六枚道場感想 第八回
今回は2週に分かれて作品が公開されました。ものすごく久しぶりにすべて読んで投票しました! 投票期間が終了しましたので、最後に投票作品を記します。感想は以下のとおりです。繰り返しになりますが私はこう読んだ、というものに過ぎませんので、お含みおきいただけましたら幸いです。
グループAはこちら
「四月四日」
ヘラジカの詩と、指の缶詰の詩が好きです。指の缶詰なんて、と不気味に思われるかもしれませんが、恋の詩なんです。恋に落ちて、恋に破れる。恋の始まりと終わりを書いた詩です。ヘラジカもそうです。こちらは叶わぬ恋、行き場なく浮遊する思いを書いた詩だと思いました。今、コロナ禍にあって、生きるのは苦しく辛いことです。それでもみんな生きてほしい、当たり前の日常をいつか取り戻すために、という強い思いを感じました。
「うたかた」
俳句が始まる前に詞書きがあって、これは遺書だとわかります。怒り、悲しみ、なぜ自分が、という消えない疑問。名指しで誰かを非難してはいないけど、この遺書を読んだら、どれほど酷い目に遭っていたのかと誰もが絶句するでしょう。とくに学校関係者、部活の顧問とか、担任教師とか。
「百合八景」
これ、すごく好きです! 表現はグロテスクかもしれないけど、まったくグロテスクさを感じさせないのが凄いです。長野まゆみさんの『天球儀文庫』を思い起こしました。いや、全然違うんですけどね、自分のなかではつながっているのです(笑)内臓とオナラと生首。とくに好きな詩です!
「みそひとづくし、あるいは割引券くらいもらえるかもしれないと思う。」
サーティワンアイスクリーム讃歌です。愛があふれています。サーティワンアイスクリームはあまり食べていなくて、フレーバーがよくわからないのですが、わき立つ気持ちは分かる気がします。アメリカのイケてる文化のひとつだと思っています。このなかでいちばん好きなのは、アイスクリームをひっくり返して泣く子どもの句。ダブルで頼んだ地球を手に、泣き止む子どもが目に浮かびました。
グループBはこちら
「幻の竜」
面白かった! ひょっとしてレビイ小体認知症でしょうか。幻覚、幻聴があるとどこかで読みました。その可能性を考え、飛んでいったと言う親友。二人の関係は、そのときどきで変化しながらも本質的には変わらない。この先、囲碁すら打てなくなるときが来るかもしれません。ひょっとしたら二人とも認知症になってしまうかも…。それでも、お互い碁盤の前に座るのだろうと思えました。
「黒の衝撃」
すごく良かったし、カッコよくてドキドキしました。とくに剣にこだわらず勝負にこだわった後半。そして闇に呑まれる結末。このあとも、彼はずっと闇に生きつづけるのでしょう。いつか闇から抜け出す日が来るのなら、それも読んでみたいと思いました。
「ガソリンカレシ」
かわいかったです。二人の関係も、女の子の心情も。溝に嵌まってしまうの、なんかわかります。黒づくめカップルの女性も足をとられたみたいだったし、なんですかね、視認の仕方の問題なのかな。新しい通学路にするかまだ迷ってるのかな、という感じの終わり方だと思いましたが、何事も、その「途中」がいちばん楽しい気がします。
グループCはこちら
「しんどいのは嫌い」
面白かったし、とても良かったです。サッカーやめると言い出せなくて軽音部に行ったらそっちの方がしんどかった。なんだかんだ言ってもサッカーはしんどくないんですよきっと。終盤、DFに追いつかれた場面でウワっとなって、マジか、点取ってほしい、と思いながら読んだら点が入ってよかった(笑)もう一点とってほしいですね! 達成感があり、読んでよかったと思う作品でした。
「ワールズエンド•ラストショット」
犬の子孫が支配する星に降り立ったアイリーンと犬と、なぜか魔改造猫による三つ巴の戦い。アイリーンが送り込まれてきたのはわかりましたが、猫がなぜアイリーンをつけてきたのかはよくわかりませんでした。なぜ突然、猫と犬が威嚇しあうのかも。ただ、威嚇しあうところはすごくよかったです。終末を迎えてもなお世界は存続している、そう思った作品です。
