランダルのファンアートが、ランフレンを知るきっかけであった。
 captainの個人サイトにはびこる残像は、ADSL普及直前直後の時代、よりかみくだけば2000年代前半インターネットのそれである。ここだけならばミーム的に共有されることを宿命づけられたvaporwaveなどの現象の一つに括られそうだが、まさに自宅なホームページに留まり続けるところにcaptain個人のノスタルジア≒作家性のようなものを感じるのである。幼少期の記憶の庭に鎮座している点では、Ghost Box RecordsやBoards Of Canadaのような憑在論的アーティストたちの方が近いかもしれない。

 書いておいてなんだが、この記事を読む多くのランフレン読者にとっては、上に挙げた諸々の固有名詞はノイズに過ぎまい。今回は本人承諾のもとにインタビュー記事を再掲(訳はほぼ一から手直し+未掲載部分もあったので追記)して、確認をとった際に教えてもらった近況も加筆した。以下のインタビューに出てくる『Randal's Friends』のキャラクターにおいてはこちらのページを参照。
[ENGLISH page] https://atochietebura.com/DATA/FEECORANDAL2.html

Lucid 2 より。ファービーになるランダル
https://ranfren.neocities.org/lucid/lucid2/need1

2018年

-ランダルたちの日常とは?
眠っては起きることと同じくらい彼らの日常はシンプルだけど、決められた習慣や予定があるわけではない。やりたいと思った時に『ディディーコングレーシング』をプレーしたり、新しい友達と会ったり、生きることの意味を考えたり。ルーサーのペットたちは主人の下で快適に暮らせればいいと思っているけど、ランダルからすれば退屈なので、彼はより面白いもの(くだらないものだけど)を求める。

-彼らを描き出したのはいつですか。
2010年。色々なキャラクターを描いてるうちにランダルがやってきた。最初からランダル・アイヴォリーという名前だった。

-あなたは(そしてランダルも)90年代の日本のカルチャーがお好きなようですが、どのように映りますか。
(90年代は)携帯電話がまだ当たり前ではない時代で、当時の風景や、それが持つユニークさがいかに描かれているかに関心がいく。今日ほど制作環境にコンピュータが使われていないせいか、アニメのキャラクターデザインやアニメーションそのものにノスタルジーを覚える。『新世紀エヴァンゲリオン』のような作品は背景から着色まで手描きのセル画なので、 その表現全体が心地よい。作り手にとっては大変だろうけど。
 ランダルの場合は外出先だったり兄のルーサーづてに90年代的なモノを見つけるけれど、彼の興味はVHSテープのような古いメディアに限定されている。スマートフォンなどの現代的なメディアに触れることもあるけど、そういう機会は少ない。
服装は古い学生服のように見えるけれど、襟元を見ればわかるように(笑)白いシャツの上に黒いシャツを重ねているだけ。とはいえ、これ以外にも古臭いファッションが多いから、わかっててやってるんだろう。

筆者も「『エヴァンゲリオン』はテレビ版、旧劇場版、なによりもスタッフが原作を無視して作ったゲームソフトが一番だ!」と主張したい

-今日、日本の作品で好きなものはなんですか。
最近のお気に入りはヴィジュアルノベル。特に『ひぐらしの泣く頃に』と『ダンガンロンパ』シリーズが好き。キャラクターの作り込みや、作品そのものを体験する点においてはアニメよりゲームの方が徹底していると思う。
活発なインディー・カルチャーを眺めるのは楽しい。『東方 Project』を2010年から遊んでいるし、ZUNさんの作ったゲームが好きだから新作もプレーし続けている。カナダでこれらの作品を入手するのはちょっと難しいので、オンラインショップなどウェブを経由して買っている。

-普段聴く音楽にも何かこだわりが?
たいていは様々な『東方』リミックスを流している。でも、作業中はより集中できるのと、ストーリーを描く上でのインスピレーションにもなるから、ナレーション付のホラー作品をyoutubeで再生することが多い。音楽ではThrrobing GristleやAphex Twinのような、アンビエント、インダストリアル、エクスペリメンタルと呼ばれている音楽が作業時に合う。

