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外国人のお客さまトラブル対応は何語を使えば有効か?(迷惑行為を続ける旅客を警察へ引き渡した機内事例)

外国人のお客さま対応は、通常時は、日本語、英語、お客さまの母国語、このどれかを使って行うのが一般的でしょう。しかし、トラブルやクレーム発生時はどうでしょう?状況によりますが、行為が悪質な場合、敢えてお客さまの母国語を使わないことが有効な場合があります。今回は、実際に起こった悪質な行為に対して、対応者がどのように外国語を使ったか含め、対応をご紹介します。


以前、機内にて、お客さまによる問題行為が発生しました。あるアジア出身男性旅客が、乱気流の中で、機長からのベルト着用の要請に従わず、他旅客を挑発しながら歩き回るという行為でした。彼は英語を少し話せ、CAによる注意を理解していましたが、機内ルールを軽んじており、歩き回る行為に必要性はありませんでした。

対応者はまず、このトラブルが「悪質」かどうか、以下の点で見極めます。

1.他者(他の旅客や乗務員)の危険に繋がらないか
2.他者が身の危険を感じているか(脅迫や大声)
3.安全性を揺るがす行為か(機体や設備などの安全確保)
4.当該旅客の感情や行動が旅客本人の制御下にあると判断できるか
5.周辺の秩序を大きく乱すものか

上記いずれかに該当すると判断した場合は、根拠を声に出し、他CAにも聞かせ(近くのお客さまに聞いていただくでも良い)、すぐに悪質行為としての対応へ移します。

たとえば、「私は怒鳴られて危険を感じたけれど、他の人なら感じないかも…」と考える必要はなく、自分が危険を感じたかどうかで判断します。怒鳴られたスタッフが危険を感じているのに、怒鳴られなかったスタッフや管理部門の人が「そのくらい平気だったんじゃない?」と後でフィードバックする風土では、なかなか高CSは達成できません。。その場に居合わせた対応者の判断を他者が「責める」ことは、接客現場ではタブーかもしれません。


当該旅客に対しては、たとえば、「Your violent behavior is not acceptable.危険な行為です。やめてください。」と低い声で伝えます。周囲にも、「制止依頼を3回試みましたが、私が身の危険を感じる行為が続いています。悪質と判断します。」と伝えることもあります。判断を声に出し合うことで、対応者自身が落ち着く効果もあります。英語も日本語も通じない旅客には、母国語で注意が書かれたシートを見せながら、読み上げている箇所を指さしで示し、視覚に入れ、最終的には手渡します。


この便では、当該旅客の母国語を話すCAが乗務していましたが、日本人チーフパーサーは通訳をつけず、英語で対応しました。旅客とチーフパーサー、お互いにとって外国語である英語を使うという判断です。

英語がベストと判断した背景は、
・通訳を介す時間的余裕を、当該旅客に感じさせない
・当該旅客の母国語を使うという歩み寄りを排除し、行為のエスカレートを防ぐ


英語は、上手に使う必要はありません。重要なことは、以下が当該旅客に伝わることです。
・安全を優先させるルールの重要性
・行為の問題点や状況
・こちらからの依頼内容

これを意識すると、対応に必要な要素は、流暢な英語よりも、
・身振り手振り(速い動きより、落ち着いたジェスチャー)
・迷惑行為を客観的に説明できるツール(ルールが書かれた説明書)
・ゆっくりとした低い声(自分史上もっとも低い声)
・相手の目をしっかりと見る(先に目を反らさない、相手の目の泳ぎを見定めるくらいに)
・威厳を持ちながら(敵対ではない)
・誠意を持って対応(事情を抱える相手の心は受け止め、行為だけを認めないきもち)


実際に使用する英語は、できる限りシンプルに、簡潔明瞭を心掛けます。not allowed, not acceptable, ban, prohibited, regulation, rule, policeなど、単語だけをゆっくり伝えることもできます。最終警告では、This is your yellow card. One more time, that'll be your red card.このくらい分かりやすく伝えることもできます。


対応とは、具体的に、以下を意識しコミュニケーションを取ることです。

・その行為のために、どれだけの人に、どれほどの迷惑が及ぶのかを、責めるのではなく、理解してもらえるよう伝えます。(対応者の中に、相手を責めたくなる感情が見え隠れする場合、トラブル解決は時間を要します)

・話す中で当該旅客が抱える事情が見えれば寄添いますが、行為自体には威厳ある態度を保ちます。

・100%当該旅客に非がある場合でも、目線は相手に合わせ、理解しやすいようにコミュニケーションを取ります。

・相手の言い訳を敢えて聞くことで、それでも行為自体は認められないと、ハッキリ伝えやすい関係性を築きます。

・対応者一人に心を開いてもらおうとせず、weを意識して使います。(対応者の心は他のスタッフやお客さまと同じだと感じていただくことで、当該旅客が素直に反省しやすい環境を作ります)

結果、このフライトは、一人の男性旅客の協力を得て、成田空港に無事着陸しました。当該旅客は反省しましたが、空港警察へ引き渡されました。日本人のお客さまから、CAの対応に数件のお誉めの言葉をいただきました。


トラブル対応にまだ慣れていないと感じる日本人スタッフは、以下を心のどこかに留めておくことが大切かもしれません。

・誰でも感情的になったり、勘違いをしたり、自己中心的に物事を考えることはあり、国籍は関係ない

・私たちも海外のルールを全て理解しているわけではない

・人はみんな成長過程

・あなたとのやり取りを機に、日本のルールを理解したり、外国人との摩擦を乗り越える方法を習得するかもしれない

・日本にとって、外国人の存在はとても大切。共存共栄する環境は、あなたのすぐ周りから築くことができる

これらを踏まえていると、対応中の感情が安定しやすくなります。


結論。外国人のお客さまトラブル対応には何語が有効か?
正解はない。悪質な場合、敢えてお客さまの母国語を使わないという方法もある。


以下は、普段からお伝えしているグローバルCSの基本です。

外国人のお客さま対応で大切な10のこと
1.お客さま対応に正解はない
2.対応者がベストと判断したものを、他者が批判はできない
3.上記を踏まえている組織・チームからは高CSが生まれやすい
4.高CSを支えるのは組織や地域の風土・マニュアル・細かいPDCA
5.高CSを安定達成する人は、自己承認力とビジョンの質が高い
6.多様性受容の前に自己承認、異文化理解の前に自文化理解と表現
7.グローバル接客は海外のやり方を真似ることではない
8.高CSには日本人らしさを自覚することで近づく
9.スキル重視思考は危険、対応者の心が結果を分ける
10.とは言え、スキルや知識は対応を安定させるために必要



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