「おもいかえせるかぎりでは」
こちらも終末世界のお話だと思いました。「生体反応!」と叫びつづける機械が探知する「生体」は何なのか? みんな生きた人間じゃないの?と思って、もしかしたら地縛霊みたいなものなのかな、と思い直しました。生体反応!と叫んで緑色に光った機械が、お父さんが帰ろうと言ったときだけ青く光った。お父さんのせいなのか、魚に反応したのか。そもそも青く光るのはどういうことなのか? 疑問は尽きません。あるいは、主人公の少年だけが生体で、何らかの理由でこの世界にいるのかも。いろんな要素が詰め込まれていて、同時には存在し得ないものを一緒に描いた絵画のようだと思いました。
グループDはこちら
「午後一時、スマイルマート花岡店」
面白かったです。町田くんパワー、すごい。ニページ目の最初の段落と次の段落は入れ替えてみてもよいかも。あとこれ、アルバイトかなと思ったのですけど(週一日でもいいとねばっていたし)、正社員なんですかね? 就活が失敗した、スマイルマートで働きたい、週に一日でもいい、となれば、とにかくスマイルマートで働きたい、正規非正規は問わない、ということなのかなと思いました。違ったらすみません。
「“Warum?” op. 12-3」
喪失感にあふれたレクイエムだと思いました。タイトルはドイツ語で「なぜ、どうして」の意だそうですが、思春期にありがちな暴走を描いて「なぜ」と問いかけながら、いちばん知りたいのはなぜ志村けんさんが亡くなったのか、なぜ自分は彼のいない世界を生きているのか、ではないでしょうか。第七回の作品をさらに洗練させて組み合わせ、まるでパラレルワールドが交差するように、志村さんのいる風景を描き出しています。最後の三行、検索してみたら、F.A.E.ソナタの「自由だが孤独に」を意味する言葉のようです。常にともにあった人を失い、その人に囚われない自由は得たが、同時に孤独になった。もしかしたらJも、(ひょっとしてDも?)実在しない、あるいはすでに思い出のなかの人、なのかもしれません。蛇足ながら、作品タイトルは曲名でもあり、その曲を収めたアルバム名でもある様子。ただ、op. 12-3が12インチの3曲目なら、12インチCDはAB面ともに2曲ずつしかなく、3曲目がなんなのか気になります。まったくの見当違いでしたらすみません。
「タオル」
タイトルが意味するのは、ボクシングの試合でセコンドが投げ入れるタオル。熱情だけでやっていた事業を続けられなくなったとき、下すべき決断は投資を引き上げること。それがタオルを投げ入れることだと思って読んでいたのですが、最終的に投げ入れることにはならず、肩透かしを食らったような、梯子を外されたような、なんともいえない読後感でした。熱に浮かされてはいけないと言いながら、結局熱に浮かされてたんじゃん、みたいな感じですかね。問題の事業は畳むのだからと頭ではわかっていても、モヤモヤが残ります。6枚でここまで結論を出さなくてもよかったのかもしれません。
グループEはこちら
「結び」
学歴なんて、と言えるのは学歴がある人間なんですよね。仕事でも学歴で採用されてる実感はないし、試験なり面接なりで選ばれたと思っている。でも試験や面接にたどり着く前に、すでに選抜されているのです。職種によっては学歴より仕事を覚えられるか、現場監督なら職人を使えるかが大事ということもあるでしょう。その両方が書かれているように思いました。先輩からの洗礼を受けながら、父親は何が楽しかったのだろうと思い返す主人公。結末で父親を理解する瞬間が白眉でした。
「最後の光学」
