HirasawaYui(Delusion)

delusion: 惑わし、欺き、迷い、惑い、妄想、思い違い

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最近の記事

『悪は存在しない』

この作品は善悪のエコノミーの提示とそこからの脱出が描かれている。 芸能事務所がグランピング場を作る、という話になった時、観客は登場人物と共に善悪のエコノミーに巻き込まれていく。こっちが悪くてこっちが良いといった具合に。 しかし物語が展開すると芸能事務所から派遣されてきた人にも良心があり、実はタイトルの通り悪は存在しないのでは無いかと錯覚させられる。この時点で我々は善悪のエコノミーの中で「悪は存在しない」という評価を下している訳だが、このような方向性、つまり善悪のエコノミー

    • 不完全な存在としての人間(多分前半)

      人間は不完全な存在である。ありふれたこのような言説に関して、ふたつの異なる事象、麻雀と(気が向いたら)攻殻機動隊・イノセンスから検討してみようと思う。 ​─────── 麻雀は確率のゲームである。誰もがこの事実自体は認めるだろう。牌がくじ引きのようにしか持って来れない以上、特定の牌を引けるかどうかはランダムである。自身にとって都合のいい牌を持ってこれる確率というのを基本的には最大化しながら、パズル的に何を捨てるかを選んでいくのが麻雀だと言っても差し支えないように思う(ここ

      • 運命の自由論

        私は浅い知識で話し始める。これは予防線ではなく、単にそうなのであり、それ以上の意味は無い。それでも語り始めるのは、人間に自由の領分を残さねばならないからだろう。 物理学とは、かつて未来を決定する学問であった。初期条件を与えた時にどのような未来が生じるかを決定すること、それが物理学の原初的な動機であった。未来を現在に従属させ支配すること、それこそ人類が目指した地平である。 粒子レベルの運動まで決定された時、人間の行動は十全に決定されてしまう。このような意味で古典的な物理観に

        • 小説『ニムロッド』紹介──書くこととその挫折について──

          P.N.ピエール・アンジェリック 本稿では以下の書籍から引用する。 ・上田岳弘『ニムロッド』講談社、二〇一九年 ねえ中本さん、僕は思うんだけど、駄目な飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。でも、もし、駄目な飛行機が造られるまでもなく、駄目じゃない飛行機が造られたのだとしたら、彼らは必要なかったということになるのかな?(p.33) *** ビットコインは取引履歴を記載することで価値を担保されている。概ねそのような話からこの小説は始まる。実際のビットコ

        『悪は存在しない』