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20240221 よこしまエントリー

あるときキングオブコントの予選に参加したことがあった。何しろ賞金が一千万円の賞レースである。演劇のコンペでも100万円や50万円の賞金が出るものはあるが、1000万円となるともう文字通り桁がちがう。

▼「公演資金の足しにしよう」というあさましい考えを元に、俳優の友人と二人でキングオブコントにエントリーした。同期に一人熱狂的なお笑いオタクの者が一人いて、事情を話すと「これをきっちりやれば一回戦突破は固いと思いますよ…」というネタを二本用意してくれた。

▼しかし私たちは愚かだった。予選を控えたある日、カラオケでああでもないこうでもないとこねくりまわしながら稽古をしていたら、気がついたときには原型がなくなるほどにネタをアレンジしてしまっていた。元々サラリーマンの先輩と後輩みたいな設定のネタだったはずなのだが、気がつくと泥棒の先輩と後輩みたいな設定に変わり、いかにして空き巣に入るかの大喜利をつづけるネタになってしまっていた。

▼予選当日、新宿にある劇場に行ってみると会場が芸人さんたちで一杯だった。出番までは時間があったので、近くの公園に行って最後のネタ合わせをした。ネタを書いてくれた同期は私たちによってアレンジにアレンジを重ねられて変わり果てた姿となった自分のネタを目の当たりにして言葉を失っていた。きっちり書かれていた通りのネタをやれば彼の言葉どおり一回戦くらいは通ったのかもしれない。作家に対して悪いことをしてしまったと今は思うが、当時はそんなことすら考えられないくらい二人ともテンパっていた。

▼出番が近くなり、舞台の裏へと進むと薄暗い袖のなかでMCのネゴシックスさんが気だるそうにスマホをいじっていた。他の芸人さんたちもウケたりウケなかったり、中には我々みたいな賑やかしも混じっているので三分間のネタのあいだ、ひとつも笑いが起こらないことも多かったのをなんだか覚えている。テレビで観る決勝戦とはまるでちがう、玉石混淆のキングオブコント一回戦の異様な雰囲気。自分達の出番が終わると、しばらく謎の腹痛で立ち上がることができなかった。今まで味わったことのない緊張で胃酸が出まくっていたようだった。

▼そんななかで、楽屋で聞いていても分かるほど、客席がドン!!と沸いたコンビがその日一組だけいた。ドラマ24のジャック・バウアーのモノマネでお馴染みのどきどきキャンプさんだった。今となっては「オードリーのオールナイトニッポンの構成作家の佐藤満春さんとあんなところですれ違っていたのか!」という感慨もあるのだが、やはりお笑いのプロは笑いの取り方がちがうのだということを楽屋で肌で理解した瞬間だった。もちろん予選は敗退して賞金の獲得はならず(ダウ90000さんとかは本当にすごいと思う)、もうこりごりかと思いきや、後日とあるお笑い事務所のオーディションを今度はトリオで受けに行ったりすることにもなるのだが、それはまた別の話である。

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