とても哀しく切なくて、美しいお話でした。時空を行き来しながら、主人公は何かの「おとしまえをつける」ようなことをしていて、その何かは仙台藩のキリシタン殉教と関係している…あるいは、それ以前から綿々と続く圧政の歴史を終わらせようとしているのか? そんなふうに読めましたが、本当はもう倒すべき相手などいないのかもしれません。引き金を引かなくてはいけない、その思いだけがとどまり続ける哀しみ。
「踏みにじられた夏」
読んでいて胸のあたりがきゅっとなって、息ができなくなるような、とても苦しい気持ちでした。でも読んでしまう。「正しい」「ちゃんとした」大人たちがすくえない(救えないし掬い取れない)子どもの気持ちを鮮やかに描き出していると思いました。
「こどもの証」
面白かった! ずっと未来のお話? 終末世界? と思いながら読みました。この世界で、えびすだけが果たせる役割がある。このまま三人でいたいと願っても無理なのでしょう。成長なんてしたくないよね。
グループFはこちら
「THE REAL END OF EVANGELION」
新世紀エヴァンゲリオンの真の結末。なぜエヴァンゲリオンか、私なりに思うのは、「大人たちの言いなりではなく、君たちは君たちの自由に生きていい」と伝えていたのがこの作品だから、ではないでしょうか。主人公は親が言うからではなく自分が見つけた目的のため大学へ行こうと決心します。完結編が待ち遠しい新劇場版も、そのような展開になると予想しているのかも…と?
「ハリー•ライムのテーマ」
ゴートゥートラベルキャンペーンの真の黒幕はこいつだった!(笑)タイトルは『第三の男』のテーマ。このお話では第三の男がロジャー•ダウなんでしょう。冒頭であの男の存在が気がかり、と言っていたのは事故死したミスタ•ウッズ。何らかの因縁があったに違いありません。そこに文春砲が炸裂して…さあ丸裸にしてくれよう(笑)
「サモンズ⭐ドア」
面白かった! 海外のおとぎ話や児童文学にある、夜のあいだ冒険して朝起きたら「夢か…」と思うけど確かな証拠がある、という類型の応用というか、パスティーシュかなと思いました。こんなにたくさん証拠が、と言ってるのにオタクうざいとしか言われなくて可哀想。でも『オズの魔法使い』も『宝島』も『ピーターパン』も、主人公が体験を打ち明けたら同じ反応なのかなと思うと、読み方変わりそうだな~微妙だな~と感じたのでした(褒めてます)。
グループGはこちら
「過去に溺れる」
老いと、老い(と孤独)を認めたくない気持ちがよく表現されていると思いました。孫が置いていったセミの抜け殻、コカ•コーラ。コカ•コーラを冷蔵庫から出すと、何もない孤独な人生が強調されてしまうので戻す、という辺りがとても良かった。孫が来ているあいだは平気でも、帰ると途端に今の自分が心許なくなって、老人のようにヨタヨタする蛾をつぶしてしまうのです。次に孫が来るときまで、元気でいてくれますように。
「ブーツを食べた男と冷たい人魚」
人魚の血をひく男と人魚のお話。人魚が男を助けたのは同族だし、一緒に暮らしたいから。でも男は、一緒に暮らしてもずっと海の中にいるわけではなく、陸へもあがるのでしょう。それは人魚が望む生活ではなくて、結局愛想を尽かして去ってしまう。でも男は諦めきれず(何が問題かわからないのかも)、人魚を探すものの見つからなくて落ち込む。住む世界が違うというのは本当に厄介だなあと感じました。
「二週間目の暗黒固茹で卵」
面白かった! 会話だけしばらく続いても判らなくならなかったので、そこが凄いと思いました。終末世界ではないのかもしれませんが、女の子二人が世界を相手にいろいろやらかす感じの、めっちゃイケてる話なんですかね? 組長も役に立ってくれるのかなー。続きがあるなら読みたいです。あと卵って、茹でるとすぐ腐りますよね(笑)
グループHはこちら
「カミツキ」
