平塚は50代以上の人から選ばれている
1.平塚の転入者の現状
最近、色々な自治体が「子育て世帯から選ばれる街にしよう」とあれこれ施策を行っています。
平塚もその例にもれず、「湘南で子育てするなら平塚市」というキャッチフレーズで子育て年代の移住を呼びかけています。
実際、平塚は最近転入者が増えています。
転入者から転出者を差し引いた数を示す「社会増減」は以下です。
2016年以降、明らかな社会増(転入者のほうが多い=転入超過)になっています。(厳密には2015年から。2015年は+3なのでグラフだと見えない)
つまり、市外から平塚に引っ越してきている人が多いということです。
これは平塚市がやっているシティプロモーションや子育て世帯向けのプロモーションの成果なのでしょうか?
2.転入増はプロモーションの成果か?
それを確かめるため、年齢階級別に転入超過数を見てみましょう。
ほぼ全世代的に転入超過になっています。唯一、20~24歳が転出超過になっているのは、就職を機に平塚を離れている人が多いからだと思われます。
主に子育て世帯にあたる30代、そして一緒にやってくる乳幼児が転入超過になっているので、子育て世帯の流入施策は一定の成果をあげていると言えそうです。
しかしながら、これは平塚だけなのでしょうか? 近隣の茅ヶ崎や藤沢も同様のキャンペーンや施策をうっています。
そこで神奈川県全体で年齢階級別の転入超過数を見てみます。
神奈川県全体では平塚が転出超過になっている20~24歳が大幅な転入超過になっていて、平塚はこの層からはそっぽを向かれていることが分かります。
逆に30代は県も平塚も転入超過になっています。
つまり、平塚の30代及びそれに伴う乳幼児の転入超過は、神奈川県の持つ増加要因によってもたらされているほうが強い可能性が高く、平塚独自の魅力によるものではないかもしれないということです。
実際、東海道沿線で平塚と競合関係にあると言える茅ヶ崎や藤沢と比較すると、30代の転入超過数は以下のようになっています。
平塚は子育て世代に関しては、藤沢や茅ヶ崎に後れをとっていることが分かります。
神奈川県の多くの市町村(基本的には郊外)で子育て世代は転入超過になっており、そのパイの奪い合いの結果、平塚にある程度の人が流れてきているというのが実態だと言えます。
公示地価平均を見ると(土地代データ)、
平塚 15万5778円/㎡
藤沢 23万3563円/㎡
茅ヶ崎 21万7910円/㎡
となっており、平塚はこの辺では住宅がお手頃に買えるのが特徴です。
したがって、子育て世代の中で所得層のやや低い層が藤沢や茅ヶ崎を避け、平塚に来ている可能性があります。プロモーションの成果というよりは、経済的要因のほうが大きいのかもしれません。
3.中高年層からの支持
ところで、先ほどの神奈川県全体の年齢階級別転入超過数と平塚市の年齢階級別転入超過数を見て、県と市で明らかに傾向が違うところがあるのにお気づきでしょうか。
20~24歳は先ほど触れましたが、もう1つ違うところがあって、それは中高年以上の世代の動きです。
県全体では50代以上が転出超過になっているのにも関わらず、平塚は50代以上も転入超過になっているのです。
年齢階級別の転入超過数で平塚市が県内何位かを調べると、以下のようになります。(33市町村中)
0~4歳 4位
5~9歳 4位
10~14歳 4位
15~19歳 7位
20~24歳 16位
25~29歳 15位
30~34歳 7位
35~39歳 6位
40~44歳 7位
45~49歳 2位
50~54歳 1位
55~59歳 1位
60~64歳 1位
65~69歳 3位
70~74歳 1位
75~79歳 2位
80~84歳 3位
85~89歳 7位
90歳以上 5位
50代~60代前半までは県内トップの転入超過をほこっています。
これは県の動向とは逆に動いており、近隣市との競争にも勝っているわけなので、平塚市の持つ特徴が強みになっていることがうかがえます。
この要因として考えられる1つの大きな特徴は、先ほど書いた「地価の安さ」です。
地価が安いということは不動産購入費も安く、賃貸の家賃相場も低くなることを意味します。
こちらの記事によると、
(50代から考える「終の棲家」② 老後の住まいは都会派?郊外派?シニアが暮らしやすい街とは)
移動や買い物のしやすさ、不動産価格の安さなどがシニア層が住む場所を考える重要な要素になっているようです。
平塚は大きなスーパーも多く、平地が多いので移動が容易です。東部、南部は道路も広いところが多いので、車での移動もしやすい傾向にあります。加えて、不動産価格が安いため、中高年層が湘南エリアへ移住を考えると藤沢や茅ヶ崎ではなく、平塚を選ぶという傾向があるのではないでしょうか。
今度はこれを確かめてみましょう。
