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あらたな冒険の旅に出ます。

ここ数年、データ戦略に集中的に取り組んできましたが、進めるためのレールは引けたので、次なるステップに進みます。

今度は、DX、データ、ソフトウェア・エンジニアリング、システムズ・エンジニアリング、イノベーション人材を見る重要なポジションを任せていただくこととなりました。

実質的な政府のCTOでありChief Strategistであった「政府CIO上席補佐官」、実質的な政府のCDOである「データ戦略統括」をやってきましたが、今度は政策ではなく、この国のデジタル社会の基盤を足元からギリギリと固めていく仕事です。

とりあえず府省における仕事を振り返ると・・・。

1998年4月-2000年7月 通商産業省(現経済産業省)

教育の情報化とソフトウェア技術の研究開発を担当することとなりました。

教育の情報化

教育の情報化は、当時は学校へのインターネットの導入が開始したところで、全国の100校にインターネットを先行実証で入れる100校プロジェクトというプロジェクトがあり、2期目の新100校プロジェクトが終わろうとしているところでした。そこで、その成果を全国に展開するEスクエアプロジェクトを開始し推進しました。また、大規模補正予算により、あらゆる学びにおける情報技術活用の可能性を試すLearning webプロジェクトを行い、それらの結果を整理した「学びのデジタル革命」を出版しました。
それらの経験や成果が今のGIGAスクールプロジェクトにもつながっていると思います。

また、この一環で、教材の流通を容易にするためにLOM(Learning Object Metadata)を使った学習素材データベースを推進し、初等中等教育向け教材を集めた教育情報ナショナルセンターNICERや高等教育向けのNIME-gradと展開しました。
eLearningの標準化にも取り組み、コースウェアのデータ標準であるSCORM等が今のeLearningサービスを支えています。
このころの経験が、今の教育データ標準化の流れにも活かされています。

ソフトウェア研究開発

研究開発プロジェクトでは、アプリケーションから基礎技術開発まで情報技術に関わる多様なプロジェクトを公募の上で実施しました。この経験から、「合議制の審査では革新的な技術が採択されにくい」という反省があり、天才発掘プロジェクトとして未踏事業が生まれています。その後、未踏OBが各分野で活躍しているのは皆さんご存じのとおりです。

また、CMMによる品質管理やモデリング等、ソフトウェア・エンジニアリングにも取り組み、情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア・エンジニアリング・センター設立につながりました。

2000年8月-2008年7月 民間からの支援

教育の情報化

民間に戻ってからは、eLearningの推進団体である先進学習基盤協議会(ALIC:Advanced Learning Infrastructure Consortium)を設立し、eLearningの普及を推進しました。白書を刊行するとともに、各種標準の推進、将来ビジョンの作成などを行いました。

電子政府

一方、当時は行政のIT調達で問題が続出し、経済産業省が民間専門家を集めたITアソシエイト協議会を作り、EA(Enterprise Architecture)、プログラム/プロジェクト管理や見積もり手法の検討を行いました。そのうちのプログラム管理や、パフォーマンス管理、業務レイヤーのチームのリーダーをしていました。
また、その解決方法の1つとして、府省CIOを設置するとともに、CIO補佐官制度が始まりました。これらの取り組みを、上記の取り組みや研修で、外部から支援していました。

2008年7月-2021年8月 経済産業省CIO補佐官→内閣官房IT室政府CIO上席補佐官

経済産業省から再び誘われ、CIO補佐官制度の立て直しと、1994年の行政情報化基本計画以来推進してきた電子政府の立て直しを任せられます。
まずは、官民のCIOを集めたCIO百人委員会を作り、国内CIOの組織化や知識の集約化を図るとともに、民間視点で電子政府の取り組みやあり方を評価してもらいました。
そこから出てきた新しいプロジェクトが、オープンガバメントと文字情報基盤です。

オープンガバメント

オープンガバメントは、行政の透明化を図るとともに市民との協働を通じて行政の改革を図っていく最先端の取り組みとして、当時、世界中で開始していました。
そこで、オープンガバメントに関する様々な取り組みを行い、それが今の、オープンデータに展開しています。また、当時はパブリックコメントのような一方通行の意見募集しかなかったのですが、国民と直接対話するサイトであるアイデアボックスを開始しました。当時としては斬新な取り組みです。その後、最低でも年に一回は実施すること等を通じ方法論に工夫を加え、2022年国連電子政府調査のオープンガバメントの評価であるeParticipation Index(EPI)で日本は世界一位と評価してもらいました。

