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セブン&アイが2段階格下げのリスクを負ってまで巨額M&Aをする理由

セブン&アイ・ホールディングスが巨額M&Aで2段階の格下げ

セブン&アイがアメリカのコンビニ大手スピードウェイを買収しました。米連邦取引委員会が反トラスト法(独占禁止法)違反の懸念があると声明を出していましたが、アメリカのセブンイレブンの店舗の一部を売却することで正式に承認されることになったようですね。

今回は買収額が2兆3000億円と巨額なことから、この買収によるセブン&アイ・ホールディングスの財務への影響が気になっていました。

先日の日経新聞に買収前と買収後の財務状況の比較の記事が掲載されていました。

セブン&アイ・ホールディングスが2兆3000億円を投じた米ガソリンスタンド併設型コンビニ大手「スピードウェイ」の買収が完了した。買収額と純資産との差額にあたる「のれん」は約1兆3000億円にのぼり、減価償却として年約650億円の利益が押し下げられる見通しだ。買収で上乗せされる利益の半分近い規模にあたり、株式市場では巨額買収による収益や財務への影響を警戒する声も出ている。(日本経済新聞)

今回のM&A資金は全て有利子負債で調達しているため、有利子負債残高が3倍以上になっていますね。これを受けて、米格付け会社S&Pグローバルは格付けを2段階引き下げ、「シングルA」にすると発表しています。
超優良企業であるセブン&アイの財務体質をもってしても今回の大型M&Aの影響は大きいです。
セブン&アイはなぜここまでのリスクを負ってまでスピードウェイをM&Aしたのでしょうか。


国内コンビニ市場の縮小

理由の一つは国内コンビニ市場の縮小です。
セブン&アイは主力のコンビニの成長もあり、ここまで規模を拡大してきました。
しかし、2019年末には現在の方法で統計を取り始めた2005年以降で初めてコンビニエンスストア大手7社の総店舗数が減少に転じるなど既に市場は飽和状態となっております。
更にそこに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。外出抑制でコンビニにとって追い風かと思いきや、オフィス街にある店舗の売り上げが減り、更にはスーパーに顧客が流出し、2020年は2005年に統計を取り始めて以来、コンビニ大手の売上高が初めて前年実績を下回る状況に陥っています。
今後ワクチン接種が進み、外出自粛は解除されると思いますが、リモートワークの定着でオフィス街の店舗需要は完全には戻らず、少子化の影響などでジワジワと市場が縮小されることが予想されます。

国内コンビニチェーンで圧倒的な勝ち組とされるセブン&アイをもってしても、国内コンビニ事業における今後の成長戦略を描くのは難しくなってきていると言えるでしょう。


アメリカコンビニ市場の成長可能性

一方のアメリカコンビニ市場はどうかというと、国内コンビニ市場と比べると成長可能性が残っているように思われます。
アメリカのコンビニ店舗数は2021年6月時点で約15万店舗。一方国内コンビニは約5.6万店舗となっており、人口当たりの店舗数に大きな差はありません。

アメリカ総店舗数 https://www.convenience.org/Research/FactSheets/IndustryStoreCount 

国内総店舗数:file:///C:/Users/Kaoru%20Hirano/Downloads/20210720110253.pdf

しかし、サービス品質の差はどうでしょう?私は圧倒的に日本のコンビニの方がサービス品質が高いと思います。
アメリカにおけるコンビニに位置づけは現在においてもガソリンスタンドに併設された売店の域を達していません。日本人がイメージする清潔で洗練されたコンビニとはちょっと違います。
実際アメリカのコンビニの約80%はガソリンスタンドの併設となっており、ガソリンを入れるついでに軽食を買う場所という位置づけが強いと思われます。

また、アメリカのコンビニ市場は日本と違い寡占が進んでいません。国内コンビニ市場は大手3社のシェアが90%以上と再編でかなり寡占が進んでいます。一方のアメリカのコンビニ市場はセブン&アイのリリースを資料によると、上位10社のシェアでも約20%しかありません。

アメリカコンビニシェア

10店舗以下のチェーンが全体の65%もあるようで、30年前の日本と同じように地域に根差したチェーン店がまだまだやっていける競争環境だと考えられます。
今後、本格的にセブン&アイが得意のPB戦略で高品質な商品を開発し、「品揃え」「鮮度管理」「クリンリネス」「フレンドリーサービス」をお店の基本4原則を徹底して行えば、他のチェーンと圧倒的な差別化になると思われます。

私もかつては食品メーカーに勤務し、コンビニの仕事に携わっていたことがあります。
コンビニ本部だけでなく仕入先など関係各社が、あの200平米の限られたスペースで、効率よくお客様に喜んでいただけるようにするために恐ろしいまでのこだわりを持って日夜改善を重ねています。
ここまでこだわりを持って追求できるのは日本人の強みだと思います。

世界に誇る日本のコンビニシステムがアメリカで今後どのような成長を遂げるのか、非常に楽しみです。

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