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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十… もっと読む
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2015年11月の記事一覧

『マチネの終わりに』第七章(41)

 蒔野は、会えば会うほど武知を好漢だと感じ、その「きちんとした」という言葉がピッタリの演…

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『マチネの終わりに』第七章(42)

 一度だけ、蒔野から電話があって、こちらの携帯に洋子から連絡はなかったかと確認を求められ…

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『マチネの終わりに』第七章(43)

 蒔野は気遣いつつも、どこで止めるということもないまま、彼女の厚意を受け容れ、気がつけば…

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『マチネの終わりに』第七章(44)

 洋子の存在が彼にとって良い作用を齎さないということは、誰かが冷静に見極めなければならな…

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『マチネの終わりに』第七章(45)

 年齢も随分と下で、マネージャーと音楽家という関係の名残は、なかなか対称的と感じられなか…

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『マチネの終わりに』第七章(46)

 自分はこれまでの生真面目な人生の中で、それほどの罪は犯していないはずだった。今後も犯す…

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『マチネの終わりに』第七章(47)

「パンでも焼くよ。」  蒔野はそう言って、食パンを二枚、トースターに入れて、冷蔵庫のペリエを飲んだ。  明け方、《アポロ13》を見ながら眠りに落ちてしまったのだったが、その中で、テレビのニュース解説者が語っていた一つの台詞が、目覚めのあとも、しつこく頭に残っていた。 「……大気圏に無事突入するには、2・5度の幅の回廊を通らなくてはなりません。角度が急だと摩擦熱で炎上しますし、浅すぎると、池に石を投げた時のように、外に弾き飛ばされます。……」  蒔野は、そのアポロの大気

『マチネの終わりに』第七章(48)

 そのどこかで、ほんの少し何かが違っていたならば、世界は今のような姿をしておらず、自分は…

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『マチネの終わりに』第七章(49)第八章(1)

 早苗は、動揺した様子だったが、すぐに笑顔になった。そして、フライパンの火を止めると、蒔…

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『マチネの終わりに』第八章(2)

 その上で、監護権をどのように分担するか、具体的には養育時間をどう割り振るかといった条件…

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『マチネの終わりに』第八章(3)

【あらすじ】早苗の偽りのメールが原因で別れた蒔野と洋子は、ふとした拍子に相手を思う。洋子…

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『マチネの終わりに』第八章(4)

 弁護士によるならば、非常にスムーズなケースらしく、子供も小さいだけに、条件の見直しに関…

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『マチネの終わりに』第八章(5)

 マンハッタンに長く住んでいるリチャードも、「ここは不思議な風景だなあ。」と、首を伸ばし…

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『マチネの終わりに』第八章(6)

 週の半分ずつ、二つの家庭を行き来しながら、彼はどんな考えを自分の中で育んでいくのだろうか? ある程度成長すれば、物の見方も相対化出来る。しかし、それまでは、何を信ずるべきか、混乱し、悩むことも多いだろう。教育方針を巡っては、リチャードとも、将来的に深刻な意見の相違があるかもしれない。  いずれにせよ、現状では、家庭環境に関する限り、自分よりもリチャードの方が断然整っていることは間違いなかった。  何か新しい仕事をしたいとは考えていたが、ケンの母親として、何をすべきかとい