見出し画像

六枚道場第五回 感想 グループGからH

引き続き感想です。個人的な感想であり、自分はこう読んだという以上のものではありませんので、繰り返しになりますが記しておきたいと思います。この記事ではグループGとHについて書きました。ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

グループGはこちら

「正解社会」

風刺が効いていて面白かったです。昨今の情勢を織り込んで、なおかつ普遍性も担保されたお話。職場に行くこと(出勤すること)によって給料が発生する現行の法制度のもとでは、天変地異さえも出勤しなくてよい理由にはならない。では出勤しなくてよくなるのはどんな場合か。その答えが書かれています。登場人物のフラストレーションと読者のフラストレーションがともに高まったところでストンと落とす。控えめに言って最高です!

「席替え」

「暴れゴリラ」と同様、空気にまつわるお話ですが、こちらは空気が主題だと明確にしています。席替え自体が空気を変えるものであり、そのことを書いているかと思いきや、席替えは始まりにすぎないのです。本当の主題はここから。地味なクラスメイトだと思われていた成宮渉が怖すぎる…! 実は彼が全部仕組んだのでは?とさえ思うほど。このあとの展開が予想できてしまって悲痛な気持ちになります。願わくは、転校生が再度空気を変えてくれますように……!

「あんたなんかもう要らない」

切ないですね。つくづく人間は愚かだなあとため息をつきました。ガン治療の一環で作ったはずなのに、気づいたら自分の欲求を満たすためだけに使っている。アンドロイドなのか、別の呼称があるのかわかりませんが、使われたものたちの叛乱です。逃げ出して人間に復讐するつもりなのか、ただ生をまっとうしたいのか……この先がとても気になります!

「安らぎたまえ、シークエンスの獣よ」

シークエンスという言葉のイメージから、あらかじめプログラムされた何かを思い浮かべました。プログラムに沿っていれば安心する人も、居心地の悪さを覚える人もいるでしょう。どこまでがプログラムされた行動でどこからが自分の意思によるものなのか。自分の意思だと思っていても、ただ流されているだけかもしれません。流れをつくるのはプログラムなのか、空気なのか、それとも空気もプログラムされたものなのか? 終盤で仕事をやめようと決意した主人公は、自分の意思で決意したのか単に流されたのか。たぶん誰にもわからないのだと思います。誰がつくったかわからない大いなる流れが世の中にあり、それに翻弄される私たちを描いていると思いました。

グループHはこちら

「有毒植物詩」 

ツイッターでも拝見している有毒植物詩。毒があるというと避けてしまうけれど、世の中に生きるすべてのものに寄せる優しい視線がとても魅力的です。幻想的で美しい詩の数々を楽しませていただきました。全部素敵ですが、とくに好きなのはトウアズキとドクニンジン。トウアズキは神秘的ですらあり、古い教会に掲げられた宗教画のようです!

「最近のぼくらは」

よかったです! ここ最近、科学の進歩って本当に進歩なのかなと思うことが増えたので、同様の疑問を投げかけているように感じました。それは自分自身についても同じで、過去の自分のほうがすごいと思うこともたくさんあります。この先過去の自分を超えられるのかと考えることもあるので、眼の検査はとくに刺さりました。地軸の詩は長野まゆみさんの『天球儀文庫』を思わせる幻想的な雰囲気をたたえています。この詩が好きな方は『天球儀文庫』も気に入ってくださるかもしれません。オススメします!

「いつまでもそばにいられたらよかったのに」

一字下げた行と、下げていない行との組み合わせから、亡くなった誰かを悼む詩のように感じました。心のぽっかり空いたところを満たしてくれる、悲しいときに寄り添ってくれるような優しい詩です。ほねよりしろいひかりをもやせ、は骨に含まれる燐の光を思わせます。きみをつめたるふくろのかるさ、からは、遺体が見つかっていないか、最期の別れができないまま火葬されてしまったのかも、と感じました。

「ゆーとぴあ」

わくわくしながら読みました。くすりと笑ってしまう詩も、(ていねいに餃子をたたんでよきつね)ふわあ~っと嬉しい思いがふくらむ詩も、(ふとんのようなおもちのようなふね、パンの中からパンあふれだすゆめ)それからちょっと風刺が効いた詩も、(しあわせないぬとテプラで貼ってある、観光地としてのかいじゅうの死体)それぞれがとても愛らしく、幸せな気持ちになりました。


以上で第五回六枚道場の感想を終わります。今回はジュブナイルものっぽい作品も多かったし、また社会情勢を反映した作品や、実際の事件に着想を得た作品もありました。言ってみれば世の中を覆う不穏な空気に逆らうような、変わろうとするものを受け入れるかどうか悩んでいるような。変化が良い方向にいくかわからないという不安が現れているのかもしれません。

投票はしようと思ったのですが気づいたら期間が過ぎてしまっていて、今回もできませんでした。

次も楽しみです!

🔥おしまい🔥

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?