文字

多くの専門家から指摘されていた外字問題は、課題が複雑すぎて、1997年に行政情報化基本計画改定で解決を目指すと閣議決定されてから10年間、何回か挑戦しながらも解決ができなかったプロジェクトです。
それに着手し、2011年4月に文字情報基盤を作り、2017年12月に国際標準化しました。
文字情報基盤は日本の主な漢和辞典に載っている全ての文字を登録しており、行政機関でコード化している約6万文字の全てがコンピュータで使えるようになりました。また、一般的な情報機器ではJIS第4水準(JIS X 0213の範囲)の1万文字の範囲が活用可能なことから、6万字を1万字に代替する縮退マップなども整備しました。

データ定義

文字問題の解決のめどがついた2012年夏ごろに、共通語彙基盤に着手しました。これも難しい課題で、1994年の行政情報化基本計画で解決するべき課題として決定されていますが、取り組みが先送りされてきていました。

このプロジェクト開始のきっかけは東日本大震災です。東日本大震災の時に、SNS分析やデータオープン化に取り組んでいたのですが、この時にデータの定義がないために、集めた情報を使いこなせませんでした。
米国も911の時に同じ問題に直面しNIEMというプロジェクトを始めていましたし、欧州は、国をまたいだデータ交換のためにデータ定義の標準化を推進していました。そこで共通語彙基盤プロジェクトを開始し、主要データの定義をすることでデータ連携の基盤を作りました。2013年に試行したうえで2014年4月に検証版を公開しています。その後精査を重ねたうえで本格版にしています。

押印

こうして文字とデータが整理され、データを送る基盤が整備されたのですが、次は認証が立ちはだかります。データを送っても、押印が必要なためプロセスが完結しないのです。そのため、データを送った後に郵送するなどの手間がかかっていました。
そこで押印見直しプロジェクトを立ち上げます。
押印見直しは、1997年に総務省が「押印見直しガイドライン」として整理しましたが普及させることができていませんでした。

まずは、2017年9月のCode for Japan summitで市民、自治体の方々とオープンなワークショップを行い、利用者から見た課題の洗い出しをしました。それを受けて、秋に関係省庁や経済団体によるワークショップを行い、ガイドラインの見直しを行いました。
ガイドライン案ができたところで様々な意見が出てきたので、ここからは行政改革の流れと一体化して2020年11月に押印の廃止が発表されています。

ヨミガナ

文字、データ、押印と整理したことによって、データの基盤は相当整理ができました。

次なる課題がヨミガナです。
手続きは、文字、データ、押印が整理できれば進めることができます。しかし実際の手続きにおいて必要になるのがヨミガナです。
人名、法人、地名には、法的に定義された正式なヨミガナがありません。子供が生まれたときにヨミガナを登録しているではないかと思うかもしれません。しかし、出生届をよく見ると、ヨミガナ欄は事務的に使用するものであり法的なものではないと解説されています。でも社会ではよく名簿などの順番で50音順が使われますし、手続書類にヨミガナを書く欄があります。このようにヨミガナは社会生活をするのに不可欠な要素です。また、戸籍の漢字氏名とパスポートのローマ字氏名はつながっていないのではないかと、以前からヨミガナ問題はパンドラの箱といわれていました。

2014年に文字問題の関連でヨミガナの検討を開始しますが、データ標準化も行っている最中でしたし、いったん取り組みを停止しました。
取り組みが再起動したきっかけは、2016年に法人番号の運用が開始したことに伴い法人番号公表サイトや法人番号公表サイトgBizInfoが始まったことです。法人検索ができるのですが、ヨミガナがないので50音順にできず探しにくいという問題がありました。そこで関係府省と調整し、2018年3月に法律事項ではないけれども商業登記の手続きにヨミガナを登録するようにしました。

一方、氏名のヨミガナは着手することが難しく、マイナンバーに関連して何度か計画化されたものの整理が実現されませんでした。そこでまずは、2019年3月に「文字情報導入実践ガイドブック」として漢字の扱いを整理した時に、氏名、法人、地名に関してヨミガナも含めて考え方を整理しました。

その後、2020年になってマイナンバーカードの活用が検討される中で氏名のヨミガナの必要性が取り上げられ、そのあり方や課題、導入方法などを法務省が検討し、2023年に法律家の寸前まで来ています。

