財務諸表を読みたかったら会計思考力を鍛えよう
財務諸表を読める人・読めない人
経営コンサルタントという仕事柄、お客様企業の会議の中で財務諸表を元に意見交換をする機会は非常に多いです。また経営者・経営幹部向けに会計のセミナーをすることもしばしばあります。
そのような中で、沢山の財務諸表分析の計算方法を暗記しているし、勘定科目や仕訳のルールも一通り知っているけど、財務諸表を見てもさっぱり分からないという方がいます。一方で、財務諸表の基本的なルールしか知らないのに、この企業のビジネスモデルの特徴はこうですね、この企業は戦略をこう変えてきましたね、などと財務諸表からその企業の動向をしっかり把握できる方もいます。
その違いは一体何なのか?
それは「実際の企業活動と会計の数字を結び付けて考えられるかどうか」の違いです。財務諸表分析の計算式をいくら覚えても実際に財務諸表から情報が得られない人はこれが出来ていません。私はこの「実際の企業活動と会計の数字を結び付けて考える」力を“会計思考力”と呼んでいます。
ビジネスマンとして財務諸表から情報を得るために必要なのは、この会計思考力です。必要以上に財務諸表分析や勘定科目を暗記しても実務的にはそれほど意味はありません。努力すべきはこの会計思考力を高めることです。
ビジネスモデルや戦略から会計の数字をイメージする(原因→結果)
財務諸表は企業活動を数字(円やドル)で可視化したものです。そのため、企業の戦略や独自のビジネスモデルは結果として数字に表れるということです。
例えば下記の①、②のビジネスモデルや戦略だった場合、会計の数字のどのような特徴が表れるでしょうか?
① インターネット専門で店舗を持たない家電小売業
② 牛丼チェーンが牛丼を半額にする低価格戦略
どうでしょう?
①の場合は、店舗が不要なので同業他社より家賃(販管費)の負担が少なく、展示用の現物商品が不要なので在庫も少なくて済むという結果になります。
②の場合は、(他社が価格を据え置くという対応を取れば)売上高は大幅に伸びるけれども、売上総利益率が下がるという結果に結びつきます。
このように原因となるビジネスモデルや戦略が、会計の数字にどのように表れるのか仮説を立て、実際どうなのか確認することで実際の企業活動と会計の数字をリンクさせる会計思考力が身に付きます。
会計の数字からビジネスモデルや戦略をイメージする(結果→原因)
戦略やビジネスモデルから結果の数字をリンクさせる会計思考力を身に付けると、逆に数字から戦略やビジネスモデルの特徴を読み取れるようになります。こういう数字になっているということはこういう戦略を取っているのだろう、このビジネスモデルの特徴はこういうことだろうということが読み取れるようになってきます。
例えば共に製薬会社であるA社・B社の財務諸表分析比率が下記だったとします。
A社 売上総利益率:70% 売上高販管費率50%
B社 売上総利益率:50% 売上高販管費率30%
同じ製薬会社なのになぜこのように売上総利益率、売上高販管費率に差があると思いますか?またこの2社のビジネスモデルの違いは何でしょうか?
この2社の大きな違いは販管費に含まれる研究開発費の差です。A社は多額の研究開発費を投じて高単価の薬を販売しています。一方のB社は研究開発費はそれほど多くありませんが、薬の販売単価も低いです。
ここまでくると勘の良い方は2社のビジネスモデルの違いにピンとくるかもしれませんね。そうA社は一般的な新薬を扱う製薬会社、B社はジェネリック薬品を扱う製薬会社です。新薬を扱う製薬会社は研究開発費が莫大に掛かりますが、もし開発が成功したら非常に高い単価で製品を販売することができます。一方のジェネリックを扱う製薬会社は既に開発されている薬を販売するため研究開発費の負担は少ないのですが、元々の販売単価が低く設定されています。
普段から会計思考力を高めておくと、このように数字からビジネスモデルや戦略を読み解くことができます。
財務諸表を読みたかったら、必死に財務諸表分析の公式を暗記したり仕訳のルールを覚えるのではなく、実際の企業活動と会計の数字を結び付ける会計思考力を磨くべきです。
今後、更に具体的な事例を深掘りして紹介していきたいと思います。