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架空⭐1レビュー(古賀コン第六回応募作品)

 世の中には、理解しがたい理由で商品やサービスに⭐1の評価をつける人間がいるようで、そういう理不尽なことがあると話には聞いていても、まさか自分の身に起きるとは思わないわけでございます。そんな、ラーメン店主のおはなしを一席。
 この方、人生なめていたと後悔しきり、脇が劇甘だったなどと自分を責めています。恨みを買うような心当たりなんてひとつもないと思っていたのは壮大な勘違いだった、と振り返っておるわけです。
 が、しかし。はたと気づきます。考えてみればみるほど、自分は悪くない。機嫌が悪かったとレビューに堂々と書く人間だ。低評価はあいつのせいだと非難すればいい。だが、と考えます。関係が悪化するのは避けたい。知り合い、というか身内だから――。

 ぶっちゃけると弟だ。しかも生き別れの。
 三日前、あいつはふらっと店にやってきた。
 開口一番、「よっ、久しぶり。店始めたんだ、旨そうじゃん」だよ。誰だか判らなかったんだよ。かつての常連さんかなと思ったけど、鼻に5つくらいピアス入れてて、それを抜きにして考えても(あっ、ピアスない状態を思い浮かべても、ってことね)、常連さんではあり得ない。誰か判らないからとりあえず注文どおり作って出して、おまちどうさま、って言ったの。そしたらさあ、突然キレるわけ。生き別れの弟が来たってのにその態度は何だよ!とか言うわけさ。驚いたのなんのって。
 そういえば克哉っていう弟がいたような?って思って、そう言ったらこれまたキレる。克哉じゃねえよ!達哉だよ!って顔真っ赤にして叫ぶから、あれそうだったっけ?って思ってさ、まあ何でもいいから食べて、って言ったの。だってラーメンだよ。のびちゃうじゃん。そしたらまたキレるキレる。キレっキレだよ。触ると血が出るよ。
 あんまり叫ぶもんだから出てってくれっつって追い出したんだけど、十分後には⭐1になってたね。
 あり得ないくらいマズい。金返してほしい。俺を不機嫌にさせた責任を取れ、だってさ。
 言っとくけどあいつ何も食べてないし金も払ってないからね。何を返せと? いや返してほしいのはこっちだよ。優良店バッジ、頑張って頑張って手に入れたのに、⭐1のせいで没収されちまったよ。返してくれってんだよマジで。

 で、相談ってのは、この場合、⭐1を撤回してもらうことってできるんすかね。えっ、できない? じゃなくて? そういう相談には応じられない? なんで? 

 はあ……マジすか。

 生活支援に関する相談窓口だから、具体的な申請の方法なら伝えられるけど、例えば児童手当てとか生活保護の申請しか受け付けられないと。
 なるほどなるほど。なるほどね……。

 ちっ、役に立たねえな。

 あっ、いや何でもないっす。どうもお邪魔しましたね。へいへい退散しやすよ。

 ふざけるなってんだ、誰がおめーらなんか頼るかよ、⭐1にしてやる!


おあとがよろしいようで……。
……チャカチャンチャンチャンチャンチャンチャン……

おわり

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