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データスペースをきちんと理解する

あらゆる社会活動においてデータが活用され、生活スタイルや産業構造を変えている。さらに、AIの急激な変化により、今後その変化のスピードが加速すると考えられ、グローバル化の進展と合わせて戦略的にデータ駆動社会について考えていく必要がある。
こうした中で、国境を越えた活動空間としてのデータスペースが注目されている。米国を中心とした、個人活動に対する経済圏の展開、欧州を中心とした法人活動をに対する経済圏の展開、そこでのガバナンスの仕組みが世界のあらゆる活動に影響を与え始めている。

特に、AIへの学習データの提供や、AI活用場面へのデータ供給という点から、データスペース内のデータ供給が注目され、エッジデータ収集の仕組みの整備も進められるとともに、オープンデータなど関連事業とも連携して取り組みが進められている。

このような環境下で、我が国のデータスペースに対する対応は後追いになりがちである。将来のデータ駆動社会でのポジショニングやそのための対応を考えていく必要がある。

個人向け市場に関しては、GAFAM等の動きに対応できないまま、国内マーケットやデジタルサービスが大きく影響を受けている。
法人向け市場では、GAIA-X、特にCATENA-Xのような個別プロジェクトに注目が集まり、データスペースの全体像が見えないまま取り組みを推進している。今後次々と出てくる産業界の様々なデータスペースへの対応を考える必要がある

データスペースに対して素人サッカーになっており、メディア、コンサル業界、産業界、アカデミック、行政の誰もが「GAIA-Xが」「CATENA-Xが」と言っている状況である。

フィールドを見ずにボールに集中しているのではないか

どちらも素晴らしい取り組みである。でも、誰もOMEGA-XやFISH-X等の取り組みに言及していない。もっと広い視点でデータスペースにどう対応していくか考えたほうが良い。

データスペースとは

デジタル社会においてはシームレスなデータの流通が行われ、国境を越えた様々なサービスが提供される。そのため、アーキテクチャに基づき相互運用性を確保した社会活動基盤がデータスペースである。
業種や目的に応じて様々なデータスペースの取り組みが行われている。

それぞれのデータスペースで業界特有のルールがあるなどの差異がある。しかし、対象物側から見ると、同一のアーキテクチャの元、サービサーの目的により異なるビューでサービスが定義されたものであり、データスペースを意識する必要はない

対象物は様々なデータスペースに関連する

データモデルを共通化もしくはコンバータを使って共通的な形式で入出力したり、共通的なインタフェースを持つことが重要になる。

サービスは単独のデータスペースから提供される場合もあるし、複数のデータスペースによる複合サービスになる場合がある。

ただし、このように複数のデータスペースを連携してサービスを構築するのは簡単ではない。分野や国をまたがりデータスペースを連携するには、認証の仕組み、データ連携のルールなど、相互運用性の面から整理が必要になる。よって、アーキテクチャと共通のデジタル基盤(技術やルール)を戦略的に整備していくことが必要である。

データスペースの推進

データスペースの推進はGAIA-X等の民間の取り組みを見る前に欧州委員会の取り組みを理解する必要がある。

欧州委員会は、欧州データ戦略等を通じて17分野をデータスペースとして指定し、予算支援などをして推進している。さらに、データ連携ではなく、データ集積や提供を行うオープンサイエンスやコペルニクスプロジェクトもデータスペース一連のプロジェクトとして位置付けている。

欧州のデータスペース

この分野以外にも、政府機関や各国の予算、民間の予算と組み合わせて推進するプロジェクトも多い。

各テーマ内のプロジェクトは、業界全体を網羅しているわけではない。エネルギー分野では風力発電プロジェクトをプロジェクト化するなど、特定テーマでの推進が行われている。

政府からの予算支援により、ガバナンススキームの整備、ブループリント作成、インフラ整備、検証等が行われている。

様々な主体によるデータスペース

リファレンスアーキテクチャが公開され、オープンソースを中心としたツールが提供されているので、公的資金で行うプロジェクトに加え、アーキテクチャとツールを使ってデータ連携を行う自発的な民間プロジェクトが増加している。
さらにその取り組みを加速するため、データスペース・サポートセンターをEUの資金援助のもと民間団体が共同で運営している。

データスペースの取り組み状況を整理しているIDSAのData Space Raderへの登録は2023年5月21日現在で、39データスペース、61ユースケースある。計画中やパイロットのプロジェクトが多いが、4データスペース、4ユースケースは既にサービスを提供中である。

重点投資分野

先進各国は、Covid19など緊急時への迅速な対応、AIによる競争環境の変化を踏まえ、データスペースの実現に向け投資を強化している。

重点投資分野

主な欧州委員会の投資としては、2010年から重点的に推進している全体フレーム、データモデル、関連ツールの整備運用に€317m、主に2014年から進めているプラットフォームや連携・活用ツール整備に€661m、主に2021年から進める各分野のデータスペース整備支援に€186m、さらに、プラットフォームとデータ整備には€113mが投資されている。
さらに関連の公的ファンドや民間ファンドからも投資されている。
上記投資には、データ自体の整備費用、人材、セキュリティへの投資は含んでいない。

データスペースのエコシステム

データスペースの肝であるデータ供給

データスペースという場を作ったからうまくいくというものではない。仕組みと参加者がいたとしても、そこに潤沢なデータが供給される必要がある。
欧州では「オープンデータ及び公共部門情報の再利用に関する指令」(Directive (EU) 2019/1024.)に基づき各国行政機関はオープンデータを推進している。さらに、データ法により産業界のデータの活用も強化している。
これら制度的な整備に加え、「社会全体でデータを共有」する理念が浸透しているため、ベースレジストリ、オープンデータも含めデータスペースに十分なデータが供給されている。

注目されているコネクタとは

データ連携するなど、データスペースに参加するにはコネクタが重要といわれている。

コネクタには複数の種類がある。ソフトウェアのモジュールになっていて、各コンピュータにそれを搭載することで簡単にデータ連携ができる。

ものすごく単純に言うと、データのコンセントのようなものである。

様々なコンセント

コンセントは、形状も電圧も各国によって違うし、契約条件も違うが、何処の国に行ってもコンバータなどを使って電気を使うことができる。
同じように、各国や分野毎にコネクタが違っていても変換して接続できるしくみである。

コネクタとともに必要な、認証やアクセスコントロール

データベースにアクセスするときには、その人にアクセスを許してよいのか、どのデータを扱えるのか、どのくらいの量を使ったのかといった管理が必要になる。
全てのデータスペースに必要に機能なので、共通機能として欧州委員会で仕様を定めるなどの取り組みをしている。また、分野や国をまたがった時に認証をどうやったらいかといった検討も行っている。

コントロールタワーとコミュニティの必要性

欧州のデータスペースの取り組みは10年以上にわたって基礎から積み上げ、現在は展開が加速している。このために戦略的な投資が有効に機能している。
DSM(Digital Single Market)等を先を見据えたビジョン、バックキャストして戦略として組み立てる力、専門家コミュニティの形成、全体を引っ張るリーダーシップ、的確でステップを踏んだ投資、投資と執行の透明化、こうした全体を俯瞰するコントロールタワー機能がうまく機能しているのが成功要因ではないだろうか。







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