面白かったのですが、ひとつ疑問が。幼なじみのヨミ花がカミツキになって、主人公は彼女に「エサ」を供給しつづけますが、もし自分が発現したら、ヨミ花を食べてしまうとは思っていないのでしょうか。自分が食べられないようエサを供給しているとありましたが、自分がヨミ花を食べるかもしれないとは思わないのかな?と疑問を感じました。その可能性を考えているようにとれる個所がなかったので気になりました。それがあったら、ラストの涙もより効果的だったと思います。
「桜の咲く頃に」
美しいお話でした。生き生きとはじけるように笑顔を見せる少女と、闘病中の画家。少女の描いた絵はがきを病室に飾って、病気との戦いを続けていたのですが、再び彼女の絵はがきを見つけ、闘病生活をやめようと決意します。本人としてはとても清々しい気持ちで、あとを継ぐ人間に託したという心持ちなんですよね。どうかこの少女が、ずっと描き続けてくれますように。そう願わずにはいられませんでした。
「王国の母」
どなたかも書いていらしたと思いますが、私も、主人公は王国の母になろうと決断したのだなと感じました。たくさん子供を産んで、子供の羽をとったりもせず、人間を支配する側にまわろうとしているのではと。肩甲骨の付け根あたりに痕があって、というくだりで澤村御影さんの『准教授•高槻彰良の推察』シリーズを思い出しました。やはり肩甲骨のところに痕があって、こちらは天狗とのかかわりが取り沙汰されています。(こちらの話に教授が出てくるのもそのせい?)4巻まで出ています。そんなわけで、高槻准教授ならどう行動するかなとか考えてしまったのでした(答えは出ていない)。
グループIはこちら
「小市民」
銭湯に行ってサウナに入って、女子高生かなーみたいに見てた辺りまでは、小市民だねと思うのですが、そのあとは「んん?」と首をかしげてしまいます。水風呂に放り込んで銭湯を出て、まではいいとしても、そこからの切り替え早すぎでは?と思いました。追いかけて来るかもとか、もしかして死んじゃったかなとか、何も気にしないのは小市民なのかなー。小市民がカギカッコつきならわかる気がします。
「無色透明の〇〇」
本来は何の色もついていない情報が、たくさんのメディア(媒体、人の口、心など)を経由するたび色がつけられ、まったく違う情報になる。その結果いったい何が起きるのか。まったく悪気なく、もしかして〇〇だったりしてね、なんて、たわいない冗談のつもりで発した言葉が誰かを傷つけているのに、誰もそのことに気づかない。最後の数行に胸が苦しくなりました。
「ナイトビリーバー」
すごく良かったです。面白かった! 流れるようなリズムが心地よかったです。CMのナレーションみたいだな、と。でも不穏な要素、遠藤が織り込まれていて、あーたぶん、デリバリーに行った梶間くん、じゃなくて金のパジャマの鎌田さんがやられるのかな、目立つしな、と思ったのですが、予想に反して店に行っちゃったりしますかね? そして偶々たどり着いた末次さんが刺されそうになって、井上さんが助けに入ろうとして動けずに目の前で末次さんがやられて…(長くなるので以下略)
「海外短編文学全集異世界篇より『受動的3秒間』」
消失を免れた全集の一部という設定の作品。バンパイアハンターの話、もっと読みたいです。隻腕の剣士、片腕はやはりバンパイアにやられたのかな? 解説も作品の一部で、ここにもあるように夭折が惜しまれます。どこかからまた見つかってほしい! 期待しています。
第八回も面白かったです! 終末世界とか、ディストピア感のある作品が目立ったように思いました。まあ現実が現実なんで、仕方ないのかもしれません。
投票作品は以下のとおり
グループA 「百合八景」 グループB「黒の衝撃」 グループC「しんどいのは嫌い」 グループD「“Warum?” op. 12-3」 グループE「最後の光学」 グループF「サモンズ⭐ドア」 グループG「過去に溺れる」 グループH「カミツキ」 グループI「ナイトビリーバー」
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