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経済指標から世の中の動向を読み解く「訪日外国人旅行者(3月)93%減」

 予想はしていましたが、3月の訪日外国人旅行者は前年比93.0%減の19万3,200人と激減しました。1月が前年比1.1%減、2月が58.3%減とコロナウイルス流行に合わせて大幅に減っていましたが、3月に更に減少幅が拡大しました。私も仕事柄、全国各地に出張していますが、確かに2月くらいからホテルのフロントの方が外国人のキャンセルが相次いでいると嘆いているのを聞きました。また3月に入ると外国人旅行者を見かける機会がグッと減った印象があります。

 ちなみに月に19万人というのはいつ以来の水準なのかを過去のデータを見ながら確認してみます。

訪日外国人旅行者の推移

 19万3,200人/月を年換算すると231万8,400人となり、上記の推移で見ると昭和60年くらいの水準であることが分かります。

 こうして改めて見てみると、私世代が生まれた昭和50年代前半はやっと100万人を超えた程度であり、2019年と比較すると30分の1の水準でした。東北の片田舎で育ったという要因もあると思いますが、小さいときは外国人と言えば英語の先生以外は、ほとんど会うことは無かった気がします。推移を見ると1900年代は徐々に増加し、2000年半ばから増加ペースが上がったものの、リーマンショックで停滞。その後、2010年代から急激に増加したことが分かります。2015年には45年ぶりにインバウンド(海外から日本への旅行)がアウトバウンド(日本から海外への旅行)を逆転しています。
 ちなみになぜこれほどまでに訪日外国人旅行者が増えたのかご存知でしょうか?これにはいくつかの理由があります。
 まず一つ目は世界中で海外旅行をする人が増えていたことです。実は日本に来る旅行者だけが増えていたのではありません。海外旅行をする人自体が増えていました(今となっては、もはや過去のことですが・・)。国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界全体の海外旅行者は1980年に約2億7,800万人、2000年に約6億7,400万人だったものが、2016年には約12億3,500万人にまで増えています。海外旅行をする人数は、経済成長と連動していて、経済的に豊かになるほど、外国に行ってみたいという欲求も高まるようです。
 二つ目として、全体的に増えている中でも特に日本の人気が高まっていたことです。経済が成長しているアジアの国々から、距離的に近いこと。円安が進み、多くの外国人にとって訪れやすくなっていること。電化製品や化粧品などの日本製品、日本のアニメやゲームが人気を集めていることなど、複数の理由が挙げられます。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食への関心が高まっていることも影響していると思われます。
 三つ目としては、政府の政策的な後押しがあったことです。2003年に、当時の小泉純一郎首相が「訪日外国人旅行者を1000万人に倍増させる」という目標を掲げ、国を挙げて観光に力を入れることを宣言しました。以来、官民を挙げて、日本を訪れる外国人旅行者を増やそうという「ビジット・ジャパン」キャンペーンを行ってきました。海外で日本を紹介するイベントを開催するなどのプロモーション活動のほか、外国人への観光ビザの発給要件緩和や免除、免税対象品の拡大や免税条件の緩和などにも取り組みました。
なお、国連世界観光機関(UNWTO)によると、2010年に外国人が一番たくさん訪れた国はフランスで、次にアメリカ、中国と続き、日本は29位でした。それが2018年には11位にランクアップしています。

 さて話を現在に戻しますが、訪日外国人旅行者が減少することで経済にどのような悪影響を及ぼすでしょうか。2019年の訪日外国人旅行者の消費は約4兆8,000億円。これは個人消費の約300兆円と比較すると大した影響は内容に思えます。しかし三菱総研の分析によると関連投資などを含めた経済の波及効果は消費額の2倍に及ぶという試算があります。2019年のインバウンド経済効果が約9.5兆円だと仮定して、それが30分の1になると9.2兆円分のマイナスの影響が出ます。名目GDP約500兆円と考えるとそれなりのインパクトになりますね。

 国内の外出自粛の影響や、先行き不安に伴う消費低迷の影響に比べればGDP押し下げ効果は少ないものの、来年は再来年にこれまでのように訪日外国人旅行者が戻るかと言えばかなり疑問です。そういう意味でインバウンドに依存していた企業は大きく方向転換を迫られることになるのでしょう。

 

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