行政基本情報

さてここまでくると、もうやることはないのではと思うかもしれません。この次が行政基本情報です。

2004年に行政の基本情報として、各府省のwebサイトで扱うべき基本情報が「行政情報の電子的提供に関する基本的な考え方(指針)」で規定されています。この指針が古くて存在に気が付かない府省もいたので、2015年に「Webサイト等による行政情報の提供・利用促進に関する基本的指針」へ改定をしました。さらに、2019年に「Webサイト等による行政情報の提供・利用促進に関するガイドライン」と「Webサイトガイドブック」へと詳細化しています。この狙いは、府省Webサイトの情報の知的資産化です。日本の社会の基本情報が府省のwebサイトに詰まっています。そこで、webに掲載される府省の組織、法令、政策等の情報を整理して公開するようにガイドで記載しています。

さらに、行政の持つデータの申請データ、通知・証明データ、行政サービス(制度)データ、事例データを行政サービス・データ連携モデルとしてモデル化をしました。これを進めるために、日付や住所等の共通的データ項目の記述方法も行政基本情報データ連携モデルとして定義しています。

アーキテクチャ

こうして取り組みをしているうちに、データに注目したアプローチだけでなく、分野毎のデータ連携全体を見据えたアプローチが必要になってきます。そこでアーキテクチャのアプローチに再び焦点が当たりました。

2010年頃のエンタプライズ・アーキテクチャ(EA)へのアプローチは、現状と将来像の比較に焦点が当てられていました。今回のアプローチは分野横断での相互運用性の確保です。
そのため、Society5.0の参照アーキテクチャを作成しました。
アーキテクチャには思想が必要だという人が多いです。しかし、その思想を強調するあまり、業界を越えたアーキテクチャが作れませんでした。Society5.0の参照アーキテクチャの最大のポイントは思想がないということです。各アーキテクチャを分析して共通化を図り、どのアーキテクチャとも連携できるようにしました。

緊急事態対応

こうして10年以上かけて文字、データ、データモデル、テンプレート、アーキテクチャと展開してきたわけですが、途中はかなり紆余曲折がありました。緊急事態対応です。

文字プロジェクトの初期フェーズが終わりかけ、オープンガバメントプロジェクトが立ち上がりかけた2011年に東日本大震災が起こりました。
緊急物資支援の検討から、被災地のSNS分析、自治体SNSアカウントの緊急発行そして復旧復興支援制度データベースの整備、避難所管理高度化プロジェクト等に集中的に取り組むため、基盤整備関連の多くのプロジェクトを一時中断しました。

そして、2020年の新型コロナウイルス感染症対策の時も、一番初動で投入されるのが実行力のあるうちのチームでした。接触確認アプリCOCOAの初期検討と仕様作成、それに続くワクチン接種管理アプリVRSの初期構想から基本設計までを担当し、こういうときにも中長期プロジェクトである基盤整備プロジェクトは一時的に止まっています。

データ戦略

そうこう取り組みをしているうちに、今後の社会はデータが重要になるとの認識のもと、世界各国がデータ戦略の策定に取り組み始めました。日本もそれと並びデータ戦略策定を急ぎ、2020年12月にデータ戦略の第一次取りまとめベース・レジストリ・ロードマップを公表し、さらに、それを拡張した包括的データ戦略を2021年6月に公表しました。

ITに関する取り組みは世界に較べ遅れていると言われますが、データに関する取り組みは、この数年間の取り組みで急速に挽回し、また、常に世界の動きを見ながら進めているので、世界の中でもほぼトップレベルの取り組みをしてきています。

2021年9月-2023年3月 デジタル庁データ戦略統括

データモデルや各種ガイドをGIFとして整理

デジタル庁ができたことを機に、これまでの取り組みを政府相互運用性フレームワーク(GIF: Government Interoperability Framework)として一つの体系にするとともに、データモデルの見直し、品質ガイドの追加などを図りました。そして、アーキテクチャを具体化し各分野へ展開するための方法論の整理を行っています。具体化にあたっては、アーキテクチャの記述にTOGAFの推進するarchimate、プロセスモデルにBPMN、データモデルにUMLクラス図を採用し、国際的にも議論しやすい整理をしました。