-2018年になりましたが、あなたとランダルたちに予定があれば教えてください。
去年はぬいぐるみを作ったり、アナログのペイントに手をつけていたので、もっとコミックを描きたい。去年の抱負は『Ranfren』の単行本を出すことだったけど、以前ジンを作る時に使った印刷所はなくなってしまったようなので、新しいところが見つかれば今年中に出る (笑)。
ランダルの予定だけど、彼は別の兄弟を探しにお化け屋敷に行ってしまった。 たぶんそこから何か見つけてくるんだと思う。

ブライアン・アダムス「Summer Of '69」を歌うランダル

+α

上記インタビューから5年の月日が経った。『Ranfren』のエピソードは盛んに更新され、あるエピソードからはランダルの夢の中にのみ存在する少年サトルことTsukada Satoru(Satoruは聖と書くようだ)が登場する。アイヴォリー兄弟一行の前に現れたヒッチハイカーなど、密やかに、しかし確実に広がりを見せる明晰夢的ユニヴァースの展開について少しだけ尋ねてみた。

-この5年で『Ranfren』の世界も拡がったように見えます。
スケッチブックにはシナリオの筋書きがたくさんあるのだけど、キャラクター自身が動き出すこともあって、それも描く上の楽しみになっている。

突如登場して瞬く間に(?)ファンアートが作られまくったTsukada Satoru

-Tsukada Satoruは『Ranfren』のエピソード単位、そして世界観そのものがLucid(明晰夢的)であることを思い出させてくれますよ。
Tsukada Satoruはランダルの夢の中にたびたび現れる。ランダルの能力が彼を呼び、やがて自分の意識を持つようになった。だから夢、それもランダル自身の夢の中でしか「本来の」彼に会うことはできない。だからといって、他のSatoruがニセモノだということじゃない!:333

-以前Aphex Twinのようなテクノが好きだと話していましたけど、Boards Of Canadaはご存じですか。夢を創造における起点にしているところがあなたの世界観と似ているのですが。
まだ聴いたことがないけど、たまには知らない音楽を聴くことも好きだから調べてみる。確かに子供の頃の記憶や夢は素晴らしいテーマだと思う。

-最近のランダルのセリフで一番好きなのは「Do Dark Things At The Walmart」なんですけど。
ランダルが現実世界でいうウォルマートのような地元のお店から出入り禁止になるエピソードがあれば面白い。

-今後の予定など、読者たちに向けて何かメッセージがあれば。
 今までは将来のことを考えたりすることは苦手だったけれど、これからも漫画やアニメなど、いろいろなメディアで自然なランダルたちのストーリーを作り続けるつもり。(´・ω・`)

 「もし、このキャラクターたちが対戦格闘ゲーム、あるいはヴィジュアルノベルになったら?」 という疑問から創作が始まる。たとえば勝敗が決まった時にとるアニメーションがどんな風になるのか、それを想像しながら描いたりアセットを作るのが好きだし、楽しんでいる。(´・ω・`)また、みんながこんな風にキャラクターやストーリーを作っていけばいいとも思う。
個人で進めているから、企業が作っているもののようなペースでは発表できないけど、それは外の世界と関わって得たものを自分の芸術へ還元していくことでもある。自分はかなり直感的な…INFP(※)な性格だということ(´・ω・`)

※INFP..."内向的(introverted)、直感的(intuitive)、感情的(feeling)、展望的(perspective)の頭文字をとったものである。繊細で創造的、理想主義的であり、夢想家に分類されると考えられている。"  (Dictionary.comより引用・訳)

なお『FEECO』vol.2はcaptainによる3ページ漫画を収録しているので、この機会にどうぞ。
また、2023年9月にcaptainによる表紙イラストと2ページマンガを収録した『The Dream's Interval』という冊子も作りました。以下のページから内容を確認したり、買ってみたりしてください。
※2024年2/28追記
新作『Somnambulant's Still Asleep』も完成したので下記リンクからチェックしてみてください。


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