100年先を見てみないか
100年先って、はるか先と思っているかもしれないけど、今日生まれた人が100歳まで生きることもあるし、建物も100年住宅とか言っているし、すぐそこなんですよね。
大学出てから定年するまで50年弱なので、100年って長いように感じますが、データという視点で考えると、戸籍データや不動産データは100年後も使われるわけだし、今、考えなければいけない課題なんです。
みんな真剣に考えていないのでは
未来を見ようといっても、そんなこと言ったって今日が大変なんですという人は多いです。今年度の成果はどうしたらよいか、中期5年計画をどうしたらよいかというところに追われています。先日も某所で、「10年先、グローバルに考えるなんて無理だ、うちは1年先、国内だけ見るのが精いっぱい」と言われました。
でもそれでよいのでしょうか。問題先送りしても、いつかは何とかしなければいけない時期が来ます。その時に対応できるのでしょうか。
今から150年前の明治時代に日本の制度の骨格が作られましたが、今の戸籍、商業登記、不動産登記ともに、パッチ的な修正で課題解決を先送りしてきたので大きなひずみを抱えています。
デジタル化という大きな波をとらえて、抜本的に社会システムを変えていく必要があるのではないでしょうか。
100年後ってどんな社会か知っていますか
そこまで自分の寿命はないというかもしれませんが、自分のお子さんやお孫さんが生活する社会です。
よく、温暖化の話が話題になります。対策などの取り方にもよりますが、2100年時点で最悪の場合3.5-6.4度の平均気温の上昇が予測されています。また、海面水位は、60cm程度上昇すると予測されています。
これもすごい影響ですが、人口の予測もすごいです。
中位推定でも、100年後は5000万人を切ると予想されています。また高齢化率も高くなります。このグラフを見てもわかるように、2030年から2050年の間に急速に高齢化が進みます。一方、世界人口の増加は進むので1.2億人/77億人(1.5%)が0.5億人/110億人(0.5%)になります。
生活場面を見ると、空家率が年々上昇しており、総務省「住宅・土地統計調査」では2023年13.8%であったものが、野村総合研究所のシミュレーションによると2038年で21.1ー31.5%と推定されています。
また、日本の赤字の財政も心配ですし、今後数十年以内に首都直下や南海トラフなどの大規模地震が来るという予測もありますので、その影響も受けると考えられます。
さて、そろそろ本気で取り組まないと
大変な変化を迎えるわけですが、前向きに取り組みを進めれば明るい未来が見えてきます。
世界ではAIに雇用が奪われるとネガティブな話題になっていますが、日本では労働人口が減るので、AIやロボットによるサポートは明るい話題ととらえることもできます。すでに多くの業界で人手不足が始まっており、ここで新たな産業が生まれるかもしれません。
人口が減り、空家が増える状況もうまく誘導することで、今より広い家に住めるかもしれません。家を撤去し土地に戻してAIと組み合わせた都市型農業をするというのもあるかもしれません。
また、将来に向けて日本では様々なところで実証実験をしていますが、もっと大胆に取り組みを進めてもよい気がします。先週行ってきたサンフランシスコでは、すでに無人の自動運転タクシーがお客さんを乗せて普通に走っていました。渋滞の中でも普通の車と変わらない動きをしており、こうした実証でさらにデータやフィードバックを集め、本格展開への布石を打っています。
データという点で100年後を見てみると
このように大きく社会が変わっていきますが、データという視点で見ると、また違った課題や可能性が見えてきます。
氏名や個人データを考えると、よく戸籍の本籍ってどうなっているのでしょうかという質問があります。本籍地って皇居にしたり甲子園にしたりしている人がいますが、この仕組みは残していくのでしょうか。また、戸籍法改正で氏名にヨミガナが付くようになりますが、アルファベット表記はどうするのでしょうか。訓令式、ヘボン式の違いもありますし、小野さんと大野さんはともにOnoさんになるとか課題があります。6万文字の登記の氏名漢字を1万文字増やすという議論もあります。一方、社会の多くの場面で使われる名札では漢字以外での表記が広がってきています。人口減の影響で外国人比率が増える影響もあるかもしれません。また、夫婦別姓の議論もあります。先日、夫婦別姓が導入されないと2531年に日本国民がみんな佐藤さんになるという論文が公表されていました。
100年後の5000万人の社会にむけて、どのように氏名は管理、活用されていくべきか考えていく必要があります。
不動産も相当難解です。不動産取引で使う地籍と日常生活で使う地名表記が二重にあり、しかも、番号に枝番が付いたり、同じ番地に2件家があったり、柔軟な運用がされています。また、再開発地区だと、ビルの不動産登記と土地の登記を結びつけるのが難しいこともあります。
