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アルファ化米の作り方と食べ方、なんで水だけで食べられる?

こんにちは。
今日のテーマは「アルファ化米」です。みなさん、アルファ化米ってご存じですか。
アルミのパウチに入ったごはんのことです。食料品店ではあまり見かけませんが、ホームセンターのアウトドアコーナーや、防災用品コーナーにあります。お米は、水を加えて加熱しければ食べられませんが、アルファ化米は水されあれば食べられるようになります。

アルファ化米とはどんなもので、なぜ水だけで食べられるようになるのか、説明していきます。

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お米は炊かないと食べられない

「生麦・生米・生たまご」という早口言葉をご存じだと思いますが、生麦も生米も食べられないって知ってました? 生麦も生米も主成分はでんぷんですが、人間は生のでんぷんを消化できないのです。

でんぷんはグルコースが数百から数十万個、鎖状に連結してできています。そして唾液や膵液に含まれるアミラーゼという消化酵素が、でんぷんをグルコースにまで分解するのです。

生のでんぷんはでんぷんの鎖と鎖が密になっていて、消化酵素がこの鎖に近づくことができないため、分解されません。でんぷんの鎖と鎖を引き離し、消化酵素が入るためのすき間をつくるには、水を加えて加熱する必要があります。

お米の場合は「炊く」、もち米の場合は「蒸す」ことで、でんぷんの鎖と鎖の間に水分子が入り込み、全体の体積が増えて、ふっくらした状態になります。これを「糊化(こか)」または「アルファ化」といいます。炊いたごはんは、糊化したでんぷんです。

糊化と老化

炊いたご飯をラップをかけずに置いておくと、水分が蒸発してカピカピになり、固くて食べられなくなります。当然美味しくありません。

糊化したでんぷんから水分が蒸発して、生でんぷんの近い状態になることを「老化」または「ベータ化」といいます。

老化したでんぷんでは、でんぷんの鎖と鎖の間にあった水分子がなくなり、でんぷんの鎖どうしが強固な結合をつくるため、生でんぷんと同じように固くなってしまいます。水を加えて再び加熱すれば、糊化した状態に戻らなくはありませんが、完全にもとの状態にすることは困難です。

このようにお米は、水を加えて加熱することで食べられるようになりますが、そのまま放置すると水分が蒸発して、また食用に適さない状態になります。

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食べられる状態のお米を長期間保存できないか検討し、その結果生まれたのが、アルファ化米なのです。

アルファ化米は糊化(アルファ化)した状態で水だけを抜いたもの

アルファ化した状態から水が抜けると老化し、でんぷんの鎖と鎖が引っ付いてしまうことを説明しました。でも、アルファ化した状態から水を抜くとき、真空状態で素早く乾燥すると、でんぷんの鎖はもとの形を保ったまま、水分子だけを抜くことができます。この状態がアルファ化米です。

そしてこれに水またはお湯を加えると、もとの糊化(アルファ化)した状態に容易に戻ります。

アルファ化米

市販されているアルファ化米の場合、お湯を加えると15分で、水の場合でも60分で、炊いた状態に戻ります。またアルミコーティングされた容器に入っているため、製造から5年という長期間、保存することができます。

ところで「アルファ化米」という名前、だれが付けたのかわかりませんが、あまりよくない名前です。

なぜなら、炊飯したふつうのごはんが「アルファ化したお米」なのです。すぐにアルファ化した状態になるので、アルファ化米と名付けたのかもしれませんが、わかりにくいです。

そもそもアルファ化なんてことば、栄養学やでんぷんの専門家でなければ、知りません。ちなみに国内でアルファ化米を製造している会社は5社ありますが、マジックライスという名前で売っている会社もあります。こちらの方がわかりやすいかもしれませんね。

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でんぷんの老化を防ぐ方法はほかにもある

アルファ化米は、炊いたご飯を急速に真空乾燥することで、でんぷんの老化を防いでいます。でんぷんの老化を防ぐ方法は他にもありますが、長期保存ができるのはアルファ化米だけです。

●急速に冷凍する

炊いたご飯を冷凍すれば、数日は保存できます、食べるときには電子レンジで加熱することで、炊き立ての状態(アルファ化したお米)に戻すことができます。これはご飯を急速冷凍すると、でんぷんの鎖と鎖の間にある水分子が、その場で凍ります。そのため、でんぷんの鎖と鎖が引っ付くことなく、保存が可能になります。ゆっくり冷凍すると、でんぷんの鎖と鎖の間の水分が外に出てしまうため、でんぷんの老化が起きてしまいます。

●保水性のある物質を加える

酢飯やあんこにいれる砂糖、コンビニのおにぎりに入っているトレハロース、和菓子や加工食品に入っているCMC(カルボキシメチルセルロース)。こられはいずれも水と結びついて、しっかりと水を保持する力(保水力といいます)があります。酢飯にはお酢と砂糖が入っていますが、砂糖のおかげで、ごはんが乾燥するのを防いでいます。また小豆のあんこに入っている砂糖も、水分と結びついているため、あんこがいつまでもしっとりとしています。トレコロースもCMCも保水力が強く、食品が乾燥しでんぷんが老化するのを防いでいます。

●でんぷんの鎖を化学変化させて、鎖どうしが引っ付くのを防ぐ

老化はでんぷんの鎖と鎖が引っ付いて、固くなることです、これはでんぷんの表面にある水酸基どうしが、水素結合することで起きます。そこでこの水酸基を化学薬品で別のものに置き換えることで、でんぷんの鎖どうしが引っ付くのを防ぐことができます。この目的で使われるのが加工でんぷんです。加工でんぷんには12種類あり、いろいろな食品で使われていますが、物質名ではなく「加工でんぷん」と表示することが認められているため、表示欄を見ただけでは、どのような加工でんぷんが使われているのかわかりません。また何のでんぷんなのかも、多くの場合、表示されていません。加工でんぷんについては、また別の機会に詳しく解説したいと思います。

いかがでしたか。アルファ化米とは炊いたご飯を真空乾燥することで、でんぷんの鎖と鎖が離れた状態のまま乾燥させたもので、水を加えることで、炊いた状態に戻せるものです。

いざというときのために、ストックしておくのもよいと思います。味も悪くないので、一度食べてみてはいかがでしょうか。

まとめ

・お米は生の状態では食べられません。でんぷんの鎖と鎖が密に詰まった構造をしているため、消化酵素で分解できないためです。
・お米に水を加え加熱すると、でんぷんの鎖と鎖の間に水分子が入り込み、やわらかくなります。そして消化酵素がでんぷんの鎖に近づけるようになるため、消化・吸収できるようになります。でんぷんに水を加えて加熱し、やわらかくすることを、糊化またはアルファ化といいます。
・糊化したでんぷんを放置すると、水分が蒸発し、でんぷんの鎖と鎖が引っ付き、固くなります。このことをでんぷんの老化またはベータ化といいます。老化したでんぷんは、食用に適しません。
・アルファ化米は、炊き立てのお米を真空乾燥することで、でんぷんの鎖と鎖が離れた状態のまま、水分だけを蒸発させたものです。水やお湯を加えることで、炊いたごはんの状態に戻すことが可能です。アルファ化米は製造から5年間保存することができ、水だけで調理できるため、非常食として重宝されています。


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