GIFの社会展開

データ標準を作っているだけでは普及しません、そこで各分野のチームと連携しGIFの展開をはかりました。
教育分野では、教育データロードマップを作るとともに、GIFだけでなく教育業界のデータ標準であるIMSを参照しながら教育データの標準化に取り組み、Society5.0のショーケースともいえるスマートシティのデータ連携基盤の検討やGIF地域サービス・データモデルの整理、日本版EEI(Essential Element of Information)といわれる防災データ標準化に取り組んできました。
また、政府内のシステムは、今後、デジタル社会推進標準ガイドラインに沿ったシステム審査などを通じてGIFの導入を図っていくようにしました。自治体システムは、システム標準化の検討に合わせてGIFの適用を進めています。

ベース・レジストリ

ベース・レジストリも重要プロジェクトです。4月に日本中の行政地域名である町字情報を集約したアドレス・ベース・レジストリを試験公開しました。地理空間情報の整理が次々と進んでいます。
アドレス・ベース・レジストリでは、町字といわれる地域名の基本情報を登録するとともに、町字のヨミガナやローマ字を登録するようにしました。これにより、音声認識の正確性の向上やグローバル対応がしやすくなります。

制度のベース・レジストリは東日本大震災後に初期モデルが作られてから紆余曲折がありましたが、現在、個人と事業所向けの制度を公表しています。災害などが起こった時に行政機関が提供する支援制度情報を一元的に確認することができる仕組みができています。

法人のベースレジストリは既にgBizInfoで実現していますが、さらに、コロナ対策の時に事業所のベース・レジストリの必要性が指摘されました。基本設計後にチーム変更などがあり、まだ完成していないですが検討が進められています。

ベース・レジストリを推進するには国の基本データとして管理している既存のデータオーナーの府省と交渉する必要があり、時間がかかりますが、社会の基本情報なので時間がかかってでもじっくり取り組んできました。

一方、国のベース・レジストリとは別に地域のベース・レジストリや分野のベース・レジストリを作ろうという動きが出てきており、適宜相談に乗ってきました。

AI

AIは、活用に関する情報収集を行うとともに身近なところで試行をしてきました。世界ではAIの開発を促すために行政機関が率先してAIの活用を図っています。
数年前に国会議事録を教師データとした答弁作成支援システムの検証を行いましたが、デジタル庁では、SNS分析、自動議事録作成、自動翻訳などの試行してきました。
それらを踏まえた、AI社会に置けるデータ基盤の検討を行っています。

LegalTech

データ戦略を推進している中で並行して取り組んできたのがLegalTechです。データ担当がなぜ法律かと思われるでしょうが、実は、法律や規制とデータは深い関係があります。法律によって、社会の中で使われるデータが定義されたり、報告に基づく申請、許認可、報告などが発生します。これまでの法令は紙を前提にしていることが多く、データを前提に見直すことが必要になります。また、法律に関しては関連の国会質疑、判例、実施要領など多くのデータが関係し、データリソースの整備という面でも重要です。
海外動向の整理などを行い、庁内外の検討に協力してきました。

データ戦略の見直し

社会の動きや海外のデータ戦略の推進が加速している一方国内整備も進んできたことを踏まえ、2022年9月からデータ戦略の見直しに取り組みました。国境を越えたデータスペースが推進され、そのためのビルディングブロック群や、関連した法律もデータも整備できている欧州の取り組みを踏まえ、国内状況の再整理に取り組んできました。

また、AIの急速な技術進歩もあり、データの供給量の増加が求められています。ベースレジストリ、ハイバリューデータセットだけでなく行政データ全体の見直しやオープン・バイ・デフォルトの再確認が必要なことを整理しました。

一方、データ辞書やコード一覧の整備、ドメイン一覧、DoIやUUIDの在り方、ロケーションデータなど、重要な論点を出すところまでやりました。今後抜け漏れなく検討を進めるために論点を洗い出すことも重要だと思います。

今後に向けて

なんだかずいぶんいろいろ突破してデータの基盤はかなりできてきました。先日、情報処理学会の2022年業績賞でGIFの取り組みを表彰していただきましたし、共通語彙基盤は2016年のJDMCの特別賞、文字情報基盤は2017年のデジタルコンテンツ・アワードをいただくなど外部からも高い評価をいただいてきました。

しかし、課題は次々と出てきます。
今後は、データだけでなく、幅広く担当することになりますが、現在の積み残し案件を含めて、デジタル社会の基盤整理に貢献できればなと考えています。

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