不動産は形状データを扱う必要があるとともに土地境界が不確定の問題もあり、データの複雑度が非常に高いです。
相続をするにしても、空家の対策をするにしても、災害対策するうえでも、100年後までには、土地や建物のハンドリングも簡潔にしたいものです。
行政の情報は、人、土地とともに法人情報が基本となりますが、これも難解です。法人情報は管理されていますが、本店所在地情報のデータがアップデートされていない法人があるなどの課題があります。さらに、個人事業主の定義がなく、事業所情報を管理する仕組みもないために、新型コロナウイルス感染症の時に店舗情報を集めて確認することが困難でした。行政機関はもちろん、ほとんどの民間組織は取引先管理で法人情報を収集、メンテナンスをしていますが、こうしたものも社会全体で効率化していくことが人口減少社会であり労働力減少社会では求められてくるのではないでしょうか。
行政の持つ基本データだけでなく、各企業が持つデータの整備も必要です。社員が変わっても簡単に事業が継続できるようにデータの整備をしていくことが重要です。データを整備することでAIなどの最新技術が導入しやすくなり、標準的なデータを整備することでグローバルや他社との取引も効率的にすることができるようになります。
100年後を展望したデータを社会全体で整備していくことで、いつでもだれでも正確なデータを入手、活用できるようになり社会全体の効率化、最新技術の導入、イノベーションの創出がしやすくなります。中長期展望の下で、先進各国では、100年先ではなく、2030年までにデータ駆動社会を構築しようとデータ戦略を推進しています。2030年までに基礎データとそれを管理する仕組みを整備することとしており、データ自体の整備や更新には時間がかかりますが、まさに100年先を見据えた社会整備を推進しています。
日本のデータ戦略も2030年を目指して進めていますが、社会的なムーブメントとしてデータ整備に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
技術のサポートで何とかなるのでしょうか
「データなんてAIが変換や修正してくれるから頑張って整備する必要はない」と、デジタル技術の専門家でさえ言うことがあります。
それは、ある程度の条件がそろえば実現できます。
しかし、「霞が関」「霞ヶ関」のどちらが正確な地名なのかはAIでも判断が難しいです。今、整備が進められているアドレス・ベース・レジストリが完成して運用されれば、AIは正しい地名を選ぶことができます。こうしたデータ処理を正確かつ効率化するために、ベース・レジストリの整備が進められています。行政機関が正確性や最新性を保証したデータを提供する取り組みです。欧州では10年以上前に取り組みが進められ、ほぼ整備が終わっています。(欧州では、さらにハイバリューデータセットといわれる、リアルタイムデータを含む行政機関の持つ社会的価値の高いデータの公開も進めています)
これらのデータが基礎データになることにより、AIなどのサポートを受けて社会全体を効率的に維持、運営できるようになります。つまりは人口が大きく減る社会においても少ない人数で社会の維持ができるようになります。
すでにその片鱗は見え始めています。アドレスベースレジストリを政府が作ったことにより、住所データ修正、変換サービスが複数社できてきており、さらに、このデータを使うユーザー企業が増えるという好循環が生まれ始めています。
1のオリジナルデータ→nのサービス事業者→n×mのユーザ企業
という価値を生み出す流れです。
こういう行政データ整備とエコシステムを進めていくことが重要です。
一方、AIで判断しにくいものに氏名などの固有名詞データがあります。ヨミガナがない氏名データだと「寿美恵子」の氏名は、(すみ けいこ)と(ことぶき みえこ)のどちらの可能性もあり、氏名の切り分けもヨミも判断することができません。もっと頻繁に起こる身近な例では「裕」を(ゆたか)(ひろし)のどちらと読むか、本人に確認しないとわからに例があります。キラキラネームとかも自動でのヨミガナ付与は難しいです。
もちろん技術のサポートで、データの修正や変換をすることは可能で、大きな可能性を持っています。
しかし、課題のあるデータを作り続け修正でしのぐよりも正しいデータを登録し、アップデートし続けるエコシステムを作ることが本来あるべき取り組みです。
障壁は何でしょうか
100年後に備える取り組みに対する障壁は、ビジョンの欠如と、慣性力と、変更したくないマインドセットではないでしょうか。
ビジョンの欠如
100年後にどうなるというビジョンがないので、現在とのギャップが明確にならず、課題に気が付きません。氏名管理はどうあるべきか、不動産管理はどうあるべきか、法人管理はどうあるべきか、自社のデータ管理はどうあるべきか、単に運用方法を見直すだけでなく、100年後にどのような管理が求められ、人口が半数になったときに実現可能なのか考えていく必要があります。利用者も半数になるのかもしれないので、それも加味する必要があります。