平塚へやってくる人は、多くが県内の人です。県外となると東京が多いのですが、平塚の毎年の転入数の10%ほどしかおらず、50%は県内の人が転入してきています。
県内で一番多いのは横浜からやってくる人です。次が藤沢、茅ヶ崎、秦野、伊勢原といった近隣市町村になります。
ここでは率が一番高い横浜に注目します。
もし地価(不動産価格)と関係があるのであれば、横浜と平塚の地価の差を見ることで関係が分かりそうです。
ちなみに、平塚の2011年以降の公示地価平均は14万2859円、横浜は29万6242円で、横浜のほうが常に地価は高く、基本的に上昇トレンドにあります(平塚は下降している年が多い)。したがって、地価の差が広がれば広がるほど、横浜と比べて平塚はより割安感があるということになります。
というわけで、平塚と横浜の地価の差と平塚の転入超過数を散布図にしてみます。
これを見ると、横浜との地価の差が広がれば広がるほど転入超過数が増えている傾向があることが分かります。
つまり、近年の平塚の転入超過(社会増)には、都心部の地価高騰の影響がありそうだと言えます。都心部に家を持っていた中高年層が、より割安で生活のしやすい環境を、と探す中で平塚に来ているのかもしれません。これは昨今の物価高騰、実質賃金の低下なども影響している可能性があります。
4.地価が安い要因
平塚は公示地価が今年は相当久しぶりに上昇しましたが、それまでは長く前年減を続けていました。地価が下がる要因として一番考えられるのが需要の低下です。
ところが、平塚の住宅数は年々増えています。5年ごとに行われる住宅・土地統計調査(総務省)によると、住宅数は
2003年 107,260戸
2008年 109,700戸
2013年 114,980戸
2018年 122,830戸
となっています。
肌感覚としても、新設マンションのチラシがしょっちゅう入ってきますし、家が増えているんだろうなと思います。
世帯数は増えているので、ある程度需要も増えているのだとは推察できますが、居住が無い住宅、いわゆる空き家の数も増えてきています。
同調査で居住なし住宅数を見てみると、
2003年 13,400戸
2008年 9,920戸
2013年 13,040戸
2018年 14,100戸
となっていて、近年空き家が増えていることが分かります。
つまり、供給数が増えているのに、価格が下がっているわけですから、需給バランスでは「供給過多」になっている可能性があるということです。これが地価の安さの一因かもしれません。
平塚は新しい住宅を次々と建てることで需要以上の住宅供給が行われ、その結果地価が下がり、所得の低い層や中高年層から選ばれる街になっているということが言えそうです。特に中高年層からの支持は、平塚が1位ですから、特別な現象と言えるでしょう。
ただし、需要増が影響しているのか今年地価が上昇に転じましたので、このまま上昇トレンドが続くようだと地価の安さというアドバンテージを減らしていく可能性もあり、どうなるかは分かりません。
5.まとめ
まとめると、
平塚はほぼ全世代的に転入超過になっている
子育て世帯の流入は近隣市町村より弱い
中高年層の流入は県内トップ
要因としては経済的要因や地価の安さが考えられる
地価の安さは供給過多が原因かもしれない
今後の地価の動向が平塚の社会増減を決めるかもしれない
といったところです。
経済的に考えると、地価が下がり続けるのは好ましくありませんので、地価が低いことによる転入超過が良いのかというと疑問符がつきます。
地価が低いからという理由で流入してきた人々は所得があまり高くない傾向にあるでしょうから、税収への影響も小さくなりがちだと想定されます。
このような経済的要因に依存した流入は、状況が変われば転出超過に変わる可能性をはらんでいます。ですので、できるだけ持続可能な安定した流入を考えるなら、経済的要因によらないものを構築していく必要があるでしょう。
交通の便やブランドイメージでは茅ヶ崎や藤沢に劣る部分があることは否めませんので、それ以外の部分でより大胆な施策をうっていくことが人口流入の増加には必要ではないでしょうか。
今回は検討しませんでしたが、例えば保育園を増やして間隔を狭め、どの地域からでも預けやすくする、そのために保育士の待遇改善を大胆に行うといったことや、バス路線の拡充、コミュニティバスの増設・増発なども生活のしやすさにつながっていくでしょう。
今いる市民が住み心地が良いと思えば思うほど、市外からも人はやってきます。流入人口を増やすためには、既存住民の生活環境を向上させるのが大切です。
急がば回れ、ではありませんが、転入者を増やすには、まず今いる市民の生活環境へのニーズをくみ取って、それを施策に反映させていくことが大切ではないでしょうか。(了)
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