将来像として「みんなが幸せな社会」とかがよく示されますが、それはビジョンではなく理念でしかありません。もっと現状とのギャップを明確にするため、「5000万人で、今のインフラを維持し、国際競争力を維持し、個人の能力を生かせる社会」などの具体像にしていく必要があります。
慣性力
今まで問題なかったから、今のままで変えないという話をよく聞きます。でもそれで100年後にも問題がないか考えていく必要があります。
例えば、何気なく継続している行政機関の公印は、公印省略や印刷による公印が増えていますが、公印はそもそも必要なのでしょうか?電子証明書や行政サイトでの証明情報の公開のほうがはるかに簡易で真正性を証明できます。何をしたいのかという本質を見極めることが重要です。
変更したくないマインドセット
基本制度になるほど変更手続きが大変で、詳細な議論が必要になるので、変更に否定的な人が多くなります。公務員の場合、自分の任期中にはやりたくないという人も多いです。
こういう人たちは、ひたすら課題とリスク、できない理由を並べてきますが、「どうしたら解決できるのか」という質問を繰り返しマインドセットを変えていく必要があります。多くの人が無言になり、中には切れてしまう人もいますが、変更したくないというのには合理的理由はほぼないので根気強く話すことが重要です。また、将来像を具体的に話すことが重要です。文字の統一プロジェクトを開始したときに各社が反対しいている中で、「協力できない」と言われたのに対し、「会社の立場はよくわかりました。では、あなた個人に質問したいのですが、あなたはこのプロジェクトに反対したことを、お子さん、将来はお孫さんに、胸を張って言えますか?数十年先になんでこんなに不便な仕組みなんだと質問されたときに、どう答えますか」と質問したところ、社内を説得して協力を取り付けてもらえました。
マインドセットを変えるのは大変ですが、100年先の課題を解決するには大切な取り組みです。
100年後のベストシナリオ
では、どういう社会を目指していくかというと、不確定要素が多くて何とも言えないですが、データが安全を確保したうえで自由自在に使えて、誰もが自分のポテンシャルを使いこなせる社会ではないでしょうか。
仕事でも生活でも何か思いついたときに、必要な情報やアドバイスを受けて、実現に向けて取り組みを始められ、継続できる。また、フレキシブルに目標設定を変えることもできることも重要です。
5000万人の社会では、必要なルーティーンな作業はAIなどにやってもらい、自分は得意分野や興味のある分野を追求する。その結果として、社会や技術に変化が生まれてくるようなエコシステムが重要です。
そのための大胆な制度の見直しと、本格導入を前提とした実証、継続的改善が必要になります。こうした取り組みには、変化を先読みしたアプローチが求められます。
100年後のワーストシナリオ
明治以来の社会の基本ルールがほとんど変えられないまま課題にパッチを当てながら使い続け、明治以来の150年+今後の100年の250年の課題のままでデジタル化のメリットを活かせない社会です。行政手続きは無駄が多く、何かをしようとしても正確なデータを入手できることができず、データ整備や制度改革の進んだ各国に置いて行かれた社会です。
そうした社会では、起業家は環境整備の進んだ世界に出ていってしまい、ますます改革が進まない社会になってしまう可能性があります。
後ろを見ながら仕事をするより、前を向いて仕事をしよう
今日明日の課題を解決することは当然大切です。しかし、並行して中長期の課題に対して早めに投資する必要があります。
2030年はそうした意味で大きな転換点と考えられます。現在進めている日本や世界のデジタル戦略の結果が明らかになるとともに、日本は高齢化率が急速に高まる時期に差し掛かります。
2120年を考えるとともに、そのために2030年にどうあるべきか考えることが、今、求められているのではないでしょうか。
そのために、後ろを見ながら仕事をするより、前を向いて仕事をすることが重要と感じています。今は、後ろしか見ていない人が多すぎです。
・既存のデータがあるから最新モデルに直せない。
→100年のうちに、いつか直さなければいけない時が来ます。
・使えない人が出てくる。
→新しくしたら、みんな慣れます。技術もサポートします。
・法律がある。
→100年先を見て、変えればよいのではないですか。
・他のシステムや制度と調整が必要になる
→調整しましょう。
・昔からやっている
→紙からデジタルに社会が変化しているので見直しましょう。
・そんなに合理的に考えられない
→人口が減る中で合理的にしないと社会が回らないんです。
改革に取り組まない多くの理由は、「今やらなくても何とかなる」という楽観的な展望です。すでに時間的余裕がないということもありますが、早く取り組んで損をする話でもないので、前を向いて先取りした取り組みをしたいものです、
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